「最強とひまわり」

蛙鮫

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「風香」

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どこまでも続くような晴天の下、俺は娘と手を合わせていた。目の前にはかつて愛した女性が眠っている墓。

 今日は恵那の命日であり愛娘、 風香ふうかの誕生日だ。

「お母さん! 六歳になったよ!」
 風香が恵那に語りかける。あの日から六年が経った。鳥籠は未だに壊滅できていない。忌獣の被害も増加傾向にある。俺は日夜、戦いに明け暮れている。それでも以前と違うものがある。

「お父さん! お腹すいた」

「そうだな」
 守るべき小さな命が今、目の前にあるからだ。

 小さな手を握り、俺達は家の近くのレストランに向かった。レストラン前に着くとそこには先客がいた。
「よっ」

「庭島」

「玉男!」
 風香が小走りで庭島の方に向かっていく。庭島が風香を優しく抱きかかえた。

「元気だったか? おてんば娘」

「超元気だよ! 今さっきお母さんにあってきたんだよ!」

「おー そうかそうか。お袋さんもきっと喜んでいるな!」
 よく俺の家に来ていた事もあってか、風香は庭島にとても懐いている。

 俺が夜勤で出ないといけない時はたまに庭島に面倒を任せる事もある。

 レストランに入り、席に着くなり風香がメニュー表を血眼で眺め始めた。食への強い執着は母親譲りなのだろう。

 メニューを注文して数分後、テーブルが埋め尽くされんばかりの料理が出て来た。

「いただきます!」
 風香が手を合わせた後、料理をどんどん口に入れ始めた。

「あまり急ぎすぎて、喉に詰まらせるなよ」
 
「相変わらずめちゃくちゃ食べるな」

「あいつそっくりだな」
 そう言うと庭島が歯をむせて、笑い声を上げている。俺と庭島。

 そして恵那の生き写しのような風香。この三人で店を取っていると学生時代の淡い記憶が蘇る。


 確かにあった現実が今、別の形で再現されたのだ。俺はそれにどこか心を突き動かされた気がした。

「お父さん。あーん」
 風香が笑顔を作って、俺にポテトを一本差し出した。俺は口を持っていき、食べた。
「おいしい?」

「ああ、美味しいよ」
 俺が恵那の頭を優しく撫でた。今の時間はきっとかつて歩んだ時間の延長線なのだ。そして、それは今から未来へと続いていくはずだ。




「じゃあな」

「また」

「バイバーイ!」
 夕方。庭島と別れた後、俺達は手を繋ぎながら、茜色に染まった道を歩いていた。

「楽しかったね」

「ああ。また行こうな」
 風香が夕焼けよりも明るい笑みを浮かべた。その顔に愛する女性の顔が重なる。

 俺と風香が生み出した生きた証。彼女が命落として産んだ存在。

 それが生きている限り、俺が負けることはない。

 俺はこれからも戦い続ける。愛する家族が待つ家に帰る為に。
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