わたしを救った私の英雄

よつ丸トナカイ

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4 窓の中の笑顔

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僕は日課のように公園に通っている。もちろん光莉と再会した後も変わらず通っていた。週に一度くらいの頻度で出会う彼女とは、楽しい話をする仲にまで関係が深まっていた。彼女と会う度に満面の笑みで話しかけてきてくれる。僕はその笑顔に癒される。その笑顔だけでも僕が生きていく理由になるのではないだろうか。

今日も、僕を見つけた彼女が微笑みながら近づいてきた。
「谷崎さん、今日も元気そうですね。調子はどうですか?ちゃんとご飯食べてます?」
「おかげさまで何とかやっているよ。光莉さん、大学はどうですか?」

光莉は谷崎に会えた事で嬉しそうな笑顔で僕に答えた。

「はい、大学では看護とリハビリについて学んでいます。」
「えっと、その道を選んだという事は。やはり、あの事故に影響をうけているという事なのですか?」
「はい、小学生の時の事故は人の命が失われてもおかしくない状況でした。だけども幸運な事に、わたしは谷崎さんのおかげで助かることが出来ました。他の方が手を差し伸べることで助かる命があるんだなと実感しました。わたしもその誰か困っている人に対して『手を差し伸べる事』でその人を救い、多くの人をわたしと同じように幸せな人生を歩んでもらえればなと、思っているんです」

僕はその言葉を聞いて、胸の奥から感動の想いと自分がやり遂げたという満足な思いが湧き出た事を感じていた。あの時の自分行動が間違いでなかったと実感し、小声でつぶやいた。

「昔の俺、GJ!」
「えっ?何ですか?」
「いや、何でもない!」

不思議そうに、ちょこんと首を傾けている光莉。僕は苦笑いしながら話を戻した。

「しっかりしてますね光莉さんは。その様に思っていても、なかなか実行できる人はいないですよ。とても立派だとおもいます。」

すかさず光莉は答えた。
「そんな事ないですよ。わたしは何か人の役に立つ事が出来ればと思っているだけですし、そんな立派な人間にはまだなれていないです。早くなれたら良いのですが」

うつむき、恥ずかしそうに足をぶらぶらしながら答えていた。

「あっ、そうそう。谷崎さんちゃんと食事してますか?栄養足りてますか?」
「まあ、自炊してバランスの良い献立考えているから、人並みには大丈夫と思うけど」
「自炊しているんですね。もしコンビニ弁当ばかりだったら、わたしがご飯作ろうかと思ってました。自炊は毎日しているのですか?」

僕は苦笑いして答えた。
「うーん。肉じゃが、カレー、焼き魚とかは簡単に作ることは出来るのですが。鍋で作る即席麺も多いような・・・。これも自炊に含めていいのですか?」

光莉は、クスっと笑い答えた。
「だめです。即席麺は自炊に入りません!お野菜を一緒に入れたら自炊として認めましょう。週に何度か、わたしが作りましょうか?」

光莉の優しい笑顔でそんな事言われたら、嬉しくもあり、頼りたくなってしまう。つい、喉の所まで言葉が出てきたが我慢して、僕は光莉に伝えた。

「大丈夫ですよ。そこまでされなくても。ほら、光莉さんは大学が忙しいでしょう。学年が上がればさらに実習とかで忙しくなりますよ。僕の事は大丈夫ですから勉強頑張って未来の夢目指してくださいね」

光莉は少し寂しそうな表情になったが、すぐに笑顔を取り戻し話した。

「はい、わかりました。でも、何かあったら遠慮なく言ってくださいね。恩返ししたいのですから」
「わかりました。その時はお願いしますね」
「それじゃ、わたし大学行きますので、またお会いしましょう」

笑顔で手を振って離れて行く光莉を眺めていると、少し寂しい気もしにもなる。手を伸ばしても届かない、いつまで親切にしてくれるのか判らない。そんな切ない気持ちが一瞬、僕の心を横切っていった。

「光莉さんはしっかり将来の夢を見据えて頑張っている。話を聞いていてもしっかりとした考えなので僕も安心できる。将来どのように目標を掴んでいくのだろうか。楽しみだな」

だけど、光莉に会う度に僕の胸の中で抑え込んでいる気持ちが少しずつ大きくなってきている事に気づき始めていた。

「この気持ち、いつまで冷静に抑え続けられるだろうか」


翌週、僕は公園から少し足を延ばし近くにある市立図書館の側を歩いていた。この辺りも人が集まっているようで、公園と同じように賑やかな雰囲気をもっている。
図書館前の広場では学生らしき数人が楽しそうに語り合っている。未来を目指す若者にとって図書館前という見慣れた場所でも、きっと将来まで忘れることが無い輝いた瞬間になっているのだろうな。大学生の頃を思い出して眺め、歩いていた。

しばらく図書館の建物沿いに歩き、ふと窓の中に視線を向けたら、光莉と友達数人が一緒に勉強している姿を見つけた。同じくらいの年齢の男女四人だ。大学の友人というところだろうか。

「男子二人に女子二人かな?まるでダブルデートみたいな勉強会だな」

微笑みながら見ていたが、少し僕の心臓に針を刺したような痛みが走った。もちろんその痛みの原因は薄々気が付いているが、言葉にはするつもりはない。

その窓を通り過ぎ去ろうとした時、勉強をしていた光莉がこちらに気づいた。
その瞬間、満面の笑顔を僕に向け手を振ってくる。僕も軽く手を上げて返すと、隣にいる友達に何かを伝え図書館を飛び出して、僕のところまでやってきた。

「谷崎さん、こんにちは。今日はこちらでお会いしましたね」
「こんにちは、友達と勉強会ですか?」

光莉は走ってきたのだろうか、荒い呼吸をしながら、少し顔を赤らめて答えた

「は、はい。仲のいい友達と勉強です。大学とは違った書籍があるので市立図書館も時々利用しています。」
「そうですか。頑張っているんですね」
仲のいい友達か・・・。

そして光莉は手に持っていた袋を僕に差し出した。
「実はこれ、クッキーをわたしが焼いてみたんです。友達にも配ったのですが、谷崎さんとお会いするような気がして! これ谷崎さんの分です。どうぞ受け取ってください!」

「ありがとう、遠慮なくいただくね」

クッキーの袋を受け取り、図書館の友人たちの方へ視線をやった。僕はあまり歓迎されていないようだ。男子の一人が怪訝そうに見ている。多分、彼は光莉さんの事が好きなんだろう。
好きな女の子と勉強していて他の男を見た瞬間、走り出してその男へ向かう。
うーん。確かにこれは嫌だ。僕だったら泣いてしまうな。怪訝な顔にもそりゃなるよな。

一応、こんな僕でも32年は生きていている。
いろんな人の恋を見てきたつもりだ。
君の様な青年よりも恋愛に対しても経験はあるはずだ・・・と思う。
だから彼の気持ちなんてすぐわかる。
青年よ、あなたの感情は何も間違っていない。
ただ、僕と光莉の関係が特殊すぎるだけなんだ。
すまないな、青年!

「光莉さんありがとうございます。家に帰ったら食べますね。楽しみにしてます。それではまた!」

といい、その場を急ぐように後にした。光莉さんは「友達」って言っていたが、あれは「友達」じゃないな。とにかく、こういう時はその場から離れるのが一番なんだ。と思い逃げるように歩いていると、後ろから光莉が笑顔で手を振りながら叫んでいた。

「谷崎さん! ちゃんと栄養の良いご飯食べてくださいよ!何か困ったら絶対に言ってくださいね!あとね・・・」

僕は振り向きながら苦い笑いしながら手を振って答えた。図書館にいる彼もまだこちらを見ている。さっきよりも怒って睨んでいるような気がするのだが・・・。ひとまず逃げよう。

「そういえば光莉さんって19歳とか言ってたな。でも何か・・僕のオカンに思えてきた」

容赦なく投げかけてくる、「19歳のオカン」の忠告を僕の背中に受け続けながら、帰路についた。
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