22 / 54
「クリスマス」
しおりを挟む「脈拍、血圧、異常なし。身長。一年前より五センチ成長」
無機質な部屋の中、検査台に横たわる俺の周りで研究員達が熱心に動いていた。
一年前の俺と今の俺の状態を確認しているのだ。
「検査終了。自室に戻ってよし」
「はい」
検査台から体を起こして、自室に向かった。今からパーティーだ。急いで準備しなければならない。
「最近、彼、笑うようになったな」
「ええ。外部の学校に編入したからでしょうか?」
「他者の交流が彼を変えたのだろうか」
部屋を出る際、研究員達の話し声が聞こえた。彼らから見ても俺の変化は著しいものだったのだろう。
「いってきます」
研究員達に告げて、俺は外に出た。外に出ると冷えた空気と白い雪が降っていた。
雪が降る夜というのは実に美しいものだ。よく見ると肩を寄せ合う男女が多く見えた。恋人と聖夜を共にするという話は本当のようだ。
そんなこんなで気づけば約束の場所についていた。どうやら庭島がレンタルスペースなるものを借りてくれたらしい。
メールで送られた場所を調べながら、向かうと一つのビルに行き着いた。指定された部屋に向かい、チャイムを鳴らすと扉の奥から足音がする。
鍵が開いたので、扉を開けると火薬の匂いと空気を割る音が聞こえた。
「誕生日おめでとう!」
「おめでとう!」
クラッカーを鳴らしながら、庭島と北原が出迎えてくれたのだ。部屋に入るとクリスマスケーキに七面鳥。シーザーサラダにポテトフライなどそれはそれは豪勢な料理が並んでいた。
「これを二人が?」
「うん! 腕によりをかけたよ!」
「ほとんど俺だけどな」
「あっ! それ言わない約束!」
北原が声をあげて、駄々をこねている。その様子から庭島が言ったことは事実だと理解した。
「まあでもよ。こいつが腕によりをかけたのは事実だ」
「そうか。二人とも。ありがとう」
「さあ食べよう!」
北原に手を引かれて、テーブル近くに腰を下ろした。
「いただきます」
そこからは非常に楽しい時間を過ごした。美味しい料理に舌鼓を打って、クリスマス行事の一つ。プレゼント交換なるものをやった。
俺は庭島からマグカップを、庭島は北原から鶏マスク。北原は俺が用意したお気に入りの本をプレゼントした。
パーティーは大いに盛り上がり、人生でこれ以上ないほど、充実した聖夜を過ごした。
パーティーを終えて、部屋を出ると辺りに雪が積もっていた。サンタクロースのプレゼントかと思わせるような量だ。
「うお。降ってんな」
「すごい量だね!」
両手で雪をすくい上げて、飛び跳ねる北原。雪を心底、楽しんでいる彼女の姿に思わず頰が緩んだ。
雪が降る中、俺たちは会話を楽しみながら、家路を歩いていた。
「そんじゃあ。俺こっちだから。じゃあな」
「うん! おやすみ」
「おやすみ」
庭島と別れて、二人で帰り道を歩いていた。
「いやー 楽しかったね!」
「そうだな。こんな楽しい誕生日初めてだった」
クリスマス及び、誕生日というのがこんなにも良いものだったとは思わなかった。
「あっ、公園」
北原が吸い込まれるように近くの公園に入った。勢いよくブランコを漕ぐ北原。
缶コーヒー片手にベンチからその光景を見る。
公園の明かりに照らされながら、ブランコで遊ぶ彼女は心底、楽しそうだった。
しばらくすると彼女が近くに駆け寄ってきた。僕からコーヒーを取り、一杯呑んだ。
「ほげえええ! 苦い! ソラシノ君は平気なの!?」
「うん。甘すぎるの苦手だから」
「そかそか」
北原が一息ついて、上を向いた。空からは未だに雪が降り注いでいる。一つ。また一つと頰や服に溶けていく。
「いきなりなんだけどさ。ソラシノ君って。なんで告白断ったの?」
「俺が生まれ育った環境は知っているだろ?」
忌獣を討伐するためだけに生まれた存在。それが俺だ。来る日も来る日も殺しを続ける日々を送ってきた。だから恋なんてものと遭遇する機会は俺にはない。
「うん。でも知りたいとは思わないの?」
「少しだけ」
「そっか。じゃあさ」
北原が強く、手を握ってきた。
「私じゃ駄目かな?」
北原の丸い目が俺に向けられた。心臓が今までにないくらい大きく跳ね上がった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
双五、空と地を結ぶ
皐月 翠珠
ファンタジー
忌み子として生まれた双子、仁梧(にこ)と和梧(なこ)。
星を操る妹の覚醒は、封じられた二十五番目の存在"隠星"を呼び覚まし、世界を揺るがす。
すれ違う双子、迫る陰謀、暴かれる真実。
犠牲か共存か───
天と地に裂かれた二人の運命が、封印された星を巡り交錯する。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる