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光る原石

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(…に、逃げて来ちゃった…)


魔道具屋の美人店主とリオンが見つめ合うのを見て、千種は何とも言えない気分でいっぱいになり、思わず店を飛び出してしまった。

去り際、リオンが何か言った気がしたが。

追って来る気配もない。


彼女が、「長い付き合い」と言っていた。
もしかしたら、深い仲カレカノだったのかもしれない。
それは、現在進行形?

ー…自分がリオンの家に転がり込んだ関係せいで、中々会えなかったのかも。

めんどくさい弟子を、成り行きで取った愚痴?



どんどんと暗い考えに転がり、泣きそうになる。



**
ー…「本当なんだって!


あの魔導師さまが弟子を取っていたんだよ!」


トボトボと歩いていると、どこからか言い合いする声が聞こえて来た。

聞こえた内容からして、どうやら話題は自分らしい。



「へぇ。どんな奴だよ?

やっぱり根暗なのか?」



「ー…それがさぁ。
結構可愛かったぞ?



まだガキだけど、将来化けるかもな!」



「へぇ、あの魔導師さまも根暗な魔法オタクかと思えばヤる事やってんのか!」





(な、何?!この会話!)


物陰に隠れながら、会話のやり取りを聞く。
どうやら片割れは先程リオンと会話していた男だろう。
余りにも下世話な内容に憤慨するも、たった一人で息を巻き出て行った所で勝てるかどうか。


それでも、リオンが影で悪く言われるのは我慢出来なかった。


「ちょっと!!」


勢いに任せて飛び出した。
勝算なんか無いが、そんなものは今の千種には関係無い。




「ー…あ?」



ゴロツキ達は分かり易い睨み方をしながら、千種を見る。



ビクリ、と足をすくませるも。
もう遅い。後は果てるだけか。



「せ、先生を…。

リオン先生を下品に言うのは止めて!」



「なんだぁ?このガキ」



「おい!コイツだよ。例の魔導師さまの弟子は!」


凄んで来た男の後ろから声がした。
見ると、魔道具屋に入る前に会話した男だった。


「へぇ、コイツがねぇ。
確かに将来、化けるかな?


それにしても、あの魔導師さまがねぇ…」


目に涙をいっぱいに貯めて、睨み付ける千種をニヤニヤと面白そうに値踏みする。


「こっちに来て、魔法の1つでも見せてみろよ!お弟子さま?」


バカにされているのは明らかだが、千種が魔法を成功させたのは、あの1回きりだ。
ここで失敗すれば、また笑い者にされる。




(ー…先生は、この事を言ってたんだ…)


こんな下卑げひた連中の話は、また別だろうが結局は「リオンの弟子」を証明させる必要がある。

なら、魔法を覚えなくてはならないのに。
自分はソレがマトモにできないのだ。


情けなく、恥ずかしい。
リオンに顔向けも出来ない。



「お弟子さまー?」


「どうしたー?」



ハハハとムカつく笑い声を無視して、千種は呼吸を整える。




ー…そう。



全ては、助けてくれたリオンの為に。







「雨よ、降れ!!」




千種の叫びも寂しく、空は晴天のまま。




「雨、降らねーぞ!」



「しっかりしろよ!」



野次も気にしない。
ここまでは想定内だ。

先程、魔法が成功した時と同じ様に脳内に情景がイメージ出来た。
そしてー…。






「わー!何だこれ!」



目の前には、大量の飴が降り積っていた。


「成功した…」



2度目の成功に、千種はハッとした。

それなら!と、「風よ、吹け!」と叫ぶ。

やはり一陣の風も吹かない。




「なんか、ダルい、」


「頭が割れる!」


ゴロツキ達は次々に口走る。


「風邪、引いたんじゃ無い?」


「何?」

「私、まだ魔法のコントロール出来ないの。

風が吹かない代わりにアナタ達が風邪を引いたのよ」


ちゃんと、リオンは魔法を教えてくれたのだ。


そう睨みながら千種は説いた。


男達は何か捨て台詞を吐きながら退散して行った。



千種の勝利だ。
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