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後編
②
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唇に何度も柔らかいものが押しつけられているのを感じ、俺はいつの間にか閉じていたらしい目を開く。鮮明になっていく視界に映るのは見慣れた美しい青い瞳。
「おはよう、レニー。遅くなってごめんね」
「……おはよ……おかえり……なさい」
「うん、ただいま」
どうやら俺は本を読んでいるうちに眠ってしまったらしい。頭だけ動かして窓の方を見ると、外はすっかり暗くなっていた。今は何時くらいだろうかとまだぼんやりしている頭で考えていると、ナタリオが額に口づけてくる。
「レニー、ご飯できたよ。食べようか」
「……あー……はい。ありがとうございます」
朝から仕事に行っていたのに夕飯まで作ってくれたことに申し訳なさを感じながら、俺はゆっくりと身体を起こして立ち上がる。たしかに家事は任せるという約束だったけど、それでもやっぱり申し訳ない。
だけどそのこと以上に、今の俺は申し訳なさを募らせていく。ダイニングに着き椅子に座ったはいいが、あまり食欲がないのだ。
「レニー? どうかした?」
「……あ、すみません。あんまり腹減ってなくて……せっかく作ってくれたのに……」
「それは気にしなくていいけど……。昼ご飯も残ってたし……具合でも悪い?」
「いえ……そういうわけではないんですけど……」
怪我も完治したし、身体はすこぶる健康だ。ただなんとなく、食欲が出ないだけ。レニーさんの記憶が身体に戻り始めたことで、俺の心の中がぐちゃぐちゃになっているからだろうか。俺にそんな繊細な面があったなんて自分でもちょっとびっくりだ。
なんて心の中で自嘲していると、ナタリオが俺の身体を抱き上げ――俺はあっという間に彼の膝の上に乗っていた。
「うわっ!? な、なん……っ」
「どうしても食べたくないのなら無理はしなくていいけど……せめてスープひと口だけでも、飲んでほしいな」
困惑しながらナタリオを見上げると、彼は心配そうな笑みを浮かべながらスプーンでスープをすくい俺の口元に運んできた。鼻孔をふわりといい匂いが刺激して、少しだけ食欲が回復する。
「……わかりました」
素直に口を開けると、ナタリオがスプーンを俺の口の中に入れた。ごくんと飲みこむと、優しい味がして心がほっとする。
「どう? 食べれそうかな?」
「あ……はい。もう少しだけ……」
「うん、いいよ」
ナタリオは優しく微笑んで、再び俺の口にスープを運ぶ。俺はまた口を開けて彼に食べさせてもらう。ひと口、もうひと口と食べさせてもらううちに、食欲がまた少しずつ回復していく。スープが半分ほど減ったころには食欲が戻っていた。もうそろそろ自分で食べると言わないといけないと思い始めたが……なんとなく言いたくない。
温かくて美味しいスープをまたひと口飲みこみ、ナタリオの顔を見つめる。俺の口に運んだのと同じスプーンで自分の分のスープを食べた彼は、俺の視線に気づくと口角を上げた。
「次はどれを食べたい?」
「あ……じゃあ、そこの……」
反射的に答えると、ナタリオはフォークに持ち替えて楽しげに指定した料理を俺の口に運んでくれる。俺が咀嚼していると、ナタリオは同じフォークで自分の分も口に運んだ。もぐもぐと咀嚼し飲みこんだ彼は、料理を切り分けながら口を開く。
「あはは。なんだ、僕に食べさせてもらいたかったんだね、レニー? それならそう言ってくれればよかったのに」
先ほどまでは本当に食欲がなかったのだが、なんとなく否定したくなくて俺は曖昧に笑い返す。だけど昼間は全然食欲がなかったのに、今はもっともっとと昼に取り損ねた栄養を取り戻すかのように腹が空腹を訴え始める。
「ナタリオ。次は……チキンをお願いします」
「うん、もちろん。ほら、口を開けて……」
最初はあんなに恥ずかしかったのに。俺はすっかりこの行為に慣れて、むしろ楽しみ始めているのかもしれないな。そんなことを考えながら、俺はナタリオに食べさせてもらいながら夕食を取った。
「おはよう、レニー。遅くなってごめんね」
「……おはよ……おかえり……なさい」
「うん、ただいま」
どうやら俺は本を読んでいるうちに眠ってしまったらしい。頭だけ動かして窓の方を見ると、外はすっかり暗くなっていた。今は何時くらいだろうかとまだぼんやりしている頭で考えていると、ナタリオが額に口づけてくる。
「レニー、ご飯できたよ。食べようか」
「……あー……はい。ありがとうございます」
朝から仕事に行っていたのに夕飯まで作ってくれたことに申し訳なさを感じながら、俺はゆっくりと身体を起こして立ち上がる。たしかに家事は任せるという約束だったけど、それでもやっぱり申し訳ない。
だけどそのこと以上に、今の俺は申し訳なさを募らせていく。ダイニングに着き椅子に座ったはいいが、あまり食欲がないのだ。
「レニー? どうかした?」
「……あ、すみません。あんまり腹減ってなくて……せっかく作ってくれたのに……」
「それは気にしなくていいけど……。昼ご飯も残ってたし……具合でも悪い?」
「いえ……そういうわけではないんですけど……」
怪我も完治したし、身体はすこぶる健康だ。ただなんとなく、食欲が出ないだけ。レニーさんの記憶が身体に戻り始めたことで、俺の心の中がぐちゃぐちゃになっているからだろうか。俺にそんな繊細な面があったなんて自分でもちょっとびっくりだ。
なんて心の中で自嘲していると、ナタリオが俺の身体を抱き上げ――俺はあっという間に彼の膝の上に乗っていた。
「うわっ!? な、なん……っ」
「どうしても食べたくないのなら無理はしなくていいけど……せめてスープひと口だけでも、飲んでほしいな」
困惑しながらナタリオを見上げると、彼は心配そうな笑みを浮かべながらスプーンでスープをすくい俺の口元に運んできた。鼻孔をふわりといい匂いが刺激して、少しだけ食欲が回復する。
「……わかりました」
素直に口を開けると、ナタリオがスプーンを俺の口の中に入れた。ごくんと飲みこむと、優しい味がして心がほっとする。
「どう? 食べれそうかな?」
「あ……はい。もう少しだけ……」
「うん、いいよ」
ナタリオは優しく微笑んで、再び俺の口にスープを運ぶ。俺はまた口を開けて彼に食べさせてもらう。ひと口、もうひと口と食べさせてもらううちに、食欲がまた少しずつ回復していく。スープが半分ほど減ったころには食欲が戻っていた。もうそろそろ自分で食べると言わないといけないと思い始めたが……なんとなく言いたくない。
温かくて美味しいスープをまたひと口飲みこみ、ナタリオの顔を見つめる。俺の口に運んだのと同じスプーンで自分の分のスープを食べた彼は、俺の視線に気づくと口角を上げた。
「次はどれを食べたい?」
「あ……じゃあ、そこの……」
反射的に答えると、ナタリオはフォークに持ち替えて楽しげに指定した料理を俺の口に運んでくれる。俺が咀嚼していると、ナタリオは同じフォークで自分の分も口に運んだ。もぐもぐと咀嚼し飲みこんだ彼は、料理を切り分けながら口を開く。
「あはは。なんだ、僕に食べさせてもらいたかったんだね、レニー? それならそう言ってくれればよかったのに」
先ほどまでは本当に食欲がなかったのだが、なんとなく否定したくなくて俺は曖昧に笑い返す。だけど昼間は全然食欲がなかったのに、今はもっともっとと昼に取り損ねた栄養を取り戻すかのように腹が空腹を訴え始める。
「ナタリオ。次は……チキンをお願いします」
「うん、もちろん。ほら、口を開けて……」
最初はあんなに恥ずかしかったのに。俺はすっかりこの行為に慣れて、むしろ楽しみ始めているのかもしれないな。そんなことを考えながら、俺はナタリオに食べさせてもらいながら夕食を取った。
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