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第4章 裏切りと脅迫と忘却

閑話休題 椛島 一也の『ぴえん』 前編<462>

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麗の両親である高奈夫妻は、先に部屋を後にして、後に残ったのは今回の一連の資料と麗だけになった。



麗はその資料に目を通しながら、向かいの席で固まっている俺に問い掛けて来た。




「ここの資料にはないけどさ」




ここの資料に無い事。



債権経緯から、残債、一族の資産状況、今までのソウの素行で気になる主だった補導歴、犯罪歴がない事まで、ちゃんと揃えたはずだったが。




「何の事?」



「どうして、こんな事、ソウがしたのか?」




俺は、思わず深呼吸した。




「添付資料5、新聞記事の内容は事実です」



「犯行に至る詳細と経緯はないよ。親戚間のいざこざってあるけど、そもそも、どうして、親戚間でいざこざになるの? 金銭関係って、4文字じゃ計り兼ねるよ。 ソウはお金でキレたりしないでしょ?」




さすが、ソウの幼馴染。



よく、俺の従兄の性格を理解してる。




「正直に話しても、絶対、信じて貰えない理由って言ったら、諦める?」



「真実なら、世界の誰がそれを信じなくても、ソウの事なら、私は分かるよ。 親友だからね」




恋愛感情抜きの無二の親友。



そう言えば、前に言ってたっけかな。



二人がどんな学生時代の仲だったのか知らないが、二人は小学校から高校まで、同じ学校でつるんでた。



部活もずっと、女バスと男バスで、高校はインターハイにまで出てたし。





「じゃぁ……」




俺は、ソウが祖父のバラ園に火を点けるに至った経緯を、嘘偽りなく、綺麗さっぱり、ユキを庇っての自首だった事まで洗いざらい述べた。

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