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過去編:ジェイド
しおりを挟む―ジェイド=クラウスの過去―
かつて彼は、王国騎士団の副隊長だった。
王子直属の護衛部隊――“蒼翼団”に所属し、
その剣の正確さと冷静さで“鋼の副長”と呼ばれていた。
無駄がない。判断が早い。声を荒げず、表情も変えず、ただ一閃。
騎士として、申し分ない資質を持っていた。
だが、それは―「守ることに失敗した者の剣」だった。
◆「村が焼かれた」の報せ
任務中、王都から外れた“ノアロ村”が反乱者の疑いで粛清されたという報告が届いた。
ジェイドの顔色が、一瞬だけ変わった。
そこは、彼が幼い頃に育てられた場所。
血のつながりはなくとも、母のような人と、妹のような少女が暮らしていた。
「副長、この件は上層部の命令です。関与は禁じられています」
「……命令が間違っているとは思わないか」
その言葉を吐いた彼は、その日から“忠誠に揺らいだ者”として監視対象となった。
◆そして訪れた、命令の日
王族による“反乱予備勢力の粛清”が進められ、
ジェイドはある民間施設の包囲命令を受ける。
封鎖された扉の向こう――聞こえたのは、
「ジェイド……? 来てくれたのかい?」という、年老いた女の声だった。
その瞬間、彼は剣を鞘に戻した。
「俺はもう、騎士ではいられないかもしれない」
そして扉を開き、避難を手助けした。
---
それは、反逆だった。
命令違反。組織への背信。
だが彼にとって、それはようやく「自分の意志で剣を抜いた日」だった。
---
その結果、ジェイドは騎士団を追放された。
彼の名は表記から削られ、“消された存在”となった。
守った命は、確かにあった。
でも、それ以上に“守れなかった”過去が胸に残った。
---
◆だから、口数が減った。
正義を語ることをやめた。
希望を口にすることをやめた。
そして、誰かに「守る」と言う代わりに、
黙って隣に立つことを選んだ。
---
◆出会ったのが、柚葉だった。
「誰も、見捨てないで守りたいんだ」
そう言った少女の瞳は――
かつて、命令を破ってでも守ろうとした、あの子に似ていた。
彼女を見て、ジェイドはようやく、
もう一度剣を抜く理由を得た。
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