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前編
⑤
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「ほらレニー、サラダも食べようか」
俺がサラダに手をつけるよりも先に、ナタリオが俺の分の皿に乗っていたサラダをフォークで刺す。俺が声を発するよりも早く口元にサラダが運ばれたので、仕方なくそのままサラダを食べた。
もぐもぐと咀嚼して飲みこんだあと、俺は隣にいるナタリオを見る。
「ナタリオ……やっぱり俺、ご飯くらいは自分で……」
「うん、そうだよね。でも……レニーはいつも僕に食べさせてもらいたがってね……」
また寂しげな表情をしたナタリオにそう言われてしまえば、俺はそれ以上なにも言えなくなってしまう。
あまえんぼな性格のレニーさんは例に漏れず食事のときもしっかり甘えていたらしい。食器を使うのが上手くないからナタリオに食べさせてもらいたい、なんて言っていたそうだ。
とはいえそのことは、俺があれを言い出さなければ発覚することはなかった。俺が墓穴を掘らなければ、向かい合わずに隣に座って食べるなんて変わってるな、という感想を抱くだけですんだのに。
(くそう……憑依した翌日に俺がナイフとフォークで食べるの自信ないとか言ったせいで……)
憑依した初日は病み上がりだからと、スプーンだけで食べられる簡単なスープをベッドの上で食べた。翌日は体調が回復していたので、ダイニングで食事をすることにした……まではよかったのだが。
洋食系のファミレスですら箸があれば箸を使っていた俺は、ご飯を食べる前に冗談交じりに言ったのだ。特にサラダとかはナイフとフォークで綺麗に食べられそうにない、と。
マナーなんて気にしなくていいよという言葉を期待しての発言だったのだが、ナタリオから返ってきたのは、レニーと一緒だね、という言葉と嬉しそうな笑顔だった。
食事を手伝うことも習慣だったけど言っていいか迷っていた、だけどきみも苦手ならちょうどよかった……なんて言って、それからずっと一部の料理をナタリオに食べさせてもらっているのだ。
目覚めのキスや一緒に入る風呂ももちろん恥ずかしいけど、食べさせてもらうのはそれ以上に恥ずかしくてたまらない。俺に料理を食べさせるときに使うフォークはナタリオのものだから、必然的に間接キスになるのだ。互いの口の中に入っていくからまるで唾液を交換しているようで――正直めちゃくちゃ興奮する。ディープキスしてるみたいなもんじゃん、って。
恥ずかしさもあるが俺にそんな風に思われるのは嫌だろうからと思いやめさせたかった。だけどナタリオの寂しげな表情に、俺はどうしても言葉を紡ぐことができなくなる。
「……きみが本当に嫌なら、やめるよ」
ぽつりとナタリオが呟く。しばらく俺が黙っていたから、本気で嫌で断る理由を探していると思ったのかもしれない。
悲しげな表情で微笑むナタリオに、俺は慌てて口を開いた。
「い、嫌じゃないです! ただ、俺に食べさせながら自分も食べるの大変じゃないかなっていうのと、その……慣れてなくて……」
自分でもなにを言っているのかわからなくなりながら早口で言葉を紡ぐと、ナタリオはくすくすと笑い出す。
「僕は全然大変じゃないよ。合間に食べるのはもう慣れたからね。それに僕が食べさせて、美味しそうに咀嚼するレニーを見ているのが好きなんだ。でも、気を遣ってくれてありがとうね」
「い、いえ……」
「……ねえ、嫌じゃないってことは……これからも僕が食べさせてあげてもいいってことだよね?」
先ほどとは打って変わって、嬉しそうに笑うナタリオ。この笑顔をまた曇らせることなんてできないと観念して、俺は頷いた。
「はい……レニーさんとの習慣ですもんね。俺も頑張って慣れます」
ああでも、ナタリオがご飯を食べさせてあげたいのはレニーさんであって俺じゃない。俺が慣れても慣れなくても関係ないか。なんて考えていると、ちゅ、とこめかみにキスをされた。
「あはは、ありがとう。たくさん食べさせてあげるから、すぐに慣れるよ」
なんて優しい笑顔で気遣ってくれるもんだから。抱いてはいけない感情を抱きそうで、胸がきゅうっと苦しくなった。
俺がサラダに手をつけるよりも先に、ナタリオが俺の分の皿に乗っていたサラダをフォークで刺す。俺が声を発するよりも早く口元にサラダが運ばれたので、仕方なくそのままサラダを食べた。
もぐもぐと咀嚼して飲みこんだあと、俺は隣にいるナタリオを見る。
「ナタリオ……やっぱり俺、ご飯くらいは自分で……」
「うん、そうだよね。でも……レニーはいつも僕に食べさせてもらいたがってね……」
また寂しげな表情をしたナタリオにそう言われてしまえば、俺はそれ以上なにも言えなくなってしまう。
あまえんぼな性格のレニーさんは例に漏れず食事のときもしっかり甘えていたらしい。食器を使うのが上手くないからナタリオに食べさせてもらいたい、なんて言っていたそうだ。
とはいえそのことは、俺があれを言い出さなければ発覚することはなかった。俺が墓穴を掘らなければ、向かい合わずに隣に座って食べるなんて変わってるな、という感想を抱くだけですんだのに。
(くそう……憑依した翌日に俺がナイフとフォークで食べるの自信ないとか言ったせいで……)
憑依した初日は病み上がりだからと、スプーンだけで食べられる簡単なスープをベッドの上で食べた。翌日は体調が回復していたので、ダイニングで食事をすることにした……まではよかったのだが。
洋食系のファミレスですら箸があれば箸を使っていた俺は、ご飯を食べる前に冗談交じりに言ったのだ。特にサラダとかはナイフとフォークで綺麗に食べられそうにない、と。
マナーなんて気にしなくていいよという言葉を期待しての発言だったのだが、ナタリオから返ってきたのは、レニーと一緒だね、という言葉と嬉しそうな笑顔だった。
食事を手伝うことも習慣だったけど言っていいか迷っていた、だけどきみも苦手ならちょうどよかった……なんて言って、それからずっと一部の料理をナタリオに食べさせてもらっているのだ。
目覚めのキスや一緒に入る風呂ももちろん恥ずかしいけど、食べさせてもらうのはそれ以上に恥ずかしくてたまらない。俺に料理を食べさせるときに使うフォークはナタリオのものだから、必然的に間接キスになるのだ。互いの口の中に入っていくからまるで唾液を交換しているようで――正直めちゃくちゃ興奮する。ディープキスしてるみたいなもんじゃん、って。
恥ずかしさもあるが俺にそんな風に思われるのは嫌だろうからと思いやめさせたかった。だけどナタリオの寂しげな表情に、俺はどうしても言葉を紡ぐことができなくなる。
「……きみが本当に嫌なら、やめるよ」
ぽつりとナタリオが呟く。しばらく俺が黙っていたから、本気で嫌で断る理由を探していると思ったのかもしれない。
悲しげな表情で微笑むナタリオに、俺は慌てて口を開いた。
「い、嫌じゃないです! ただ、俺に食べさせながら自分も食べるの大変じゃないかなっていうのと、その……慣れてなくて……」
自分でもなにを言っているのかわからなくなりながら早口で言葉を紡ぐと、ナタリオはくすくすと笑い出す。
「僕は全然大変じゃないよ。合間に食べるのはもう慣れたからね。それに僕が食べさせて、美味しそうに咀嚼するレニーを見ているのが好きなんだ。でも、気を遣ってくれてありがとうね」
「い、いえ……」
「……ねえ、嫌じゃないってことは……これからも僕が食べさせてあげてもいいってことだよね?」
先ほどとは打って変わって、嬉しそうに笑うナタリオ。この笑顔をまた曇らせることなんてできないと観念して、俺は頷いた。
「はい……レニーさんとの習慣ですもんね。俺も頑張って慣れます」
ああでも、ナタリオがご飯を食べさせてあげたいのはレニーさんであって俺じゃない。俺が慣れても慣れなくても関係ないか。なんて考えていると、ちゅ、とこめかみにキスをされた。
「あはは、ありがとう。たくさん食べさせてあげるから、すぐに慣れるよ」
なんて優しい笑顔で気遣ってくれるもんだから。抱いてはいけない感情を抱きそうで、胸がきゅうっと苦しくなった。
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