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第4章 裏切りと脅迫と忘却

我がままを良いですか? 後編<454>

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サイフォンコーヒーはお湯を沸騰させ、ロート(下が細長く伸びているが付いているガラス器具)に熱湯を送り込むフラスコと、沸騰したお湯をロートのところでコーヒーの粉と混ぜ合わせコーヒーを抽出させる。




見ていると科学の実験みたいなものなのだが。




これを始める時、一番最初にやる事が、コーヒーを抽出するときにコーヒー豆のクズを抽出したコーヒーに混ざらなくするために必要なフィルターの準備である。



普通のハンドドリップなら、三角のペーパーフィルターを使うので使い捨てで手間がかからないが。



サイフォンコーヒーは、布のフィルターを使うので、手間暇がかかる。




先日、ソウと親マスターにサイフォンを振る舞った時は、ノーミス、ノーレクチャーで合格点を貰ったのに。





お父さんは、うるさく私に指図した。




お前、もっと布は堅く絞らんと。




お湯の量が多くないか。





前もってカップを温めても、手際が悪いと冷めるぞ。





あぁ、粉はもっと多い方が良いと思ったんだ……。





極めつけは。





「ちょっと変われ、攪拌はもっと念入りにせんと……」




私も流石にイラッとしてしまった。





「あぁ、もう。父さん、転職したら?」





こんな大勢の知人&ましてやソウや冬野さんの前で親子喧嘩なんて、まっぴらだったが。





「アホカ?」




お父さんは、私に言った。




私は、皮肉を込めてそれを返す。




「いや、本気だよ。 ずっと言おうと思っていたけど。コーヒー屋やりたいなら、やりゃ良いじゃん?」



「あんなド田舎で客が来るか?」



父さんは言って、ふんっと鼻を鳴らした。




「だからさ。別府じゃなくて、売るのは店だけにして。 自宅を改装すりゃ良いじゃん、サロン&カフェで、サンドウィッチでも、ミクルセーキでも。何でも好きにしたら良いじゃん?」




コーヒーを淹れようとして、いちいち絡む父親と、前置きにソウが私の父を褒めちぎっていた事で私は気が付いたんだ。



ソウは、知っているんだ。



私の両親との長いご近所づきあいで、私達姉妹の両親が、本当は何をしたかったのかを。




「馬鹿言うな、あんな小さな家で商売が出来るか? 店舗兼自宅にはいろいろ決まりがあって。 店舗用の出入り口とは別に、自宅用の出入り口がないと営業許可が下りないんだぞ」



「大丈夫だよ。 私、お父さんとお母さんが良いなら、冬野さんと一緒に暮らしたい。 二人がダメなら、冬野さんもダメって言うから、それなら諦めるけど。お父さん、お母さん。私、我がままを言っても良いですか?」




あぁ、我ながら、二週間に渡る、一見縁もゆかりも無いもの通しが集まって何の話し合いだと思っていたが、要は、結局。



私のためでも、ソウの為でも、冬野さんの為でもない。




この私の両親の為の集まりなのではないか?







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