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5・異変(ロゼ視点)
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聖女の座を取り返して3日。
「聖女の務めとは、魔王が目覚めた際は打倒、封印の為に力を尽くし―」
私は神官から聖女の務めの座学をマンツーマンで受けていた。
しかし、神官の話より頭を占めているのはあの偽聖女・スルスの事。
「他国との争いが起こった際も、我が国の勝利を祈り、傷付いた兵士たちの治療を行い―」
私は初め、スルスが偽りの聖女である事を暴き、城、いいえ、国から追放するつもりだった。
でも、観察していてもスルスに怪しい所は見つからず、普通に成果を出していた。
「平時も、モンスターを寄せ付けぬバリアを張り、病人や怪我人を癒し―」
そう、神官が言っている通り、バリアもヒールも普通に行えていた。
偽聖女のはずなのに。
虐められている、と言いふらしてやろうかとも思ったけど、そんな訴えがもみ消されるのは簡単に想像がついた。
だって、スルスはすでに成果を出している聖女で、私はあくまで聖女の適性があるだけの新顔だったんだから。
「そして、我が国の守護神、及び、それに準ずる神獣の求めがあれば、生贄となり―」
かといって、モタモタしていたら、聖女の座に座り続けたいスルスに危険視され、命を狙われるかもしれない。
なので、作戦を変更した。
それは、王子の恋人になる事。
平民出の娘なんて、聖女にでもならない限り王子と一緒にはなれない。
だったら、王子が私を熱望するようにすれば、王子が私の為に聖女の座をもぎ取ってくれる。
「聖女の中には、神と意思疎通できるものが現れることもあり―」
そしてあの日。
王子と私がスルスに聖女の座を譲るように迫った日。
本当は、スルスが私に力を渡す訳が、渡せる訳が無いと思っていた。
だってスルスは偽聖女。
渡せる力をそもそも持っていないと思っていた。
私が王子と一緒に彼女に迫ったのは、追い詰められたスルスがボロを出すなり、私にビンタでもしてくるかと思っていたから。
スルスが何かドジを踏むまで、何日でも、何回でも迫ってやろうと思っていた。
でも―。
スルスは私に力を渡した。渡せた。
あの日、確かにスルスから私に聖女の力は譲渡され、私の手のアザは濃くなった。
…どういう事?
私に聖女の力を譲渡できたという事は、スルスは偽聖女ではなかったという事。
スルスが本物の聖女なら、なぜ彼女はゲームにいなかったの?
そして、スルスが本物の聖女なら、私は何?
私だって本物の聖女―のはず。
その証拠に、私は聖女の力でバリアもヒールもちゃんとできている。
神官達も、私の聖女の務めの成果に問題は無いと言っている。
どういう事なの?
「時間ですな。今日はここまでにしましょう」
ほとんど聞いてなかった座学の時間が終わった。
聖女の座を取り返して1週間。
「ロゼ殿、祈りの祠には行っていますか?」
「え?」
治療用の聖水に力を注ぐ務めを終えた私に、リュソーが尋ねた。
祈りの祠。
何か特別な儀式の時でない限り、聖女以外は足を踏み入れてはならない、聖域。
最も神と接近できる場所で、聖女はこの祠で神に祈りを捧げなければならない。
そういえば、場所は案内されたけど、まだ中に入って祈ってない。
ゲームにも出てきた場所だけど、シナリオには関係無いし、座学やらお務めやら挨拶やらで忙しくて。
「あ、そういえば、ここ数日行けてないです。今日にでも行こうと思っていました」
私は申し訳なさそうに返答した。
でも、リュソーは不満そうな表情だ。
おそらく、『神に祈る』という仕事を蔑ろにした事が不快なのだろう。
ゲームでもリュソーは攻略しない限りは神様が何より大切なキャラ。
そんな彼が、神よりヒロインを、聖女ではなく1人の少女として愛するようになる―というのが、リュソールートのシナリオだ。
せっかくだからタイミングを見て、リュソールートを遊んでみても―
「場所が分からないようでしたらお連れしましょうか?」
楽しい計画を妄想していたけれど、リュソーの硬い声色で現実に引き戻される。
攻略キャラの中で最も可愛いはずの顔が少し怖い。
『数日も行けてないなら今すぐに行け』と言われてる気がして
「場所は分かるので今すぐ行ってきます…」
と、私はそそくさと部屋を出て祠に向かった。
なによ!
リュソールートを攻略するのは止めよ!
聖女として実績を積んで強い権力を手に入れたら、今度はリュソーを追い出してやる!
お城のすぐそばの森の中に、祈りの祠はある。
勿論、この祠も、そしてこの森も城の敷地内で、関係者以外は立ち入り禁止。
祠に入ると中に日光は差し込まない。
岩壁に埋まっている魔石が発光しているので、ゴツゴツした黒い岩壁や足元はぼんやり照らされているけれど、それでもなんだか不気味だし、ひんやりしている。
一番奥まで来ると、小さな泉があった。
ここまで歩いてきた道より、はるかに多くの魔石が埋まっているらしく、泉の水に反射した青い光が、辺りを明るく照らしている。
ゲームの画像通りだ。
黒い岩のくぼみにたまった大きな水溜まりのような泉の水は、綺麗な透明だけど、覗いてみても底が見えない。
きっとこの底に神様とやらがいるんだろう。
とりあえず、神官に教えられた通り、泉に跪いて国がより豊かになるよう祈ってみる。
「…」
岩の上に跪いているから足が痛い。
「…」
…こんなもので良いかな。
私は祈りを終え立ち上がった。
「ん…?」
城に戻ろうと出口に向かいかけたけど…、何だろう…?
何か変な感じ。
ここに入ったのは今日が初めてだけど、何か、おかしいような。
キョロキョロと周りを見回す。
でも違和感の正体が分からない。
「まあ…いっか」
分からない程度の違和感なら、大した事じゃないんだろう。
それより早くお城に戻らなきゃ。
今日はドレスの仕立て屋が来るのよ。
毎日こんなダサい聖女のローブじゃ嫌だもの。
聖女の座を取り返して半月。
またリュソーに言われて約1週間ぶりに祈りの祠にやって来た。
ここ薄暗くて不気味だし、1人で入らなきゃいけないし、あんまり来たくないのよね。
どんよりとした気分で奥に進むと―
「え…?」
泉が大きくなってる。
1週間前の違和感の正体がやっと分かった。
ゲームの画像より泉が大きかったんだ。
そして今日、1週間前よりさらに泉は大きくなっている。
いや、泉が大きくと言うより、正しくは、泉の水位が上がっているんだ。
私は祈りを捧げず、急いで城に戻った。
「リュソー!神官長!誰か!」
血相を変えて聖堂に駆け込んできた私に、何事かと神官達が集まってくる。
「どうしたんですか、ロゼ殿?」
「い、泉!祠の泉がメチャクチャ増水してるの!あれ、大丈夫なの?」
―シーン…
私のセリフに神官達が静まり返った。
「え…何…?あの泉、たまに増水するの?」
「…」
誰も答えてくれない。
「ね、ねぇったら!あれ、なんなの?」
「ロゼ殿」
やっと答えてくれたのはリュソーだった。
「祈りの祠の泉が増水している、とは確かですか?」
「えぇ、もうかなり溢れてるわ。あれ、何の現象なの?」
「…我が国の守護神が生贄を求める時、あの泉の水が溢れるのです」
「…生贄」
そんな物が必要なんだ。
「そ、そう、生贄…。じゃあ、かわいそうだけど、生贄の人を選ばないとね。どういう人から選ばれるの?」
「…」
神殿は再び静まり返る。
神官達は無言で私をじっと見つめる。
まさか。
全身から血の気が引く。
そんな、まさか。
嘘、嘘。
私が絶対に聞きたくなかった言葉をリュソーがハッキリ口にした。
「生贄はその時の聖女。つまり、あなたですよ、ロゼ殿」
私はこの時全てを理解した。
ゲームにスルスがいなかった理由。
スルスが速やかに城から出て行った理由。
やられた…!
「聖女の務めとは、魔王が目覚めた際は打倒、封印の為に力を尽くし―」
私は神官から聖女の務めの座学をマンツーマンで受けていた。
しかし、神官の話より頭を占めているのはあの偽聖女・スルスの事。
「他国との争いが起こった際も、我が国の勝利を祈り、傷付いた兵士たちの治療を行い―」
私は初め、スルスが偽りの聖女である事を暴き、城、いいえ、国から追放するつもりだった。
でも、観察していてもスルスに怪しい所は見つからず、普通に成果を出していた。
「平時も、モンスターを寄せ付けぬバリアを張り、病人や怪我人を癒し―」
そう、神官が言っている通り、バリアもヒールも普通に行えていた。
偽聖女のはずなのに。
虐められている、と言いふらしてやろうかとも思ったけど、そんな訴えがもみ消されるのは簡単に想像がついた。
だって、スルスはすでに成果を出している聖女で、私はあくまで聖女の適性があるだけの新顔だったんだから。
「そして、我が国の守護神、及び、それに準ずる神獣の求めがあれば、生贄となり―」
かといって、モタモタしていたら、聖女の座に座り続けたいスルスに危険視され、命を狙われるかもしれない。
なので、作戦を変更した。
それは、王子の恋人になる事。
平民出の娘なんて、聖女にでもならない限り王子と一緒にはなれない。
だったら、王子が私を熱望するようにすれば、王子が私の為に聖女の座をもぎ取ってくれる。
「聖女の中には、神と意思疎通できるものが現れることもあり―」
そしてあの日。
王子と私がスルスに聖女の座を譲るように迫った日。
本当は、スルスが私に力を渡す訳が、渡せる訳が無いと思っていた。
だってスルスは偽聖女。
渡せる力をそもそも持っていないと思っていた。
私が王子と一緒に彼女に迫ったのは、追い詰められたスルスがボロを出すなり、私にビンタでもしてくるかと思っていたから。
スルスが何かドジを踏むまで、何日でも、何回でも迫ってやろうと思っていた。
でも―。
スルスは私に力を渡した。渡せた。
あの日、確かにスルスから私に聖女の力は譲渡され、私の手のアザは濃くなった。
…どういう事?
私に聖女の力を譲渡できたという事は、スルスは偽聖女ではなかったという事。
スルスが本物の聖女なら、なぜ彼女はゲームにいなかったの?
そして、スルスが本物の聖女なら、私は何?
私だって本物の聖女―のはず。
その証拠に、私は聖女の力でバリアもヒールもちゃんとできている。
神官達も、私の聖女の務めの成果に問題は無いと言っている。
どういう事なの?
「時間ですな。今日はここまでにしましょう」
ほとんど聞いてなかった座学の時間が終わった。
聖女の座を取り返して1週間。
「ロゼ殿、祈りの祠には行っていますか?」
「え?」
治療用の聖水に力を注ぐ務めを終えた私に、リュソーが尋ねた。
祈りの祠。
何か特別な儀式の時でない限り、聖女以外は足を踏み入れてはならない、聖域。
最も神と接近できる場所で、聖女はこの祠で神に祈りを捧げなければならない。
そういえば、場所は案内されたけど、まだ中に入って祈ってない。
ゲームにも出てきた場所だけど、シナリオには関係無いし、座学やらお務めやら挨拶やらで忙しくて。
「あ、そういえば、ここ数日行けてないです。今日にでも行こうと思っていました」
私は申し訳なさそうに返答した。
でも、リュソーは不満そうな表情だ。
おそらく、『神に祈る』という仕事を蔑ろにした事が不快なのだろう。
ゲームでもリュソーは攻略しない限りは神様が何より大切なキャラ。
そんな彼が、神よりヒロインを、聖女ではなく1人の少女として愛するようになる―というのが、リュソールートのシナリオだ。
せっかくだからタイミングを見て、リュソールートを遊んでみても―
「場所が分からないようでしたらお連れしましょうか?」
楽しい計画を妄想していたけれど、リュソーの硬い声色で現実に引き戻される。
攻略キャラの中で最も可愛いはずの顔が少し怖い。
『数日も行けてないなら今すぐに行け』と言われてる気がして
「場所は分かるので今すぐ行ってきます…」
と、私はそそくさと部屋を出て祠に向かった。
なによ!
リュソールートを攻略するのは止めよ!
聖女として実績を積んで強い権力を手に入れたら、今度はリュソーを追い出してやる!
お城のすぐそばの森の中に、祈りの祠はある。
勿論、この祠も、そしてこの森も城の敷地内で、関係者以外は立ち入り禁止。
祠に入ると中に日光は差し込まない。
岩壁に埋まっている魔石が発光しているので、ゴツゴツした黒い岩壁や足元はぼんやり照らされているけれど、それでもなんだか不気味だし、ひんやりしている。
一番奥まで来ると、小さな泉があった。
ここまで歩いてきた道より、はるかに多くの魔石が埋まっているらしく、泉の水に反射した青い光が、辺りを明るく照らしている。
ゲームの画像通りだ。
黒い岩のくぼみにたまった大きな水溜まりのような泉の水は、綺麗な透明だけど、覗いてみても底が見えない。
きっとこの底に神様とやらがいるんだろう。
とりあえず、神官に教えられた通り、泉に跪いて国がより豊かになるよう祈ってみる。
「…」
岩の上に跪いているから足が痛い。
「…」
…こんなもので良いかな。
私は祈りを終え立ち上がった。
「ん…?」
城に戻ろうと出口に向かいかけたけど…、何だろう…?
何か変な感じ。
ここに入ったのは今日が初めてだけど、何か、おかしいような。
キョロキョロと周りを見回す。
でも違和感の正体が分からない。
「まあ…いっか」
分からない程度の違和感なら、大した事じゃないんだろう。
それより早くお城に戻らなきゃ。
今日はドレスの仕立て屋が来るのよ。
毎日こんなダサい聖女のローブじゃ嫌だもの。
聖女の座を取り返して半月。
またリュソーに言われて約1週間ぶりに祈りの祠にやって来た。
ここ薄暗くて不気味だし、1人で入らなきゃいけないし、あんまり来たくないのよね。
どんよりとした気分で奥に進むと―
「え…?」
泉が大きくなってる。
1週間前の違和感の正体がやっと分かった。
ゲームの画像より泉が大きかったんだ。
そして今日、1週間前よりさらに泉は大きくなっている。
いや、泉が大きくと言うより、正しくは、泉の水位が上がっているんだ。
私は祈りを捧げず、急いで城に戻った。
「リュソー!神官長!誰か!」
血相を変えて聖堂に駆け込んできた私に、何事かと神官達が集まってくる。
「どうしたんですか、ロゼ殿?」
「い、泉!祠の泉がメチャクチャ増水してるの!あれ、大丈夫なの?」
―シーン…
私のセリフに神官達が静まり返った。
「え…何…?あの泉、たまに増水するの?」
「…」
誰も答えてくれない。
「ね、ねぇったら!あれ、なんなの?」
「ロゼ殿」
やっと答えてくれたのはリュソーだった。
「祈りの祠の泉が増水している、とは確かですか?」
「えぇ、もうかなり溢れてるわ。あれ、何の現象なの?」
「…我が国の守護神が生贄を求める時、あの泉の水が溢れるのです」
「…生贄」
そんな物が必要なんだ。
「そ、そう、生贄…。じゃあ、かわいそうだけど、生贄の人を選ばないとね。どういう人から選ばれるの?」
「…」
神殿は再び静まり返る。
神官達は無言で私をじっと見つめる。
まさか。
全身から血の気が引く。
そんな、まさか。
嘘、嘘。
私が絶対に聞きたくなかった言葉をリュソーがハッキリ口にした。
「生贄はその時の聖女。つまり、あなたですよ、ロゼ殿」
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やられた…!
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