君とずっと。

優里

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傍観者の私

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 いじめなんてどこの学校にでもあって、それが当たり前だと受け入れている自分がいて、
自分がそのいじめの標的にならないような立ち回りを常に考えることが学生の本業だと思う。
学生の本業が勉強だなんて、もう古いのだ。



 私は休み時間になると教室の隅へ移動する。誰の目にもつかないように、静かに。
また、カースト上位の女の子達の遊びが始まるから。
 俯く古井さんの席の周りをカースト上位グループの安西さん、小野谷さん、酒井さん達が取り囲んだ。
「ねぇ、ちゃんと持ってきた?」と、安西さんが微笑んで古井さんに聞く。
古井さんの顔がもっと深く沈み込み、頷く。
「ご、五千円しかなかったけど、持ってきたよ。」
察した。所謂カツアゲだ。中学生になると、小学校とは比にならないくらいエスカレートするんだな。と、
呑気なことを考える。
「えー、これじゃあ皆で山分けできないじゃん!!」
「ご、ごめんなさい…。」
ふり絞った声で謝る古井さんを見てると、胸が痛む。
生憎、「もう、その辺にしときなよ」とか「人の金取って楽しい?」なんて言葉をかける勇気は私にはない。
「ま、古井の家ビンボーだもんね。これで許してあげるっ!」
「蘭は優しすぎ!!」という取り巻きが安西さんを称える声が聞こえる。

 

 そう、私は傍観者。この中学校という小さな狩庭の中で、狩るわけでも狩られるわけでもない。
傍観者という立場を私は選んだのだ。

 




 

 傍観者はいじめが公になったとしても、世間から責められることは滅多にない。
もし責められても、しらを切ればいい。
被害者本人の持つ権利は、いじめの加害者を責めることだけだ。
傍観者は加害者というクッションで守られている。
加害者が酷いいじめをすればするほど、いじめを行う人数が多ければ多いほど、被害者は傍観者を責める権利がなく
なってくる。

 

 止めようがないからだ。




 例えば、古井さんが教室で10人くらいに囲まれてカツアゲされそうになっていたとして、
10人のいじめっ子相手に立ち向かう勇気を持つ人なんてほぼいない。ましてや中学生だ。
いるはずがない。





 傍観者の宿命とは、クラスの崩壊を見守り、
時にはいじめられっ子を支え、また時にはいじめっ子の味方をして。
一生媚を売っていくことだ。






 私はこれからもずっと、傍観者でありたいと願う。


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みんなの感想(1件)

その子のむこうがわ

哀しいおはなし・・・

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