「黒炎の隼」

蛙鮫

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「憤り」

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薄暗い一室。松阪隼人は鋭い目を作り、自身の手を掴んでいる結巳に向けた。狩人の目である。獲物に対して一切の慈悲を与えない者の目だ。

「ダメよ。松阪君」

「何故だ?」

「確かに彼らは価値なんかないかもしれないけど、彼らが持っている情報は有益の可能性がある。情報は組織で活動する上で必ず糧になる」

 結巳の言葉は間違いではない。ここで殺してしまえば、知り得なかった情報まで失う事にも繋がる。

「松阪君。気持ちを抑えて」
 隼人は沸々と湧き上がる怒りと殺意をため息で発散した後、静かに頷いた。

 数分後、駆けつけた増援により構成員達は捕縛されて、任務は無事終了した。

「なっ、なんだ。これは」
 アジトの外に出た時、隼人は眼前の光景に絶句した。夥しい数の忌獣が山のように積み重なっているのだ。

 そして、その頂上に鶏マスクの男が血塗られた巨大な斧を構えて立っていた。
 中天に輝く月の光を浴びて、男の異質さが際立っている。

「なんだ。この数」

「すごいだろ。庭島さんが一人で倒したんだぜ」
 戦闘員の言葉を聞いて、背筋がひやりとした。これが幹部の実力。しばらくすると庭島が隼人の前に降りて来た。

「宿主を一人で倒したらしいね。さすがは特待生」

「まあ、なんとか。庭島さんもさすがですね。やっぱり幹部は伊達じゃないって事ですね」

「いや、鳥籠にはもっとやべえ奴らがいる。こいつらの死体を山積みにしたくらいじゃ喜んでいられない」
 庭島の言葉に背筋がひやりとしたのを感じた。しかし、それ以上に憎悪と殺意が湧き上がる。

 鳥籠には自分が戦ったあの包帯の男よりも遥かに強い存在がいるのだ。つまりその強さを利用して悪行を重ねる輩が存在する。

 その事実が隼人にとっては憤りを覚えさせるのだった。




「はあ。疲れた」
 護送車が出発の準備を待っている最中、隼人は月を眺めていた。アジト壊滅して、作戦は成功したが多くの犠牲が多く出てしまった。

「松阪君」
 結巳が真剣な表情でしながら、隼人に目を向けている。

「貴方。協調性がなさすぎる」
 結巳の冷たい言葉が隼人の耳に入る。対策本部は基本、団体で行動する。単独行動に難を示されるのは予想できたことだ。

「連携をとって行動すれば安全に忌獣を討伐できるのよ?」

「忌獣は見つけ次第、討伐。当たり前のことだろう? 集団で動くとありとあらゆる無駄が発生する。弾の無駄。時間の無駄。何より体力の無駄。忌獣一体に無駄が多すぎる」

「松阪君。対策本部は組織なの。人との関係で成り立つものなのよ」

「知ったことじゃないな。個々が弱すぎるから死人が出るんだ」
 隼人は結巳に鋭い目を向けた。彼にとって仲間など本来は不要だ。

「庭島上官も仰っていたでしょう。忌獣を上回る強敵がいるって。だから私たちは」

「手を組めってか? 寄り添えってか? 他者に頼ろうなんて考えが頭にある時点で人は成長が止まる。大事なのは自分を追い詰めて、鍛錬し続ける事。そして目的を忘れない事だ」
 隼人はそう吐き捨てると護送車の方に向かった。一刻でもその場から去りたかったのだ。

 その後、疲労を抱えた隼人や結巳達を乗せた護送車がゆっくりと対策本部へと向かっていった。


『松阪君。対策本部は組織なの。人との関係で成り立つものなのよ』
 戦闘員達が護送車で寝静まる中、隼人は一人、結巳の言葉を思い出した。

「くだらねえ」
 隼人は舌打ちをして、近くで眠っている結巳を睨みつけた。


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