9 / 18
9
しおりを挟む目が醒めると、頭上は白かった。
「目が覚めた! 良かった……! 本当に良かった……!」
40代くらきの女性が泣きながら俺に抱きつく。
「先生方を呼んできますね」
白衣を着た女性。
ナースだろうか、俺は彼女を呼びとめる。
「あの……ここは病院ですか」
「えぇ、先程、緊急オペを行いました」
緊急オペ? なんで? 俺が?
何処か悪いのか?
腕を見る。
点滴チューブが付いている。
点滴の針先が、手の甲に刺さっている。
その、手の甲のすぐのプラスチックの部分からうっすら血がいったり来たり、、はしてないか。
少し血が出て溜まっている。
「緊急オペ、事故ですか?」
ナースに聞いてみたが彼女は神妙な顔持ちで応えようとしない。
俺があめりにも返答を促すから彼女は口を開いた。
「いえ? 先生からお話を伺ってください」
否定だけそれて、事実は知れなかった。
まぁ、先生……医者がくれば分かるという事らしいが、すこしでも早く事実を知りたい。
「貴女は何かご存知ですか?」
さっき、俺に抱きついてきた女性に問う。
「あなた……本当に記憶が無いのね」
目を晴らした女性はまた、さらに泣き始める。
目の前で40すぎの見ず知らずのオバさんが泣いてる図はなかなかカオスだ。
しかも、原因は見たところ俺らしい。
「は、はぁ……」
曖昧なリアクションしか取れない。
気まずい。
早く来いよ、医者。
そう、苛立ちを覚えはじめた頃、扉からジーと電気錠の音がした。
「佐藤さん、意識が戻ったそうだね」
白衣を着た男性が入ってきた。
彼が医者か。
「それはおれの苗字ですか?」
佐藤……日本国内で1,2位を荒らそう程に多い苗字。
そう、珍しくない苗字。
「あぁ、本当に記憶がないんだね……少し、テストをしよう」
いやいやだから、俺の話を聞けって、なんで俺はここにいるんだよ!
「あの、何故、俺はここに? 何故、緊急オペをされたんですか?」
医者にも聞く。
「それもわからないか、嘘を言っても仕方ないので、自殺未遂です」
「自殺……未遂」
何も、覚えていない。
自分の名前も年齢も経歴も想い出も、何も、ない。
「じゃあ、テストを始めるよ」
俺の意思は半ば無視され、医者は記憶喪失のチェックを始めた。
「アメリカの首都は?」
「ワシントン……ですよね?」
「これ、使い方わかる?」
ボールペンとノートを手渡される。
「こうですよね」
ボールペンをノックしてペン先を出し、ノートに滑らせる。
「うん。問題ないね。この数式は解ける?」
そう言って、意思は中学生くらい向けの数学のプリントの様な物を手渡した。
さっきのボールペンで数式を解く。
「うん。これも大丈夫だね」
その後にも幾つかの質問をされ、それらには難なく答えられた。
「自分の生年月日はわかる?」
「いえ」
「自分のフルネームは?」
「わかりません」
「じゃあ、今までで1番古い記憶」
「うーん、さっき目覚めた時の記憶?」
「それじゃあ、想い出の場所。お気に入りの場所でも良いよ」
「さぁ? 全く心当たりはないです」
「そうか……あれですね。解離性健忘の系統的健忘ですね。日常生活に支障をきたす忘却はありませんが、自分の名前や特定の人物や家族に関するすべての情報など、特定のカテゴリーの情報る記憶が抜けてしまっみたいですね……」
「そんな……」
「この症状は数分で終わる事もあれば、数十年間、中には一生思い出せない方もいます」
かいりなんとかだか、けいとうなんとかとか、
よくわからない難しい言葉が飛び交う。
40代女性はまた、泣き始め、視線の行き先に困った俺は窓を見てみた。
はっきりとは見えないが、自分が写っている。
20代前半だろうか。特別老けているわけでも無さそうだ。
そこまでブサメンな訳でも、女の子が好きそうな顔でもない。
何処にでもいそうな青年がそこには映っていた。
「それで……俺の名前は」
「君の名前は、佐藤 楓だよ」
「佐藤楓」
聞き覚えがある気もするが気のせいだろうか。
「今日は何年の何日ですか?」
確か今の元号は令和。
「今日は2020年の1月31日だよ」
そうですか……
ぽそっと呟き窓の外を見る。
確かに、木々は寒そうだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる