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思い出のままに。

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 サービスエリアで休憩中、レイはポメラを取り出して、今書いている恋愛小説の続きを打ち込んでいた。
 この間、仕事の途中で立ち寄った、印西市、吉高の樹齢四百年を超える大桜を舞台にしている。

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 その大桜は満開を過ぎ、時折吹く風のリズムにあわせ、
 夜空を背景として、雪のように花びらが降らせている。

 雫(しずく)は遅れまいと、少し前を歩く淳也の背中を追いかけた。
 彼のブレザーから出ているパーカーのフードに、花びらが舞い込んでいる。

 雫は、淳也に追いつき、フードに入った花びらを数枚、

・・・・・・・・・・・・・・・

 ここまで書いて、レイはあることを思い出した。

 渋谷に買い物に行ったとき。
 信号待ちの女子高生らしき二人組が、お互いの服を褒め合っていた。
 「そのフーディー、超かわいいね。色もあってるし。」

 その子が着ていたのは、レイの感覚で言えば、『パーカー』だ。
 今どきの女の子は、そう呼ぶのだろうか。
 念のため、スマホでいろいろとググってみる。

 わかったことは、
 ①パーカー : 毛皮などで作ったフード付きの防寒着
 ②フーディー: フード付きのスウェットシャツ
 日本では②のことをパーカーとも呼ぶ
 ということらしい。

 うーん、ということは、今書いているシーンでは、男の子はモサッとしたフード付きの防寒着をブレザーの下に着ていることになるのか?
 レイは想像して吹き出したが、モノ書きとしては、笑っている場合ではない。市場調査することにした。

 スマホで、制服のブレザーからフードを出している男子高校生の画像を探し出し、それを添付して、LINEグループ『トラガールの内緒話』に、メッセージとともに送る。

『ねえ、この男の子がブレザーの下に着てるの、何て呼んでる?』💬と。

 全員からほぼ即答で答えが返ってきた。

  ラナ(22歳)💬『フーディーね。』

  リョウ(25歳)💬『何かの罠か?・・・パーカーだろ。』

  ルカ(24歳)💬『パーカーって呼んでる。』

  ロマン(23歳)💬『パーカーとか、フーディーとか。』

 レイはお礼のメッセージを入れる。

 『サンキュ! どうやら年とってるほどパーカーみたいだね。』💬

 リョウ💬『おまえ、オレに喧嘩売っているのか!』

 いや決してそういうわけでは、ごめん、とメッセージを入れて、スマホを置いた。

 何となくパーカーの方が多数派かな?
 でも、若い子ほどフーディー呼びかな?

 レイは、悩みながら、運転席の背もたれを倒し、頭の後ろで手を組んだ。
 目をつぶる。そして、自分が高校生の頃を思い出す。

 二年生に進級して間もないころ。

 下校途中。どこからともなく桜の花びらが舞い降りている。
 歩いていると一瞬、制服から出ているフードが引っ張られたような気がした。

 振り返ると、この春から同じクラスになった男の子が立っている。
 指先には、桜の花びらが二枚。

「パーカーのフードに入ってたよ。」
 同級生は微笑んでそう言った。

 それがレイの初恋だった。

 パチッと目を開ける。

 ポメラのキーボードで、一旦、
『パーカー』→『フーディー』
 と一括変換した単語を
『フーディー』→『パーカー』
 に戻した。
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