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「終焉」
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町へと進行する怪物の上、結巳が細い肩を小さく震わせていた。
「兄さん」
目の前で実の兄が死んだのだ。彼女にとっては耐え難い悲しみである。
「聖堂寺。終わらせよう」
隼人は悲しみで震える彼女の肩に優しく手を添える。彼女の気持ちは痛いほど理解できる。大切な存在を失うというのは途轍もなく辛い。
しかし、だからと言って止まっているわけにはいかないのだ。
「ええ」
最後の瞬間、光は笑っていた。おそらく結巳の言葉に励まされて、自分の人生に希望を持てたのだ。だから二人を救い、前に進めさせた。
結巳が涙を拭いて、ゆっくりと立ち上がった。
安定しない足元を気にしながら、鷹と揚羽は進んでいた。全ては父を打ち取るため。この厄災を終わらすためだ。
「君にも迷惑をかけたね」
「えっ?」
「僕が家を離れている間に君は父さんと接触し、今に至るわけだ」
「お父様の目にかかる前から私は誰かに必要とされたかった。お父様には感謝しているよ。貴方にもあなたの事情があったし、だからとがめる気は無いよ」
「白峰さん」
「だから一緒に手を合わせましょう。お兄様」
揚羽がそう言って、朗らかな笑みを向けてきた。鷹は嬉しくなり、笑い返した。
血は繋がっていなくても、同じ父の元で育った者同士。
心の中にあった僅かな蟠りを解消した鷹はそのまま、父の元へ走った。
しばらく歩くとついにヴリトラの首元にたどり着いた。それとともにお目当ての人物もいた。
夜の闇のように黒い鳥の仮面とマント。迦楼羅が立っていた。その強烈な存在感に圧倒されて鷹は生唾を飲んだ。
「久しぶりだね。父さん」
「お前は、鷹。生きていたんだな。何故、私の元に戻ってこなかった」
「戻りたくなかったからだよ。鳥籠に鳳家に。僕は外の世界を知った。世界の広さを。僕がいた世界の小ささを」
「揚羽。なんのつもりだ?」
「お父様。このような事はおやめください」
「私を止める気ですか?」
仮面の奥から言葉とともに凄まじい重圧を感じた。今まで何度も経験したが、簡単に慣れるものではない。
それでも戦わない理由にはならないのだ。
「止めるよ」
鷹はよどみない真っ直ぐな瞳で答えた。その言葉に嘘偽りはない。親友と離れ、家を出て、全てから遠ざかった。全ては鳥籠を終わらせるためだ。
「そうですか。なら止めてみなさい!」
迦楼羅が音も立てずに素早い速度でこちらに向かってきた。鷹は刀を生成して、奇襲を防いだ。
数年ぶりに重ねる父の剣。相変わらず凄まじい重みだが以前よりは抵抗できる。
迦楼羅の剣を突き放すと揚羽が待っていたと言わんばかりに食らいついた。
彼女の剣戟は初めて見たが、迦楼羅の指南を受けていたという事も動きは似ている。
鷹は揚羽とともに迦楼羅に斬り込んでいく。数時間前に会ったばかりとは思えないほど、息が合っている連携プレイだ。
「やはり同じ父の元で育った者同士なら動きも似るね」
「私の方が少し、動きにキレがあるように思えますよ。お兄様」
「はは、随分と生意気な妹が出来たな!」
冗談を飛ばし合いながら、攻め込んでいると迦楼羅の背中から翼が生えでてくるのが見えた。
「小賢しい」
迦楼羅が高速で四方八方に羽根をばら撒いた。鷹と揚羽が後ろに下がりながら、防いでいく。
「さすが、父さん。そう簡単には倒せないか。でも負けるわけにはいかない!」
鷹は剣を構えて、意識を刀身に集める。するとV因子が集まり、やがて黒い風を巻き起こし始めた。
「影ノ風上!」
鷹は刀を振り下ろすと漆黒の竜巻が地面を削りながら、迦楼羅の方に迫っていく。
「ほう。まさか私の技を会得するとはよくやったものだ。しかし」
漆黒の竜巻を眼前に迦楼羅が構えを取り始めた。同じ技がくる。鷹は直感的に理解した。
「影ノ風上!」
迦楼羅から放たれたそれは鷹の生み出したものより遥かに巨大で相殺するには十分なものだった。
凄まじい爆音とともに鷹が生み出した技は打ち消されてしまった。そして、消えた黒風に紛れて、迦楼羅がこちらに迫っていた。
「がはっ!」
「白峰さん!」
揚羽が横に蹴り飛ばされて、鷹はかろうじて攻撃を防いだ。
「無駄ですよ。お前達では私にはかなわない」
冷徹な言葉が鷹の心にのしかかる。彼自身、いつの日か父と剣を交える日が再び来ると確信して、剣の修行に励んでいた。
しかし、それでも届かない。圧倒的に実力が足りないのだ。
「さて。そろそろ終わりにしましょうか」
迦楼羅から凄まじい殺気に感じ取った瞬間、視界の端から誰かの気配を感じた。
「迦楼羅!」
鷹の真上から隼人が叫び声をあげながら、燃え盛る刀身を振り下ろしてきたのだ。
迦楼羅が身をかわすと後方へと下がった。
「隼人」
「松阪くん」
隼人と結巳が二人をかばうようにして、迦楼羅の前に立った。
「二人とも待たせてごめんなさい」
凛とした表情をした結巳が鷹と揚羽の前に立った。心なしか、少し目元を赤くなっている。
「おや、君達がいると言うことは。首長殿は負けてしまったのか」
「迦楼羅、終わりにしようぜ」
隼人が瞳を鋭くして迦楼羅を強く睨んでいた。
「兄さん」
目の前で実の兄が死んだのだ。彼女にとっては耐え難い悲しみである。
「聖堂寺。終わらせよう」
隼人は悲しみで震える彼女の肩に優しく手を添える。彼女の気持ちは痛いほど理解できる。大切な存在を失うというのは途轍もなく辛い。
しかし、だからと言って止まっているわけにはいかないのだ。
「ええ」
最後の瞬間、光は笑っていた。おそらく結巳の言葉に励まされて、自分の人生に希望を持てたのだ。だから二人を救い、前に進めさせた。
結巳が涙を拭いて、ゆっくりと立ち上がった。
安定しない足元を気にしながら、鷹と揚羽は進んでいた。全ては父を打ち取るため。この厄災を終わらすためだ。
「君にも迷惑をかけたね」
「えっ?」
「僕が家を離れている間に君は父さんと接触し、今に至るわけだ」
「お父様の目にかかる前から私は誰かに必要とされたかった。お父様には感謝しているよ。貴方にもあなたの事情があったし、だからとがめる気は無いよ」
「白峰さん」
「だから一緒に手を合わせましょう。お兄様」
揚羽がそう言って、朗らかな笑みを向けてきた。鷹は嬉しくなり、笑い返した。
血は繋がっていなくても、同じ父の元で育った者同士。
心の中にあった僅かな蟠りを解消した鷹はそのまま、父の元へ走った。
しばらく歩くとついにヴリトラの首元にたどり着いた。それとともにお目当ての人物もいた。
夜の闇のように黒い鳥の仮面とマント。迦楼羅が立っていた。その強烈な存在感に圧倒されて鷹は生唾を飲んだ。
「久しぶりだね。父さん」
「お前は、鷹。生きていたんだな。何故、私の元に戻ってこなかった」
「戻りたくなかったからだよ。鳥籠に鳳家に。僕は外の世界を知った。世界の広さを。僕がいた世界の小ささを」
「揚羽。なんのつもりだ?」
「お父様。このような事はおやめください」
「私を止める気ですか?」
仮面の奥から言葉とともに凄まじい重圧を感じた。今まで何度も経験したが、簡単に慣れるものではない。
それでも戦わない理由にはならないのだ。
「止めるよ」
鷹はよどみない真っ直ぐな瞳で答えた。その言葉に嘘偽りはない。親友と離れ、家を出て、全てから遠ざかった。全ては鳥籠を終わらせるためだ。
「そうですか。なら止めてみなさい!」
迦楼羅が音も立てずに素早い速度でこちらに向かってきた。鷹は刀を生成して、奇襲を防いだ。
数年ぶりに重ねる父の剣。相変わらず凄まじい重みだが以前よりは抵抗できる。
迦楼羅の剣を突き放すと揚羽が待っていたと言わんばかりに食らいついた。
彼女の剣戟は初めて見たが、迦楼羅の指南を受けていたという事も動きは似ている。
鷹は揚羽とともに迦楼羅に斬り込んでいく。数時間前に会ったばかりとは思えないほど、息が合っている連携プレイだ。
「やはり同じ父の元で育った者同士なら動きも似るね」
「私の方が少し、動きにキレがあるように思えますよ。お兄様」
「はは、随分と生意気な妹が出来たな!」
冗談を飛ばし合いながら、攻め込んでいると迦楼羅の背中から翼が生えでてくるのが見えた。
「小賢しい」
迦楼羅が高速で四方八方に羽根をばら撒いた。鷹と揚羽が後ろに下がりながら、防いでいく。
「さすが、父さん。そう簡単には倒せないか。でも負けるわけにはいかない!」
鷹は剣を構えて、意識を刀身に集める。するとV因子が集まり、やがて黒い風を巻き起こし始めた。
「影ノ風上!」
鷹は刀を振り下ろすと漆黒の竜巻が地面を削りながら、迦楼羅の方に迫っていく。
「ほう。まさか私の技を会得するとはよくやったものだ。しかし」
漆黒の竜巻を眼前に迦楼羅が構えを取り始めた。同じ技がくる。鷹は直感的に理解した。
「影ノ風上!」
迦楼羅から放たれたそれは鷹の生み出したものより遥かに巨大で相殺するには十分なものだった。
凄まじい爆音とともに鷹が生み出した技は打ち消されてしまった。そして、消えた黒風に紛れて、迦楼羅がこちらに迫っていた。
「がはっ!」
「白峰さん!」
揚羽が横に蹴り飛ばされて、鷹はかろうじて攻撃を防いだ。
「無駄ですよ。お前達では私にはかなわない」
冷徹な言葉が鷹の心にのしかかる。彼自身、いつの日か父と剣を交える日が再び来ると確信して、剣の修行に励んでいた。
しかし、それでも届かない。圧倒的に実力が足りないのだ。
「さて。そろそろ終わりにしましょうか」
迦楼羅から凄まじい殺気に感じ取った瞬間、視界の端から誰かの気配を感じた。
「迦楼羅!」
鷹の真上から隼人が叫び声をあげながら、燃え盛る刀身を振り下ろしてきたのだ。
迦楼羅が身をかわすと後方へと下がった。
「隼人」
「松阪くん」
隼人と結巳が二人をかばうようにして、迦楼羅の前に立った。
「二人とも待たせてごめんなさい」
凛とした表情をした結巳が鷹と揚羽の前に立った。心なしか、少し目元を赤くなっている。
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