「黒炎の隼」

蛙鮫

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「地獄の門」

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 抉れた地面や折れた木々が散らばる森の中、隼人は揚羽と尻餅をついていた。

「もう大丈夫か?」

「うん。ありがとう松阪くん」

「凄まじい物音がしたと思ったら良い雰囲気ね。松阪君」
 茂みの中から頭に血を被った結巳が姿を見せた。

 忌獣を葬り続けた体力的に披露しているのか、彼女の言葉には棘があった。

「それでなんで白峰さんがここにいるの? 戦闘員として参戦していたの?」

「いや。違う。これは」

「待って、私から説明する」
 揚羽がゆっくりと立ち上がり、事の経緯と自分の正体を結巳に打ち明けた。彼女は目を大きく見開いて、見るからに動揺していたが話を聞いてくれた。

「鳥籠のスパイは白峰さんだったのね」

「うん」

「合宿の時も、文化祭の時も」

「そう。私が全部やった」
 揚羽が伏し目で頷いた。反して結巳の眼差しは真意を見抜くように鋭く気迫すら感じた。

「白峰さん。貴女がした事を私は許さない。貴女がした事で多くの人が苦しんで、悲しんだ」

「うん」

「でも罪悪感を感じているのなら手を貸して、私も貴女が償えるように手を貸すから」

「聖堂寺さん」
 結巳がそう言って、彼女に優しく微笑んだ。かつて隼人と同じく人と距離があった彼女からは考えられない行動である。

「じゃあ手始めに教えて欲しいのだけど、私の兄と鳥籠の党首が手の組んでいるのは本当?」

「うん。六年前、聖堂寺光と父が手を結んだ。対策本部の駆逐率が高いのもお父様が情報を提供していたから」

「手を組んだ目的は?」

「そこまでは分からない。でも対立していた組織の長が話し合うなんて、かなり重要なことのはず。そして、きっとろくな事じゃない」
 揚羽が顔をしかめた。光と迦楼羅。それぞれの組織が何かを成し遂げるために裏で繋がっている。

「でも白峰。俺達と手を組むという事は」

「お父様と対峙する事になるね」

「辛くないの?」

「辛くない。といえば嘘になるけど私はお父様に感謝している。例え私を道具として見ていたとしても。今の私がいるのはお父様のおかげだから」
 隼人は少し、胸が痛んだ。利用されていたといえ、彼女にとって迦楼羅は育ての父だ。

 それと袂を分かち、刃を向けるのは容易なことではない。彼女は決断したのだ。

 しんみりと空気を断ち切るように隼人の携帯が鳴った。電話先は庭島だった。

「松阪君!」

「庭島さん。良かっ無事で! それでどうしたんですか?」

「今、鳥籠の本部に行ったんだが。迦楼羅がどこにもいない」
 



 夜の帳に包まれた神社の境内。静かな空気が流れる中、聖堂寺光は本殿に向かって歩いていた。

「ふう。予想外の出来事をありましたがなんとかたどり着くことが出来ました」
 光の真の目的。それはこの本殿の向こうにある。

 本殿に侵入して、目的地へと進んでいく。すると中にいた神主に遭遇した。

「なんのご用ですかな? ここは」
 神主が光を止めようとした時、彼はすぐさま神主のうなじを強く打って気絶させた。

 奥へと進んでいくと床に設置されている扉を見つけた。光は扉を壊すと、階段が続いていた。

 一片の光すらさすことなくどこまで続いているようだ。石造りの階段を一段ずつ、降りていくと古びた小さな祠が見えた。

 よく見るとその祠には何枚も札が貼られた巾着袋のようなものが置かれていた。

「これだ」
 光は口元に笑みを作ると、札を剥がして巾着袋を開けた。そこには白い骨。顎や骨の特徴から蛇と思わしきものがあった。

 懐からナイフを取り出すと、手のひらを切って骨に血を注いだ。

 すると周囲の大気が震え始めた。光はすぐさま、その場を後にした。

 境内に出るとそこには迦楼羅が悠然と佇んでいた。

「お久しぶりです。迦楼羅さん」

「ついに始まったのですね」

「ええ」
 突然、神社を含んだ森や木々が地割れとともに崩壊し始めた。地面に亀裂が走り、黒い物体が轟音とともに生えるように現れる。

「さあ、全てを喰らい尽くせ。ヴリトラ」
 聖堂寺光が邪気を孕んだ笑みを浮かべながら呟いた。

 全てを喰らう絶望の狼煙が今、上がった。
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