「黒炎の隼」

蛙鮫

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「最終話 羽ばたき」

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 「はああああ!」
 新緑と血の匂いが支配する森の中、隼人は忌獣の首を落とした。転がった生首を見た時、胸の奥から開放感を覚えた。

 そして、懐から無線機を取り出して、口元に近づけた。

「忌獣、掃討完了」
 無線機で知らせた瞬間、森の中にいた戦闘員達が一斉に歓声を上げ始めた。喜びのあまり、ある者は涙を流し、ある者は仲間同士で熱い抱擁を交わしていた。

 百年に登る忌獣の争いがようやく幕を閉じたのだ。

 帰りの護送車の中でも、仲間達の喜びの声で溢れていた。

「松阪君。お疲れ。迦楼羅やヴリトラ討伐といい君には頭が上がらない」
 鶏マスクが特徴的な対策本部の幹部。庭島玉男が隼人に感謝の言葉を発した。

「いえ、俺こそ初めて、幹部と対峙した時は本当に助かりましたからそれに比べたらまだまだです」
 鳥籠の幹部、鎌鼬と戦った際に庭島の助けがなければ、隼人は死亡していた可能性もあったのだ。

「そうか。ありがとう」

「こちらこそ」
 隼人は庭島から差し出された手を強く握った。庭島が他の戦闘員の方に向かった後、隼人は静かに座り込んだ。

「白峰さんの言う通り。本当に一年で終わったわね」
 結巳が隣にゆっくりと腰を下ろした。

「そうだな」

「嬉しくないの?」

「ああ、いやそうじゃなくて、実感が湧かなくてな」
 今まで忌獣を討伐し続ける日々を送って来た。しかし、明日からそんな事とは無縁の生活を送るというのは彼にとってあまりにも現実味がない事なのだ。

「正直、私も現実だと思えていないのよ」

「やっぱりそうだよな」
 隼人と結巳の心境とは裏腹に辺りでは戦闘員達が絶えず歓声を上げている。彼らもまた、何らかの理由で戦闘員として活動していた。

 しかしそれらから今、解放されたのだ。

「でもさ。明日からどうなるんだろうな」

「そう、ね」
 突然、隼人の方に結巳が静かに頭を預けてきた。思わず目を見開くと小さな寝息が聞こえて来た。

「お疲れ様」
 隼人は眠りについた結巳に優しく微笑んだ。


 忌獣討伐から数日後の昼。隼人は亡き親友の名前が刻まれた石碑に手を合わせていた。

「忌獣討伐。ようやく終わったぜ」
 隼人は親友である鳳鷹に吉報を伝えに来たのだ。

 すると後ろから足音が聞こえた。少し慌てた様子の結巳がいた。

「お待たせ」

「俺はさっき来たばかりだから、気にするな」

「そう。ならよかったわ」
 結巳が隼人の隣にきて、手を合わせた。この知らせを聞いて喜ぶのは鷹だけではない。

 ここに刻まれた多くの英雄達も喜んでいるはずだ。命を散らしてようやく、自分たちの悲願が達成されたのだ。


 墓参りを終えた後、隼人は結巳とともに学園の寮へと向かっていた。

「みんな。喜んでいるわよね」

「間違いない。きっとそうだ」
 隼人は空を見上げて静かに微笑んだ。

「あと、聞いた? 例の知らせ」

「聞いたよ。対策本部。解散するんだよな」

「知っていたのね」
 隼人は軽く頷いた。忌獣、鳥籠に関する問題が完全に解決。及び聖堂寺家の不祥事が重なり忌獣本部の解散が決まった。

 対策本部の面々はそれぞれの道を歩み始めた。生き残った戦闘員の多くはその経験を活かして自衛隊や警察や消防士などを再就職先に選んだ。

 そして、結巳の予想通り聖堂寺家は解散し、全ての遺産は『蛇災』の損害に当てられて、余った分はかつて聖堂寺によって被害を被った一族にも振り当てられた。

「そうなると金剛杵学園はどうなるんだ?」

「引き続き聖滅具の訓練は続行されるわ。多方面で実用できる事が認められたわ」

「そうか」
 隼人はどこか安堵感を覚えた。忌獣を討伐する武器だが、彼自身この武器にどこか愛着のようなものを持っていたのも事実だ。

「聖堂寺が消えるとなると、お前の名前はどうなるんだ?」

睡蓮すいれんよ。母の旧姓なの」
 聖堂寺家が解散した事により、結巳の姓は母の旧姓である睡蓮に変わったのだ。

「睡蓮か。なんか慣れないな」

「じゃあ下の名前でいいわよ」

「そうか。なら俺の名前も下で呼んでくれ」

「いいの?」

「お前だけ下の名前で呼ぶのも変だろ?」

「そうね」
 結巳が考え込む素振りを見せた。すると緊張しているのか、口を震わせていた。

「隼、人」

「ああ。結巳」
 隼人は彼女を下の名前で呼ぶと、結巳が嬉しそうに笑った。

「さて、寮に戻ったらトレーニングだな」

「その前に勉強よ。もうじきテストだったでしょ」

「えー。俺、平均取れるからいいよ」

「平均で満足しない!」
 結巳が顔を赤くして、頰を少し膨らませた。
「はいはい。かしこまりましたよ」
 結巳の表情に愛おしさを覚えながら、軽く返答を返した。

 忌獣のいなくなった世界。これから訪れる日々に胸を膨らませながら、松阪隼人は新たな一歩を踏み出した。




 







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