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第4章 裏切りと脅迫と忘却

snitch on ブルータス(告げ口をしたのは、身近で意外な人物) 後編<379>

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竹中さんが言っても、私が言っても、結果は同じなら。



私が言おう。



逃げずに。





「私なら、冬野さんの仕事の邪魔だけは、しません。 それが……客商売の娘のプライドですから」





子どもの頃から、何度親を恨んだか知れない。



寂しい頃があった。



学校から帰ってだって、休みの日だって、病気の時だって、いつも最優先の親の仕事。




その経験があってこそ、それが辛くて、悲しくて、やるせなかった分。







当たり前の様に、私は、冬野さんの仕事に気を遣って来た。







「冬野は、これで良かったか?」



「正直、竹中さんの言葉の意味が、重大さが、俺はちゃんと分かってなかった。セイと働いてみて、セイの考え方を通して初めて、竹中さんの言っていた言葉の意味を実感しました」






冬野さんは、苦悶の表情で一度目を閉じ、そして表情を持ち直した。





「俺は、サラリーマンの父親に専業主婦の母親の家庭で育って、自分自身会社勤めで、自営業のノウハウを知らずにこの業界に入った。でも、俺には、ソウの店を守りたいって覚悟があった」




冬野さんは、一度言葉を区切って、今より更に重い口調で竹中さんを見つめて言った。




「でも、俺は、失格でした。今は、そう思ってます」




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