29 / 115
「白峰揚羽」
しおりを挟む
隼人は冷や汗を流していた。以前にあった少女に言い寄られているからだ。
「ねー。松阪君。連絡先こーかんしてよー」
「しない」
先ほど転校して来たばかりの白峰揚羽が執拗に連絡先を聞いてくる。その度に隼人は拒絶するという堂々巡りを何度も繰り返しているのだ。
すると突然、背筋がゾグリとした。後ろを振り向くと結巳が立っていた。しかし、隼人を見るその目は獲物を狙う冷血動物そのものだ。
「なんだ?」
「いいえ。ただ随分と仲が良いのね」
「一方的に絡まれているだけだ」
「えー。そんな。この間はあんなに親切に扱ってくれたのにー」
隼人の腕に揚羽が腕を絡ませて来た。周囲に冷たい空気が漂い始める。発生原因はもちろん近くにいる白髪の少女だ。
「随分に親密になったのね。ナイトクラブというのはそんなに早く異性交遊が出来るのね。初耳だわ」
「ぶつかっただけだ」
隼人は結巳の対応に思わず、ため息をついた。ふと時間を確かめようと時計に目を向けた時、休み時間終了まであと少しだった。
「そういえば、次の授業って訓練場だったろ? 行かなきゃまずいんじゃないのか?」
「あっ!」
隼人の警告に結巳が焦ったような表情をした。どうやら目の前の出来事にとらわれるあまり、忘れていたらしい。
隼人達は大急ぎで教室を飛び出した。
訓練場では皆、木刀を手に持って素振りや手合わせを行なっていた。隼人ももれなく一人で木刀を振るっていると、一人の少女がやって来た。
「何の用だ。白峰」
「やだなー。揚羽って呼んでよ。松阪くん。剣の振り方教えてよ」
「断る。他の人間に教われ」
隼人はそっぽを向いて、木刀を振るった。一度、二度あったような人間と慣れ合うつもりはない。
「ふーん。教えてくれないなら、有る事無い事吹聴してやろーっと」
「好きにしろ。俺は一人で構わない」
「それが特待資格の剥奪だったとしても」
彼女の一言で隼人は動きを止めた。揚羽の言う通り、もしそんな戯言でも耳に届けば夢から遠ざかってしまう。それは阻止しなければならない。
「少しだけだぞ」
「やった」
不本意ながら、隼人は揚羽の素振りを手伝うことにした。
「もっと腰に力を入れろ。腕で振るな」
「はーい」
揚羽が戯けたような返事をしながら、木刀を振っている。その間、隼人は何者かに睨みつけられる感覚を抱いていた。
「ねえ、なんで松阪くんは戦闘員を目指しているの?」
「なんだよ。いきなり訓練に集中しろ」
「答えてくれたらちゃんとするから~」
揚羽が駄々をこねるような頼み方をして来た。これ以上、彼女に時間を取られるわけにはいかない。隼人はため息をつきながら、言葉を吐いた。
「忌獣や鳥籠が憎いからだよ」
「なんで?」
「なんでもいいだろ?」
これ以上言う必要はない。忌獣や鳥籠が憎い。この動機なら他の誰にでも当てはまる答え方だ。
「ふーん。もしかして、大切な人でも殺された?」
心臓が大きく跳ねたのを感じた。隼人の素振りの速度が少し乱れてしまった。
「ああ、図星だった? ならごめんね」
「俺を詮索する事はやめろ」
隼人は何事もなかったように再び、訓練に戻った。心に小さな蟠りを抱きながら。
放課後、隼人は屋上に向かって足を運んでいた。今日は空が晴れているので瞑想をするには最適だと思ったのだ。
扉を開けるとそこには先客がいた。
「あ、松阪くん。こんにちは」
「白峰」
「ここの屋上いいね。夕日がとても良く見える」
揚羽が心地よさそうに手を組んで、頭上で伸ばした。
「松阪くんは何をしに来たの?」
「瞑想」
「渋!」
「なあ、なんで俺に絡んで来たんだ?」
「えっ? 何? 嬉しかったの?」
「そうじゃねえよ」
隼人の口から大きなため息が出た。純粋な疑問を茶化された気がしてならなかったのだ。
「うーん。さっきも言ったけどカッコよかったからだよ? それじゃあ駄目?」
「いや」
これ以上、質問しても無駄。隼人はそう解釈して瞑想に取り掛かろうとした。
「だって、事実だもん。あのちゃらんぽらんな場所にあんな真剣な表情している人がいたら気にもなるよ」
揚羽の目が隼人の目を捉えた。その目からは先ほどのおチャラけた雰囲気は一切、感じられない。
「松阪君。何していたかは分からないよ。でもあのナイトクラブに来る人はみんなどこか下心がある人ばかりだからさ。そう言う人ばかり場所であんな目をしている人がいたら気になってさ」
彼女がどう言う人間なのかはよく分からない。この言葉が真実なのかも定かではない。
しかし、今自分に向ける目には嘘はない。根拠はないがそんな確信を抱いていた。
「ねえ、松阪くんは私の事、嫌い?」
夕陽に照らされた彼女は今にも散ってしまいそうなほど、儚げに微笑んだ。
憂いに満ちたその表情は隼人の心を意図せず、揺れ動かした。
「度が過ぎると普通に引く。でも嫌いじゃない」
「そっか」
白峰が白い歯を見せて、笑った。夕日に照らされた彼女の笑顔は鮮やかで眩しく感じた。
「松阪くん。写真撮ろうよ」
「一枚だけな」
揚羽に肩を寄せられて、顔を近づけたと同時に携帯がフラッシュを切った。
「ねー。松阪君。連絡先こーかんしてよー」
「しない」
先ほど転校して来たばかりの白峰揚羽が執拗に連絡先を聞いてくる。その度に隼人は拒絶するという堂々巡りを何度も繰り返しているのだ。
すると突然、背筋がゾグリとした。後ろを振り向くと結巳が立っていた。しかし、隼人を見るその目は獲物を狙う冷血動物そのものだ。
「なんだ?」
「いいえ。ただ随分と仲が良いのね」
「一方的に絡まれているだけだ」
「えー。そんな。この間はあんなに親切に扱ってくれたのにー」
隼人の腕に揚羽が腕を絡ませて来た。周囲に冷たい空気が漂い始める。発生原因はもちろん近くにいる白髪の少女だ。
「随分に親密になったのね。ナイトクラブというのはそんなに早く異性交遊が出来るのね。初耳だわ」
「ぶつかっただけだ」
隼人は結巳の対応に思わず、ため息をついた。ふと時間を確かめようと時計に目を向けた時、休み時間終了まであと少しだった。
「そういえば、次の授業って訓練場だったろ? 行かなきゃまずいんじゃないのか?」
「あっ!」
隼人の警告に結巳が焦ったような表情をした。どうやら目の前の出来事にとらわれるあまり、忘れていたらしい。
隼人達は大急ぎで教室を飛び出した。
訓練場では皆、木刀を手に持って素振りや手合わせを行なっていた。隼人ももれなく一人で木刀を振るっていると、一人の少女がやって来た。
「何の用だ。白峰」
「やだなー。揚羽って呼んでよ。松阪くん。剣の振り方教えてよ」
「断る。他の人間に教われ」
隼人はそっぽを向いて、木刀を振るった。一度、二度あったような人間と慣れ合うつもりはない。
「ふーん。教えてくれないなら、有る事無い事吹聴してやろーっと」
「好きにしろ。俺は一人で構わない」
「それが特待資格の剥奪だったとしても」
彼女の一言で隼人は動きを止めた。揚羽の言う通り、もしそんな戯言でも耳に届けば夢から遠ざかってしまう。それは阻止しなければならない。
「少しだけだぞ」
「やった」
不本意ながら、隼人は揚羽の素振りを手伝うことにした。
「もっと腰に力を入れろ。腕で振るな」
「はーい」
揚羽が戯けたような返事をしながら、木刀を振っている。その間、隼人は何者かに睨みつけられる感覚を抱いていた。
「ねえ、なんで松阪くんは戦闘員を目指しているの?」
「なんだよ。いきなり訓練に集中しろ」
「答えてくれたらちゃんとするから~」
揚羽が駄々をこねるような頼み方をして来た。これ以上、彼女に時間を取られるわけにはいかない。隼人はため息をつきながら、言葉を吐いた。
「忌獣や鳥籠が憎いからだよ」
「なんで?」
「なんでもいいだろ?」
これ以上言う必要はない。忌獣や鳥籠が憎い。この動機なら他の誰にでも当てはまる答え方だ。
「ふーん。もしかして、大切な人でも殺された?」
心臓が大きく跳ねたのを感じた。隼人の素振りの速度が少し乱れてしまった。
「ああ、図星だった? ならごめんね」
「俺を詮索する事はやめろ」
隼人は何事もなかったように再び、訓練に戻った。心に小さな蟠りを抱きながら。
放課後、隼人は屋上に向かって足を運んでいた。今日は空が晴れているので瞑想をするには最適だと思ったのだ。
扉を開けるとそこには先客がいた。
「あ、松阪くん。こんにちは」
「白峰」
「ここの屋上いいね。夕日がとても良く見える」
揚羽が心地よさそうに手を組んで、頭上で伸ばした。
「松阪くんは何をしに来たの?」
「瞑想」
「渋!」
「なあ、なんで俺に絡んで来たんだ?」
「えっ? 何? 嬉しかったの?」
「そうじゃねえよ」
隼人の口から大きなため息が出た。純粋な疑問を茶化された気がしてならなかったのだ。
「うーん。さっきも言ったけどカッコよかったからだよ? それじゃあ駄目?」
「いや」
これ以上、質問しても無駄。隼人はそう解釈して瞑想に取り掛かろうとした。
「だって、事実だもん。あのちゃらんぽらんな場所にあんな真剣な表情している人がいたら気にもなるよ」
揚羽の目が隼人の目を捉えた。その目からは先ほどのおチャラけた雰囲気は一切、感じられない。
「松阪君。何していたかは分からないよ。でもあのナイトクラブに来る人はみんなどこか下心がある人ばかりだからさ。そう言う人ばかり場所であんな目をしている人がいたら気になってさ」
彼女がどう言う人間なのかはよく分からない。この言葉が真実なのかも定かではない。
しかし、今自分に向ける目には嘘はない。根拠はないがそんな確信を抱いていた。
「ねえ、松阪くんは私の事、嫌い?」
夕陽に照らされた彼女は今にも散ってしまいそうなほど、儚げに微笑んだ。
憂いに満ちたその表情は隼人の心を意図せず、揺れ動かした。
「度が過ぎると普通に引く。でも嫌いじゃない」
「そっか」
白峰が白い歯を見せて、笑った。夕日に照らされた彼女の笑顔は鮮やかで眩しく感じた。
「松阪くん。写真撮ろうよ」
「一枚だけな」
揚羽に肩を寄せられて、顔を近づけたと同時に携帯がフラッシュを切った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる