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第2章.『vice versa』アウロニア帝国編
1 ウビン=ソリス《太陽の都》 ①
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凱旋のパレードは非常に盛大だった。
ウビン=ソリスに向けての街道の行軍が首都に近づにつれ、段々と皇軍を含めた軍隊の帰りを迎える盛大な拍手と歓声が、彼らを迎えた。
石畳の道路には賑やかな音楽隊や屋台が立ち並び、そこかしこに軍の働きを讃える垂れ幕や看板が立ち並んで、老若男女問わずの人々でごった返していた。
ゼピウス国を制圧し、アウロニア帝国に更なる富をもたらした将軍ニキアス=レオスが率いる皇軍『ティグリス』は、他の隊より更に多くの切花の吹雪を受ける事になったのだ。
特に出陣の際は黒い仮面をしていたのが、帰還の際には薄い面布のみで美しい顔を晒した将軍ニキアス=レオスが通る際は、一際女性の大きな歓声がそこかしこで聞こえ、興奮のあまり卒倒する女性が続出したのだった。
****************
ニキアスは直ぐに、アウロニア皇帝ガウディ陛下に謁見する事となった。
「此度の戦、大変大義であった」
謁見の間にある玉座に座るガウディは、椅子の肘掛けに置いた指をトントンと規則的に鳴らし、姿勢を崩したままニキアス=レオス将軍の戦果の報告を受ける事になった。
30歳を僅かに過ぎた位で痩身、長身の――どこかカマキリを思わせる容貌だ。
真っ黒な光を映さない瞳をしており、美貌のニキアスとはほとんど似ている部位は無い。
強いて言えば黒い髪の色だけである。
ニキアスの懐からゼピウス国の玉璽から取り出されると、皇帝の側近はうやうやしく受け取り、ガウディの元に運んだ。
ガウディは側近に大きな刃の斧を持ってこさせると、玉璽を床に置いた。
ガウディ自ら大斧を振るって皆の目の前で玉璽を派手に破壊すると、目を猫の様に細めて満足気に笑った。
それは皇帝ガウディが今回の戦争の成果をまずまず認めた証拠でもあった。
*****************
「なんでも好きなものを取らせよう」
褒美は何が良いか?
持っていた斧を家臣に渡すとガウディ皇帝は再びドサリと椅子へ身体を沈め、下を向いたまま跪いている将軍ニキアスに問うた。
「はい。では、此度の戦で攫ってきた第二王女を私めにいただきとうございます」
「第二王女…?マヤ王女のことか?」
「そうです。私と彼女はかつて許嫁であり縁のある仲です。このまま彼女の身受けをしたいと思っております」
「ほう…」
ふっとガウディは笑った。
彼の望みは『イェラキ隊に戻りたい』だと思っていたからである。
(女できたか)
しかも敵国の元王女だ。
ガウディは思わせぶりに言葉を選んだ。
「…良いと言ってやりたい所ではある」
ニキアスがその言葉を聞いて更に平伏しようとしたその瞬間である。
「――が」
皇帝の次の言葉に、ニキアスの身体が僅かに傾いだ。
「我がその女の面通りをしてから決めよう。勿論、敵国の女は褒賞の対象だが、預言者という立場は図らずも厄介だからな」
「弟を心配する兄の気遣いだと思うがよい」
皇帝はニキアスを見下ろすように言った。
「今夜は先勝の祝賀会だ。戦の事後処理で将軍も疲れているだろうが、ほんの少しでも顔を出すが良いぞ」
ニキアスは下を向いたままで表情を変えなかった。
「…御意」
とだけ言って礼儀正しく礼をすると、皇帝の間を足を鳴らして立ち去った。
ガウディは可笑しくて仕方が無いというように、珍しくいつまでもくつくつと笑っていた。
****************
「マヤ様!アウロニアの市場ですよ!」
歓声に包まれながら皇軍は行進していったが、この馬車だけ途中でルート変更をしていた。
香辛料の匂いがする通りを馬車が通る。
大丈夫なのかしらと不安になったが、ナラは気にしていないようだった。
「ニキアス様の邸宅に直接行くそうです」
途中でナラは教えてくれた。
『マヤ王女を必ず貰い受けるつもりだから』
強いニキアスの意向があったのと、宮殿に連れて行けば、二度と連れ出せなくなるかもしれないと危惧した為であった。
首都よりもほんの少し郊外にニキアスの屋敷はあった。
馬車を降りて周りをみると、外部からの侵入者への警戒感からか邸宅の周りをぐるっと高い塀が囲んでいる。
ニキアスの自宅は、白い大理石と青銅と花崗岩でできた三階立ての広い邸宅だった。
(わ…ちょっと神殿チック…)
と思ったが、中は温かな色調の敷物がふんだんに敷かれて、リラックスできそうな設えだった。
暫く待っていたが、ニキアスはなかなか帰ってこなかった。
仕方が無くわたしは先に夕食を食べて、入浴も済ませてしまった。
夜も更けた頃、どうも屋敷の入口が騒がしい。
ニキアスがやっと帰って来らしい。
ニキアスに会うために、ナラと玄関まで降りてきたわたしは、困り顔になっている奴隷らと鉢合わせをしてしまった。
「マ、マヤ様!」
ニキアス宅の奴隷は一斉に平服しようとしたけれど、それを手で押しとどめて彼らに事情を訊いた。
「ニキアスは何処にいるの?」
「それが…何故か大変ご気分を害されていて、お一人で入浴するから入ってくるなと行ってしまわれました」
途方に暮れた様に、夕方わたしも使った――大きな浴室兼サウナのある部屋の場所を指した。
ニキアスは奴隷に身体を必要以上に触らせない。
暗殺対策とも言ってけれど。
(何かあったのかしら)
わたしはナラと奴隷達へ頷いた。
「いいわ…じゃあ、わたしが行ってみる」
ウビン=ソリスに向けての街道の行軍が首都に近づにつれ、段々と皇軍を含めた軍隊の帰りを迎える盛大な拍手と歓声が、彼らを迎えた。
石畳の道路には賑やかな音楽隊や屋台が立ち並び、そこかしこに軍の働きを讃える垂れ幕や看板が立ち並んで、老若男女問わずの人々でごった返していた。
ゼピウス国を制圧し、アウロニア帝国に更なる富をもたらした将軍ニキアス=レオスが率いる皇軍『ティグリス』は、他の隊より更に多くの切花の吹雪を受ける事になったのだ。
特に出陣の際は黒い仮面をしていたのが、帰還の際には薄い面布のみで美しい顔を晒した将軍ニキアス=レオスが通る際は、一際女性の大きな歓声がそこかしこで聞こえ、興奮のあまり卒倒する女性が続出したのだった。
****************
ニキアスは直ぐに、アウロニア皇帝ガウディ陛下に謁見する事となった。
「此度の戦、大変大義であった」
謁見の間にある玉座に座るガウディは、椅子の肘掛けに置いた指をトントンと規則的に鳴らし、姿勢を崩したままニキアス=レオス将軍の戦果の報告を受ける事になった。
30歳を僅かに過ぎた位で痩身、長身の――どこかカマキリを思わせる容貌だ。
真っ黒な光を映さない瞳をしており、美貌のニキアスとはほとんど似ている部位は無い。
強いて言えば黒い髪の色だけである。
ニキアスの懐からゼピウス国の玉璽から取り出されると、皇帝の側近はうやうやしく受け取り、ガウディの元に運んだ。
ガウディは側近に大きな刃の斧を持ってこさせると、玉璽を床に置いた。
ガウディ自ら大斧を振るって皆の目の前で玉璽を派手に破壊すると、目を猫の様に細めて満足気に笑った。
それは皇帝ガウディが今回の戦争の成果をまずまず認めた証拠でもあった。
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「なんでも好きなものを取らせよう」
褒美は何が良いか?
持っていた斧を家臣に渡すとガウディ皇帝は再びドサリと椅子へ身体を沈め、下を向いたまま跪いている将軍ニキアスに問うた。
「はい。では、此度の戦で攫ってきた第二王女を私めにいただきとうございます」
「第二王女…?マヤ王女のことか?」
「そうです。私と彼女はかつて許嫁であり縁のある仲です。このまま彼女の身受けをしたいと思っております」
「ほう…」
ふっとガウディは笑った。
彼の望みは『イェラキ隊に戻りたい』だと思っていたからである。
(女できたか)
しかも敵国の元王女だ。
ガウディは思わせぶりに言葉を選んだ。
「…良いと言ってやりたい所ではある」
ニキアスがその言葉を聞いて更に平伏しようとしたその瞬間である。
「――が」
皇帝の次の言葉に、ニキアスの身体が僅かに傾いだ。
「我がその女の面通りをしてから決めよう。勿論、敵国の女は褒賞の対象だが、預言者という立場は図らずも厄介だからな」
「弟を心配する兄の気遣いだと思うがよい」
皇帝はニキアスを見下ろすように言った。
「今夜は先勝の祝賀会だ。戦の事後処理で将軍も疲れているだろうが、ほんの少しでも顔を出すが良いぞ」
ニキアスは下を向いたままで表情を変えなかった。
「…御意」
とだけ言って礼儀正しく礼をすると、皇帝の間を足を鳴らして立ち去った。
ガウディは可笑しくて仕方が無いというように、珍しくいつまでもくつくつと笑っていた。
****************
「マヤ様!アウロニアの市場ですよ!」
歓声に包まれながら皇軍は行進していったが、この馬車だけ途中でルート変更をしていた。
香辛料の匂いがする通りを馬車が通る。
大丈夫なのかしらと不安になったが、ナラは気にしていないようだった。
「ニキアス様の邸宅に直接行くそうです」
途中でナラは教えてくれた。
『マヤ王女を必ず貰い受けるつもりだから』
強いニキアスの意向があったのと、宮殿に連れて行けば、二度と連れ出せなくなるかもしれないと危惧した為であった。
首都よりもほんの少し郊外にニキアスの屋敷はあった。
馬車を降りて周りをみると、外部からの侵入者への警戒感からか邸宅の周りをぐるっと高い塀が囲んでいる。
ニキアスの自宅は、白い大理石と青銅と花崗岩でできた三階立ての広い邸宅だった。
(わ…ちょっと神殿チック…)
と思ったが、中は温かな色調の敷物がふんだんに敷かれて、リラックスできそうな設えだった。
暫く待っていたが、ニキアスはなかなか帰ってこなかった。
仕方が無くわたしは先に夕食を食べて、入浴も済ませてしまった。
夜も更けた頃、どうも屋敷の入口が騒がしい。
ニキアスがやっと帰って来らしい。
ニキアスに会うために、ナラと玄関まで降りてきたわたしは、困り顔になっている奴隷らと鉢合わせをしてしまった。
「マ、マヤ様!」
ニキアス宅の奴隷は一斉に平服しようとしたけれど、それを手で押しとどめて彼らに事情を訊いた。
「ニキアスは何処にいるの?」
「それが…何故か大変ご気分を害されていて、お一人で入浴するから入ってくるなと行ってしまわれました」
途方に暮れた様に、夕方わたしも使った――大きな浴室兼サウナのある部屋の場所を指した。
ニキアスは奴隷に身体を必要以上に触らせない。
暗殺対策とも言ってけれど。
(何かあったのかしら)
わたしはナラと奴隷達へ頷いた。
「いいわ…じゃあ、わたしが行ってみる」
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