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マミルの居眠り
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クラスで一番秀才の瀬川さんが教科書の英文を読み上げる。なかなか流暢だが、その声が蒸し暑く重い空気の中を伝わってくるせいで、少しうっとうしく感じる。夏休み中の工事を終え、ようやく全教室にエアコンが設置されたものの、温暖化対策とやらで、「熱射病にならないギリギリの線」で温度設定されているようだ。
二学期が始まり、普段と変わらない学校生活に戻った。ぼくは勉強自体は嫌いじゃないけど、授業をじっと聴いているのは苦手だ。抜き打ちで質問しても答えられる程度に耳を傾けながら、生物など自分の好きな科目のノートを開いたり、余白にその時思いついた妄想を書きとめたりしている。「林田 真美瑠」。無意識のうちにノートにそう書いていた。その横に、マミル、マミ、ミル、と書き加えた。彼女のことを何て読んだらいいのか、いや普通に林田さんでいいじゃん、などと思案していると、夏休みのダラダラゴロゴロ生活が祟ったのか、瞼が重くなってきた。うっかりモノを落とすと居眠りがバレるので、シャーペンを机の上に置いて、教科書を読んでいるように見えるよう、顔の角度を調整し、目を閉じる。
カシャン。
隣の席から何かが転げ落ちる音がして、あわてて顔を上げる。
ぼくの足もとには、マミちゃん(暫定呼称)の茶縁の眼鏡が落ちている。拾って渡そうと隣の席を向くと。マミちゃんは机に突っ伏して寝ているではないか。両手を交差して、そこに顔をうずめているが、影絵のキツネをつくるように、右手の親指に中指と薬指をつけている、多分そこに眼鏡は収まっていたのだろう。夏休み明け早々、そして転校してきて早々、なんと大胆な。
生徒の健康のことを考えてか、放任主義なのかはわからないが、この学校では授業中に居眠りしていても注意を受けることはあまりない。ましてや、チョークが飛んで来たり、教科書で頭をポンポンされることもない。それは体罰にあたるのかも。
ぼくは仕方なく眼鏡を拾うとマミちゃんの机の上にそっと置き、黒板に向き直る、とその時。ン? 何か視界の端の方で、チラチラと動くものがあるぞ? ぼくはゆっくり視線を斜め後方に向ける。
丸まったマミちゃんの背中の後ろで、ゆらゆら揺れているのは・・・どう見てもシッポだ。太めの白黒のストライプで、モフモフ感が半端ない。「目を疑う」とは、まさにこういう時に使う言葉だ。この現実をどう受け止めればいいのか? 周りを見回す。ぼくとマミちゃんの席が最後列でもあるため、この異変に気がついている生徒はいないようだ。
「オホン。」
美人でわりと人気のある英語の先生が咳払いする。それに合わせ、隣の席で変化が起きた。シッポはシュルンと消え、マミちゃんが慌てて上体を起こす。きょろきょろと見回すと、ぼくと目が合った。腕を枕代わりして突っ伏していたため、おでこが赤くなっている。そこをさすりながら「エヘヘ。」と照れ笑いする。
マミちゃんは、シッポを見られたことに気づいたのか? 気づいてないのか? どっちにしても、この事実をどう捉えればいい? 動揺でぼくの「ながら授業傾聴機能」は停止した。だいたいこういう時に限って、ぼくを名指しで質問が飛んでくるのだ。 美人先生の質問に、英語で当てずっぽうに答えると、美人先生は「英語を日本語に訳して、と言ったのよ」とクスリと笑う。クラスメイトも笑いと拍手で応えてくれた。実にいいクラスだ。マミちゃんは、両手を合わせ、ごめんなさいポーズをして、エヘヘ、と笑った。
二学期が始まり、普段と変わらない学校生活に戻った。ぼくは勉強自体は嫌いじゃないけど、授業をじっと聴いているのは苦手だ。抜き打ちで質問しても答えられる程度に耳を傾けながら、生物など自分の好きな科目のノートを開いたり、余白にその時思いついた妄想を書きとめたりしている。「林田 真美瑠」。無意識のうちにノートにそう書いていた。その横に、マミル、マミ、ミル、と書き加えた。彼女のことを何て読んだらいいのか、いや普通に林田さんでいいじゃん、などと思案していると、夏休みのダラダラゴロゴロ生活が祟ったのか、瞼が重くなってきた。うっかりモノを落とすと居眠りがバレるので、シャーペンを机の上に置いて、教科書を読んでいるように見えるよう、顔の角度を調整し、目を閉じる。
カシャン。
隣の席から何かが転げ落ちる音がして、あわてて顔を上げる。
ぼくの足もとには、マミちゃん(暫定呼称)の茶縁の眼鏡が落ちている。拾って渡そうと隣の席を向くと。マミちゃんは机に突っ伏して寝ているではないか。両手を交差して、そこに顔をうずめているが、影絵のキツネをつくるように、右手の親指に中指と薬指をつけている、多分そこに眼鏡は収まっていたのだろう。夏休み明け早々、そして転校してきて早々、なんと大胆な。
生徒の健康のことを考えてか、放任主義なのかはわからないが、この学校では授業中に居眠りしていても注意を受けることはあまりない。ましてや、チョークが飛んで来たり、教科書で頭をポンポンされることもない。それは体罰にあたるのかも。
ぼくは仕方なく眼鏡を拾うとマミちゃんの机の上にそっと置き、黒板に向き直る、とその時。ン? 何か視界の端の方で、チラチラと動くものがあるぞ? ぼくはゆっくり視線を斜め後方に向ける。
丸まったマミちゃんの背中の後ろで、ゆらゆら揺れているのは・・・どう見てもシッポだ。太めの白黒のストライプで、モフモフ感が半端ない。「目を疑う」とは、まさにこういう時に使う言葉だ。この現実をどう受け止めればいいのか? 周りを見回す。ぼくとマミちゃんの席が最後列でもあるため、この異変に気がついている生徒はいないようだ。
「オホン。」
美人でわりと人気のある英語の先生が咳払いする。それに合わせ、隣の席で変化が起きた。シッポはシュルンと消え、マミちゃんが慌てて上体を起こす。きょろきょろと見回すと、ぼくと目が合った。腕を枕代わりして突っ伏していたため、おでこが赤くなっている。そこをさすりながら「エヘヘ。」と照れ笑いする。
マミちゃんは、シッポを見られたことに気づいたのか? 気づいてないのか? どっちにしても、この事実をどう捉えればいい? 動揺でぼくの「ながら授業傾聴機能」は停止した。だいたいこういう時に限って、ぼくを名指しで質問が飛んでくるのだ。 美人先生の質問に、英語で当てずっぽうに答えると、美人先生は「英語を日本語に訳して、と言ったのよ」とクスリと笑う。クラスメイトも笑いと拍手で応えてくれた。実にいいクラスだ。マミちゃんは、両手を合わせ、ごめんなさいポーズをして、エヘヘ、と笑った。
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