「最強とひまわり」

蛙鮫

文字の大きさ
41 / 54

「ラストサマー」

しおりを挟む


「だあああああああああ!」
 毎年恒例、真夏の恵那の雄叫びが響いた。

「毎度毎度やかましいな」
 恵那が壮大な海を見て、大声を張り上げる。その横で庭島がため息をついていた。
 しかし、その眼差しはどこか優しさを帯びていた。

 海は相変わらず人で賑わっており、どこを見ても人だらけだった。

 俺が視線を別の方に向けている間に恵那が凄まじい勢いで海に飛び込んだ。毎年このアクティブさに磨きがかかっている気がする。

 俺も彼女に遅れをとらないように海へ飛び込んだ。無邪気にはしゃぐ友人達。

 どこまでも青い海と空。最高の瞬間だ。我ながら青春というものを謳歌している気がした。

 昼になり、三人で近くの海の家に向かった。かなり動いたため、腹をすかせていたためにテーブルに広がったメニューはかなり豪華な光景だった。

 イカ焼き。浜焼き。焼きそば。焼きとうもろこし。フランクフルト。かき氷。目を見張るほどの量だ。

 それを三人で食べていく。はっきり言ってかなり多いが大半は恵那が食べていた。

 俺の胸元くらいの背丈の低さで一体、何故大量の食事が出来るのだろう。人体とは実に不思議だ。

「ごちそうさまでした! さて二人とも泳ぐぞ!」

「待て待て」
 庭島がため息交じりに追いかけて、俺も後を追った。そうして遊ぶうちに気づけば夕日が辺りを染め上げていた。昼間、人でごった返していた浜辺は悲しいくらい人がいなくなっていた。

「もう夕方かー そういえば、近くで祭りあるらしいけどいこうよ!」

「いいな。一回荷物置いてまた集合するか」

「そうだね」
 俺達は夏祭りの準備のために各自、家に戻った。


 約束の場所に向かうと既に恵那と庭島が待っていた。赤提灯が輝く屋台通りを進んでいく。

「相変わらず多いな」

「賑わっているよね」
 俺と庭島が人の多さに動揺している中、恵那が一人で次々と食べ物を買って行く。

「あいつ。昼あれだけ食ったのにまだ食うのか?」

「底なしだね」

「いやー 夏はいいね。美味しい屋台料理が食べられる」
 恵那が美味しそうに屋台のご飯を頬張る。その姿を微笑ましく見ていると後ろから激しい光が見えたと同時に大きな音が鳴った。後ろを振り返ると大きな花火が花開いていた。

 何発も色取り取りの花火が夜空で咲き誇る。他の人達も時が止まったようにピタリと足を止めている。それほどまでに瞳に映る花火は美しかった。
 

 祭りが終わり、俺達は近くの公園で線香花火を持っていた。

「見て! 庭島君!」

「わああ! やめろ! それ持って近くな!」
 恵那が嬉しそうに線香花火を振り回している。後少しで学生最後の夏が終わる。
 どこか虚しくも感じた。

「おーい! ソラシノ君!」

「早くこっち来てこいつ止めてくれ!」
 目の前で戯れる二人に愛おしさを覚えながら、俺は向かった。

 恵那が両手に持つ線香花火は俺達の夏を祝福するように何度も音を鳴らして、輝いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

双五、空と地を結ぶ

皐月 翠珠
ファンタジー
忌み子として生まれた双子、仁梧(にこ)と和梧(なこ)。 星を操る妹の覚醒は、封じられた二十五番目の存在"隠星"を呼び覚まし、世界を揺るがす。 すれ違う双子、迫る陰謀、暴かれる真実。 犠牲か共存か─── 天と地に裂かれた二人の運命が、封印された星を巡り交錯する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...