「黒炎の隼」

蛙鮫

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「十字架」

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 静けさが漂う森の中、隼人と結巳は目の前の女戦士に翻弄されていた。

 要が懐から小さな十字架を取り出して、振りかざしてくる。規則性のないその動きに翻弄されながらも、目を離さないように必死に追っていく。

「くそっ! めんどくせえ動きしやがって!」
 常人離れした柔軟さと巨大な十字架を軽々と振り回す腕力。隼人も修行でなんとか黒炎の持続時間は伸びているが、体力を削るのには変わりない。

「情報によればあなたの炎は体内のV因子を焼き尽くす能力を秘めている。非常に厄介ですね」
 時折、口元に笑みを作りながら、会話する様子から彼女にはまだ余裕がある。

 その言動を取らせてしまうほど、自分達との実力差が開いている。その事実に隼人は苦虫を噛み潰したような感覚を抱いた。

「氷結大地《アイスバーン》!」
 結巳が要側の大地を異能で凍らせていく。すると要がこちらに巨大な十字架を投げつけて、その勢いでこちらに迫って来た。

「隙あり!」
 隼人はこちらに向かってくる要へ燃え盛る刃を向けた。しかし、刀身と接触しそうになった瞬間、態勢を変えて躱した。

「遅いですよ!」

「きゃあ!」
 要が結巳を別の方向に弾き飛ばした。そして、すかざす巨大な十字架を隼人に振り下ろしてきた。

「ぐっ!」
 押し潰すような一撃が刀越しに伝わる。あまりの重量に足元の床が耐えきれずヒビが蜘蛛の巣のように入っていく。

「私の一撃を耐えるとは、ならば!」
 急に剣が重くなり、隼人の額からは脂汗が滝のように流れ出した。筋肉がむせび泣くような負荷が隼人を襲いかかる。
 
「あああああ!」
 喉が張り裂けそうな勢いで叫び声をあげる。全身の血管が千切れそうなる程、両手足に力を込める。

「氷柱《アイシクル》!」
 結巳が横から氷の針山を生み出して、要の攻撃を妨害した。その影響で隼人は十字架から解放された。

「助かった聖堂寺!」
 両肩に残る気だるさを振り切り、黒炎を纏った刀身を要に振りかざした。

 しかしそれも再び、躱されてしまった。

「ふざけやがって」
 一撃も与えられない状況に隼人は思わず、苦笑いを浮かべる。

「どうやらあなた方を一撃で叩き潰すのは難しそうですね。なら」
 要が巨大な十字架を二つに分裂させて、ヌンチャクのように振り回している。

「はっ!」

「早い!」
 一本の時より威力は下がっているが、二つに分かれて軽量化されている分、速度が尋常ではない。

 隼のような速さで襲いかかる十字架の攻撃。結巳と共にその素早さに翻弄される。

「あなたの異能は厄介ですが適正率が低いので早々使える物ではない。つまりあまり余裕がない」
 要が隼人の心を見透かすように口元で笑みを作った。当然だ。何しろ相手は鳥籠の幹部。これまでの戦いでその強さは身に沁みているのだ。

「ああ、だから終わらせる!」
 隼人は様子を見ながら、真っ直ぐに突き進んでいく。

「小賢しい」
 懐から小さな十字架をいくつも取り出して、クナイのように投げてきた。

 弾きながら、懸命に距離を詰めていく。

 隼人は刀身で手を傷つけて、さらに黒炎を燃え上がらせた。それとともに体が熱くなり、動きを加速させていく。

「早い!」
 要が後ろに下がった瞬間、彼女の足元が凍りついた。

「なんとか捕らえたわ。小規模の氷結アイス大地バーンよ」
 結巳が異能で要の足元に氷を忍ばせたのだ。チャンスを逃さない為に隼人は全速力で走っていく。

「とった!」
 要の左胸に刃を突き刺した。
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