「黒炎の隼」

蛙鮫

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「初陣」

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 「ここか」
 松阪隼人はとある一点に目を向けていた。荘厳とした雰囲気を放つ巨大な建物。
 『忌獣対策本部』の建物がそこにはあった。

 建物の中に入り、指定された場所に向かうとそこには既に多くの職員の姿が確認できた。

 皆、一様に険しい表情を浮かべる中、見覚えのある顔が確認できた。

「松阪くん」

「聖堂寺」
 聖堂寺結巳。彼女も隼人と同じく特待合格者であり、作戦の参加者である。

 しばらくするとある一人の人物が入ってきて驚いた。頭に鶏の被り物をつけていたからだ。素顔は見えないが長身と筋骨隆々。恐ろしく奇妙に感じると同時にその肉体からは十分なほどの覇気が伝わってきた。

「今回の作戦指揮を担当された庭島にわじま玉男たまおだ。よろしく頼む。ん。君たちは」
 庭島の顔が隼人と結巳の方に振り向いた。無機質な鶏の瞳の向こうから人間の視線を感じた。

「本日より、特待生として作戦に参加させていただきます。聖堂寺結巳です」

「同じく、松阪隼人です」

「君達が今年の特待生か。期待しているぞ」
 庭島が穏やかな声でそう告げた。鶏のマスクで表情は読めないが、彼の態度からは悪意を感じられなかった。

「早速、今回の内容だが、数日前『鳥籠とりかご』のアジトが一つ発見された」
 庭島の言葉を聞いた時、周囲に緊迫した雰囲気が漂った。隼人自身、その名前を聞いた時、緊張感を抱いた。

「鳥籠。六年前から目立った動きがねえと思ったら、密かにアジトを増やしていたって事か」

「まあ、忌獣を生み出している奴らの事だ。広範囲にアジトを仕込んだ方が忌獣の被害も増やせるってもんだろ」

 隼人は思考を巡らせる戦闘員達を尻目に『鳥籠』への憎悪を沸々と滾らせていた。

 『鳥籠』百年前に突然、現れた忌獣を生み出し続ける組織。祖父のシライから何度も耳にした事があり、忌獣対策本部にとっては忌獣とこの組織の殲滅が目的なのだ。

「情報によると、忌獣が数匹と信徒数十人とのことだ」
 
 庭島がモニターで発見されたアジトの詳細を説明していく。隼人はスラスラと書かれていく文字を目で舐めるように追っていた。

「作戦の目的はアジトの壊滅。及び、忌獣の殲滅と構成員の捕縛だ。護送車に乗り、現場に向かってくれ。以上!」

「はっ!」
 庭島が作戦の説明を終えると隼人は周囲に合わせて、敬礼をした。

 建物の下に降りると三台の護送車が既に待機しており、戦闘員が乗車するのを待っている。

 隼人と結巳は真ん中の護送車に乗った。これから初の集団での戦いを経験する。

 内心、緊張感を抱きながらもそれ以上に忌獣や鳥籠への敵意を滾らせていた。

 護送車の中、隼人は窓から夜景を眺めていた。夜道は街灯と月明かりでぽつりぽつりと照らされている。その横では結巳が聖滅具に目を通していた。

 室内には聖滅具を装備した戦闘員達が険しい表情を浮かべていた。既に息が詰まりそうなほどの緊張感と圧迫感が漂っていた。

 今日、死ぬかもしれない。そんな考えが戦闘員の脳裏を駆け巡るのだろう。

 自身の横では結巳が顔を強張らせながら、小刻みに震えていた。おそらく現場に出るのは初めてなんだろう。すると不意に彼女と目があった。

「なっ、何よ」

「いや、緊張してんのかなってさ」

「まっ、まさか! 私は聖堂寺の人間。いつかは母からその座を継いでこの組織を導く者。こんなところで怖気付くわけには行かないわ」
 先ほどまで不安そうだった目つきが変わり、いつもの自身に満ちた彼女の目に戻っていた。

「やることなんて入学最終試験の時と同じだ。化け物退治だ」

「そ、そうよね」
 結巳が何度も小さく頷きながら、自分に何かを言い聞かせていた。

「おい、銀髪のガキ。聖堂寺のお嬢さんはともかく、特待生って言われていい気になるなよ」
 スキンヘッドの男が隼人を睨みつけた。特待生として招かれた隼人のことが面白くないのだろう。

「おい! やめろ。すまないね」
 隣にいた戦闘員の一人がスキンヘッドの男を窘めた。

「いえ」
 隼人は気にせず、窓の外に再び目を向けた。これらの嫉妬の目はクラスメイトで慣れてしまった。今、彼の気を引いているのは忌獣と『鳥籠』だ。

「残り、十分ほどで到着します。総員。速やかなに下車できるように準備をしておいてください」
 車内に無機質なアナウンスが流れ始め、辺りの意識がそちらに向いた。

 そして、作戦で説明された現場近くの森に入った。森に入った瞬間、空気が一気に冷たくなったのを感じた。

「空気が変わったわね」

「ああ」
 隼人は鋭利な目で警戒心を強める。

 もはやここは人間界ではない。魔界だ。人に害をなす魑魅魍魎が跋扈する世界だ。

 その瞬間、前方から激しい物音が聞こえた。

「なんだ!」

「総員に告ぐ。前方の護送車が忌獣に襲撃を受けました。総員、戦闘態勢に入ってください」
 アナウンスから聞こえた緊張感漂う声が車内に響き渡る。それとともに戦闘員達が慌ただしく、下車して行く。
 
「ほら、早く行くわよ!」
 結巳に促されて、素早く降りる。次にこの護送車に乗る際、どれほど生き残っているのだろうか? 

 そんな思考をめぐらせながら、彼は夜の冷えた空気を肺に送り込んだ。

  横に目を向けると他の護送車からも続々と戦闘員が降りていた。その中に今回の現場責任者である庭島玉男がいた。

 前方の護送車は大破しており、かろうじて脱出している戦闘員達が聖滅具を構えていた。
 
 彼らの視線の先には騒動の元凶が唸り声をあげていた。忌獣だ。それも一体だけではない。二体もいたのだ。

 もう一体は片方よりも僅かに大柄の個体だった。

「総員戦闘態勢! 撃て!」
 庭島の合図とともに戦闘員達が一斉に発砲を始めた。何十発もの鉛玉が一体の怪物に飛んで行く。

「ギャオオオオオ!」
 しかし、戦闘員達の攻撃を諸共せずに隼人達の方に突っ込んで行く。その姿を見て、立ち止まっていられる彼ではない。

「殺す!」

「松阪君! 単体行動は危険よ!」
 結巳の声を振り切り、隼人は目を血走らせながら、忌獣へと走っていく。

「グオオオオオオオオ!」

「邪魔だ!」
 雄叫びをあげて、襲いかかってきたが隼人は攻撃を躱して一瞬で首を切断した。

「次はお前だ!」
 続いて近くにいたもう一体にも仕掛けていく。大柄な相手は前足を切り落として、態勢を崩してから斬首した。現場はまさに血の海だった。

「すごいな」
 他の戦闘員達があっけにとられた様子で隼人の動きを見ている。頭から血を被りながら、刀身を振り続ける隼人の姿は鬼神を彷彿とされていた。

 すると隼人の真後ろの茂みから忌獣が飛び出てきた。

「松阪君!」

「くそっ!」
 隼人は構えをとった時、忌獣の頭部に巨大な斧が突き刺さった。

「グギャアアアアアアアアア!」
 頭に刺さった斧に堪えたのか、聞くに耐えない奇声を上げた後、白目をむいて倒れた。

「なっ!」
 驚く隼人の前に庭島がゆっくりと近寄ってきて、忌獣の頭に刺さった斧を引っこ抜いた。

「血気盛んなのは結構だが冷静さを見失うなよ」

「はい。すみません」
 庭島が優しくもかなりはっきりとした口調で隼人を窘めた。

「前方の護送車に負傷者はいるか?」

「負傷者七名ですね。幸い死者はいませんでした」

「なら念のために援軍を要請してくれ。予想以上に被害が出た」
 庭島が部下に命令を与えて行く中、隼人は襲撃を受けた護送車にいた負傷者に目を向けた。頭から血を流したり、腕の骨が折れたりとどれも目を当てられないほど酷いものだ。

「医療班はここで待機。C班はここで医療班と負傷者の防衛に徹してくれ。A班とB班は私と共にアジトの殲滅に向かう」

「了解!」
 隼人と結巳達は庭島の指示に従い、アジトに向かうことにした。夜空では彼らを見下ろす月がぼんやりと不気味に光っていた。
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