転生姫は竜を飼う

みりん

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言葉

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―アレンと柚葉、初めて本音で向き合う夜―



 その日は、砦に珍しく“静かな夜”が訪れていた。


 焚き火を囲む騒がしい仲間たちも、
 リーネの爆薬も、ミュリナの旋律も、今日は眠っていた。



 柚葉は、砦の裏の小道にぽつんと座っていた。

 膝を抱えて、何かを考えながら空を見上げている。



 そこへ、アレンが歩いてきた。



 「……こんなところにいたのか」

 「うん。ちょっと、静かにしたかっただけ」



 二人は、しばらく無言で星を眺めていた。

 けれど、沈黙が苦ではなかった。

 むしろ、いつかの庭園の空気を思い出させるような、優しい静けさだった。




 「ねぇ、お兄ちゃん」



 唐突に、柚葉が言った。



 「今なら、聞けるかもって思う。
  あの日――どうして、何も言ってくれなかったの?」






 アレンは、少しだけ視線を落とした。

 そして、深く息を吐いて、答えた。






 「……怖かったんだ」

 「怖い?」

 「“王子”として育てられてきた俺には、
  “正しい行動”を外れることが、すべてを壊すように思えていた」

 「剣を捨てたら、家も、地位も、何もかも失うって――
  ……でも、一番失いたくなかったのは、お前の信頼だった」







 柚葉は、静かに彼の横顔を見つめた。

 その瞳には、幼い頃と同じ“誠実すぎる不器用さ”があった。





 「……私ね、あの時ほんとは、
  “お兄ちゃんが自分のことをどう思ってるか”が怖かったんだ」

 「……」

 「でも、今わかった。
  あなたも、ずっと傷ついてたんだって」



 柚葉はふっと笑った。



 「じゃあ、もういいよ。許すとかじゃないけど――
  私たち、これからちゃんと兄妹やり直そう?」







 アレンは、少し驚いたような目をして、
 ほんのわずかに――笑った。



 「……ああ。そうだな。
  今度こそ、“最初から”守らせてくれ」



 その夜、二人の間にあった“沈黙”は、
 少しずつ、言葉に変わっていった。





 もう後悔だけじゃない。

 これからは、ちゃんと伝えるために生きていく。



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