34 / 54
「最終日」
しおりを挟む「あっつ!」
最終日、俺達はまたもや海に来ていた。
「ソラシノ君。あくびばっかりだね」
「上手く寝付けなくてな」
壮絶な仕事の後、温泉に入って二時間だけ寝た。
もはや睡眠ではなく仮眠に近いものだ。
しかし、怪しまれたら困る。体に鞭を打って、この最終日だけは乗り切ろう。俺は海に向かって、走った。
飛び込んだ瞬間、視界がすぐに青々しい海へと変わった。澄み渡る海は眠気で淀んだ俺の視界も澄み渡らせてくれたのだ。
「やっぱ海って最高! ずっと入っていても飽きないよ!」
彼女の五感で海を感じていた。おそらくこの場で海を満喫しているのは間違いなく、彼女だろう。
「そりゃあ、何より」
北原の無尽蔵の体力に驚きながらも、俺は青空を見た。
「まあ、このコンディションならいつまでも遊べそうに感じるよな」
俺は昨日の疲れを吹き飛ばす勢いで、北原と庭島と遊んだ。
空港に向かうバスの中、北谷さんからメールが来た。洞窟の中でさらに分かった
情報が載っていた。
どうやら契の体内には忌獣が入れられていたらしい、それで仮にあいつが死んでも忌獣になり、暴れるようになっていた事。
アジトの建設がされそうになっていた事。あと少し遅ければもっと厄介な事になっていたかもしれない。
そう考えると、安堵感もありため息がこぼれた。
しかし、思った以上に組織が拡大しているのを考えると、今後ともさらなる警戒と対策が必要になってくるだろう。
「んー もっと遊ぼうよ」
右隣の座席に座っている北原が寝ぼけて、もたれかかってきた。
あの躍動っぷりなら眠るのも無理はない。
「おーおー 熱いね。お二人さん」
俺の左隣に座っている庭島が茶化しにきた。
「かなりはしゃいでいたからね」
「はしゃぎすぎだろ。どう考えても」
「それが彼女の良いところだ」
「そうですか」
「そうですよ」
俺たちはおかしく感じて、小さく笑った。
「どうだったよ。今回の修学旅行。お前にとって人生初なんだろ?」
「そうだね。楽しかったよ。こんな経験が出来るなんて」
人生初の修学旅行はバタバタしたけど、楽しかったのは紛れも無い事実だ。
「そりゃあ何よりだ」
「いつかまた、こうやって旅行に行きたいよ」
「なら三人で別のところ、旅行しに行こうぜ」
「うん。行こう」
今回の作戦。無事、成功して本当に良かった。
彼らの命と思い出を守る事が出来たのだ。これ以上、良いことはない。
彼らとの日々を過ごしていく事でこれまで頭にあった使命や義務というものがより明確で鮮明になった気がする。
目に見えなかった人々を守っていた。でも今は目に見える大切な人達の日常も守っている。
「頑張るか」
俺の胸にある意志が更に強固なものになった気がした。
短くも壮絶だった修学旅行は静かに終わりを告げた。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
双五、空と地を結ぶ
皐月 翠珠
ファンタジー
忌み子として生まれた双子、仁梧(にこ)と和梧(なこ)。
星を操る妹の覚醒は、封じられた二十五番目の存在"隠星"を呼び覚まし、世界を揺るがす。
すれ違う双子、迫る陰謀、暴かれる真実。
犠牲か共存か───
天と地に裂かれた二人の運命が、封印された星を巡り交錯する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる