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「帰る場所」
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綾川春華は俺にとって親しい同僚だった。明るく快活な性格であまり口数の多くない俺にも快く話をしてくれる優しい女性である。
雨の中、彼女はいた。
無数の忌獣に貪られた姿で。
それが彼女だと分かった理由は一つ。群がる忌獣の隙間から彼女の特徴だった長い桃色の髪が見えたからだ。
彼女の肉と骨を食らっている音が聞こえる。ひしめき合っている忌獣達の隙間から定期的に血が吹き出る。
俺は武器を構えて、走り出した。
失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。
ごめん。
気づけば忌獣達は全員、バラバラになっていた。その中心に春華がいた。
「ごめんな」
見る影もなくなった彼女に謝罪した。この姿を忘れることは一生ないだろう。
『作戦終了。繰り返す作戦終了。他の戦闘員は直ちに設置キャンプに戻るように』
雨が上がった空の下、無線機から流れる声に従って、設置キャンプ場に戻る事にした。
設置キャンプ場も戦場と対して変わらない。血の匂い。阿鼻叫喚。唯一違うのは飯がたらふく食えるくらいだ。
でもそんな気力もない。食えるなら食う。でも今の俺はきっと吐き戻してしまう。以前はこんな事もなかったはずだった。
「北原隊長! 病院から連絡です」
女性の救護隊員から電話が差し出された。
「もしもし。北原です」
受話器越しから聞こえる耳を疑う言葉。焦燥感に背中を押されて、俺は走った。
額に汗を滲ませながら病室の扉を開けると、しんとした空気が流れていた。
ベッドの周りには医師と看護婦二人が愛しい女性を囲んでおり、不穏な空気が漂っている。
「恵那」
俺は重い足取りで恵那に近づいた。彼女はまるで眠っているような様子だった。
数秒後には大きな目を開けて、向日葵のような満開の笑みを向けてくれる。
そんな淡い期待を現実は非情にも握りつぶした。背骨を抜かれたようにその場にへたり込んだ。
自分の中から無くしてはいけない大切な何か抜け落ちた気がした。
何も守れなかった。何が最強だ。何が英雄だ。大事なものも守れないなら強くても意味なんかないじゃないか。
俺の願いは愛する妻子と人生を歩むこと。どこにでも存在する普通の家族になる事である。
それ以上は何も望まなかった。しかし、大切なものはいつも自分の手元から離れていく。
分かっていたはずだった。戦場で嫌というほど、学んだはずだった。
「なんで欲しがってしまったんだ。俺」
「北原さん」
看護師の声の先に目を向けた。彼女の腕には小さな命がいた。目をつぶっており、寝息を立てていた。
「奥様がご自分の身を顧みず、産んだ命です」
看護師からゆっくりと受け取った。彼女がこの世界に残していった希望。
目の前で開かれる小さな手のひら。俺は泣いた。止めどなく、頬を流れる涙の重さに耐えきれないように、膝をついた。
もう二度と手放さない。胸に、心に強く刻み込んだ。
雨の中、彼女はいた。
無数の忌獣に貪られた姿で。
それが彼女だと分かった理由は一つ。群がる忌獣の隙間から彼女の特徴だった長い桃色の髪が見えたからだ。
彼女の肉と骨を食らっている音が聞こえる。ひしめき合っている忌獣達の隙間から定期的に血が吹き出る。
俺は武器を構えて、走り出した。
失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。失せろ。
ごめん。
気づけば忌獣達は全員、バラバラになっていた。その中心に春華がいた。
「ごめんな」
見る影もなくなった彼女に謝罪した。この姿を忘れることは一生ないだろう。
『作戦終了。繰り返す作戦終了。他の戦闘員は直ちに設置キャンプに戻るように』
雨が上がった空の下、無線機から流れる声に従って、設置キャンプ場に戻る事にした。
設置キャンプ場も戦場と対して変わらない。血の匂い。阿鼻叫喚。唯一違うのは飯がたらふく食えるくらいだ。
でもそんな気力もない。食えるなら食う。でも今の俺はきっと吐き戻してしまう。以前はこんな事もなかったはずだった。
「北原隊長! 病院から連絡です」
女性の救護隊員から電話が差し出された。
「もしもし。北原です」
受話器越しから聞こえる耳を疑う言葉。焦燥感に背中を押されて、俺は走った。
額に汗を滲ませながら病室の扉を開けると、しんとした空気が流れていた。
ベッドの周りには医師と看護婦二人が愛しい女性を囲んでおり、不穏な空気が漂っている。
「恵那」
俺は重い足取りで恵那に近づいた。彼女はまるで眠っているような様子だった。
数秒後には大きな目を開けて、向日葵のような満開の笑みを向けてくれる。
そんな淡い期待を現実は非情にも握りつぶした。背骨を抜かれたようにその場にへたり込んだ。
自分の中から無くしてはいけない大切な何か抜け落ちた気がした。
何も守れなかった。何が最強だ。何が英雄だ。大事なものも守れないなら強くても意味なんかないじゃないか。
俺の願いは愛する妻子と人生を歩むこと。どこにでも存在する普通の家族になる事である。
それ以上は何も望まなかった。しかし、大切なものはいつも自分の手元から離れていく。
分かっていたはずだった。戦場で嫌というほど、学んだはずだった。
「なんで欲しがってしまったんだ。俺」
「北原さん」
看護師の声の先に目を向けた。彼女の腕には小さな命がいた。目をつぶっており、寝息を立てていた。
「奥様がご自分の身を顧みず、産んだ命です」
看護師からゆっくりと受け取った。彼女がこの世界に残していった希望。
目の前で開かれる小さな手のひら。俺は泣いた。止めどなく、頬を流れる涙の重さに耐えきれないように、膝をついた。
もう二度と手放さない。胸に、心に強く刻み込んだ。
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