わたしを救った私の英雄

よつ丸トナカイ

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6 小さな勇気

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僕は、夕方になると商店街へ出かける。この商店街はアパートからも近く店舗数も多い、突き当りには小規模ながらもスーパーマーケットもあり、買い物のほとんどがこの周辺で完結できる。今の僕にはとても便利で重宝している場所だ。

そんな商店街は夕方になると買い物客で賑わいを見せる。全国的に地元商店街がシャッター通りになって寂れているというニュースをよく目にするが、この商店街は大丈夫のようだ。もしこの商店街が無くなってしまったら僕の生活の買い物は不便極まりない。

夕方の商店街は楽しい、いろんな美味しそうな香りが漂う。その香りによって今晩の夕食メニューを決めることも多い。今日はコロッケを2つ買う事にしよう。馴染みの肉屋のコロッケは絶品だ。コロッケとお米だけでも夕飯として成り立つぐらいだ。

肉屋の店主が笑顔で話した。
「今日も、揚げたてだよ!」
「いつもながら美味しそうですね。いつも隣に並んでいるトンカツと悩んでしまうのですが、安いコロッケに今日もします!」

笑いながら店主は答えた
「たまには、トンカツも美味しいよ! うちのは黒豚使っているから旨味が違うんだ。今度気が向いたら買って食べてみてね」

とコロッケ2つを受け取り、店を後にする。そこまで言われるとトンカツにしておけばよかったかと、少し後悔しながら商店街を歩く。トンカツは今度にしよう。


さて、他の買い物も終わったから少し休憩だ。商店街の途中にある小さい公園のベンチに座って休んでいた。商店街を行き来する人をぼんやりと眺めていると、ひとりの小さい女の子が公園に入ってきた。その子は小学4年生ぐらいだろうか。そのままブランコに座った。

あの女の子は何か気になるな。と思い暫く横目でチラチラとみていた。
やはり何かがおかしい。普通子供が公園に来てブランコに座ったら、前後に揺らして漕ぐだろう。ブランコに座ると両手で鎖を握ったまま俯いて動かない。
学校や、家で嫌な事でもあったのだろうか。
そう思っているとその女の子はブランコから降り、公園から出て行った。時間にして十五分ぐらいだ。まぁ、何も後もなければいいけど。と僕も帰路につく。

翌日、僕は肉屋で買ったトンカツを胸に抱え公園のベンチに座っていた。しばらくすると昨日の女の子が公園にまた現れ、昨日と同じようにブランコに座り黙り込んでいた。公園内では沈黙が続き、昨日と同様、少の子は公園からいなくなる。

流石に二日連続だと気になってしまう。どうにかして状況を聞くことが出来ないだろうか。今なら追いかけて呼び止め話しかけることも出来るだろうけど、そんな事をしたら警察通報案件になってしまう。良い方法を考えながら今日も帰路につく。

さらに翌日、肉屋で買ったコロッケ2つと缶ジュースを買い、公園に来ている。
今日は作戦がある。女の子の状況が確認でき、しかも犯罪者とならない方法だ。
それは、僕がブランコにまず座ることだ。ブランコに座り、不自然でないように買ってきたジュースを飲む。

これは映画やドラマでよく見るシーン、公園のブランコに座りたたずむサラリーマンをイメージしたものだ。昔、父親と見た古い邦画で見たことがある。それを真似してみたのだ。

しばらくすると、例の少女が公園に来て、僕の隣のブランコに座った。よし、ここまでは計画通りだ。あとは、状況を聞き出すだけだが・・・。どうすればいいのか??
ここで話しかけても不自然だ、通報案件になる。
ではこのコロッケを一緒に食べるのはどうだ! やっぱり通報案件だ。ならばこのジュユースを・・・。もう僕が飲んでいる、通報案件だな。

万事休す!この先が繋がらない。と思った時僕に幸運の風が吹いてきた。文字通り突風である。思わず手に持っていたジュースが横にこぼれ、少女の靴にかかってしまった。

「あっ、ごめんなさい。急に風が吹いたのでジュースこぼしてしまいました。」
と僕はカバンからミニタオルを取り出し、少女の靴を拭く。

少女は少し涙目で僕に答えた。
「大丈夫です。。。」
泣いている。ジュースをかけられたから泣いているのでなく、先日からここにきて涙を浮かべていたのだろう。僕は優しく尋ねてみた。
「泣いているみたいだけど、どうしたの?大丈夫?」

泣くのを一生懸命我慢して小さな声で答えた。
「・・・はい。何でもないです。」

やっぱり何かある。この少女の様子が正常であるわけない。もし原因が家庭内DVとかいじめとか深刻な場合もある。しかも3日前から同じように公園で泣いている。やはり、目の前で泣かれてしまうと無視して何もしない事は出来ない。

「何があったか知らないけど、大丈夫だよ。僕で良かったら話を聞くよ。」

優しく問うと、少女は答えた。
「話を聞いてくれるのですか?」
「うん、大丈夫ちゃんと聞くよ」

よし、何とか繋がった。まずはなぜ泣いているか聞かないと。
しかし、なかなか話してくれず黙ってしまっている。
僕は肉屋で買ったコロッケを一つ渡して話しかけた。

「お腹すいていないかい?さっきそこの肉屋で買ったコロッケ。美味しいよ、一緒に食べよう」

少女は僕が差し出したコロッケを受け取り、一口食べた。それを見て僕もコロッケをかじった。でも、少女よ、知らない人から食べ物はもらっちゃ駄目だよ。
そう冷静に思っている自分もいるが、今は話を聞かなければ。

「ほら、僕は君の名前も学校も知らないし、君も僕のことを知らない。だからこそ、気持ちをそのまま話せると思うんだ。きっと君には、周りの人には言えない理由があるんでしょう。でも僕たちは何の繋がりもない。だからこそ、遠慮せずに話してみてよ」

そう話すと少女の口が開いた。
「私、最近この街にお母さんと二人で引っ越してきたの。お母さんは私を育てるために朝から夜遅くまで頑張って仕事してくれているの。だから、私も頑張って学校行っているんだけど・・・。」
と少女の言葉が止まった。なるほど、この子には母親二人で暮らしているという事か。しかも今の言い方だと親子問題ではなさそうだ。となると学校で何らかの問題を抱えているんだな。

「それで、学校で何かあったのの?」
「うん、途中で転校してきたから、クラスにお友達がいなくて、いつも一人で・・・。」

確かに小学生にとっては大きな問題だ。この時期は友達で人生が左右されてしまう。だからこそ友達を作らなければいけないんだ。

「えっと、友達が出来ないというのは、何かあるのかな?」
「私、友達の作り方わからないんです。でもお母さんには心配かけたくないから、友達がいない事、内緒にしているんです。」
「そうか、それは大変だったね。でも大丈夫だよ。僕に任せていい方法がある。だから泣くのは止めような!」

と答えた。ここで大切なのは、今まで大変だったと認めて上げること。そしてその大変も終わりで、もう心配しなくていいという事。そして最後に解決の手段がある事。それらをきちんと伝える事なのだ。

すると、少女は僕の方へ顔を向け、
「本当、おじさん。解決方法があるの?」

とびっくりした表情で問いかけてきた。おじさんか・・・。まだ32歳のお兄さんなのに。今度は僕が泣いていいですか?
まあ、僕の事はどうでもいい。おじさんだろうが、オッサンだろうが、それは今問題ではないのだ。

「うん、大丈夫おじさんに任せて!」

そう自分で言いながら心に引っかかりながら答えると、少女は笑顔を僕に見せてくれた。やっぱり泣いている姿より、人は笑顔の方がいいよな。と思うオッサンでした。


僕は少女に秘策を伝えた。
「まず、学校に行ったら、笑顔で『おはよう』とみんなに言ってみよう。まずはそれだけだ」

少女は目を丸くして驚いた。
「たったそれだけですか?!」
「うん、それだけだ。簡単でしょう。でもね、これが一番難しいんだよ。だって昨日まで声をかけた事が無い人に突然笑顔で挨拶しなければならないんだよ。とても勇気いるよね。」

少女は小声になり返事した
「はい、たしかに」

僕は、笑顔で答えた。
「人って他人の事、最初は興味がなく関心がないんだ。学校で例えると、友達、先生ぐらいの強い関係性を持った人には関心持って見ているよね。だから、明日クラスのお友達に笑顔であいさつ出来たとしたら、その友達はあなたの事を『昨日まで全く話したことないけど、どんな子なのかな? 私と仲良く出来るかな。』と思ってくれる事も多い。最初は、挨拶だけだけど、何度か笑顔で挨拶したら次第に会話しやすくなり、最後には友達になれるよ。」

少女は目を輝かしながら聞いている。
「そうなんですね!」

更に僕は続けた。
「挨拶が出来て、少し会話ができ始めたら、次に『ありがとう』を多用しよう。ドアを開けてくれたら、ありがとう。一緒に帰って別れる時は、ありがとうまたね、と。ありがとうと言われて嫌な気持ちになる人はいないよ。だから笑顔で挨拶、ありがとう。この二つがあればお友達は簡単に出来る。」

少女は不思議そうに僕を見つめた。僕は続けてた。
「僕も色んな人を見てきたけどね、友達が多い人って共通している事があるんだよ。自分から積極的に声をかけているんだ。しかも相手の反応を見て反応を見ながら喜びそうな声のかけ方をしているんだ。あれは、勉強したり練習したりして出来るものじゃないと思う。きっと生まれながらの性格なんだと思う。
でも、そこまでなくても挨拶は仲良くなる為の第一歩なのは確かだよ。」


少女は、嬉しそうに答える。
「わかりました。頑張ります。あいさつ出来たら、出来るだけ話しかけるようにします。でも私にできるかな」

と不安な顔を見せ始めた。

「大丈夫だよ、きっと出来る!あと大切なのは、やっぱり一歩踏み出す勇気。それが君にできるかどうかだよ。勇気を振り絞って一歩踏み出そうよ。これからの君の人生も変わるかもしれないよ」

そう答えると、彼女の顔から話不安が無くなっていた。
少女はブランコから立ち上がり、走り出した。

「おじさん、ありがとう! 私頑張って勇気を出してみる!」
と手を振りながら公園を去っていく。

僕も応えるように
「がんばれよ!それから知らない人から食べ物貰うなよ!」
と笑いながら答えてしまつた。

少女が公園から出ていくと、僕の心が締め付けてきた。
この嘘つき野郎。何が勇気だ、怖くないだ。人には散々偉そうに友達の作り方指南しておきながら、今の自分は何だ。勇気の「ゆ」の字もないだろう。自分自身で今の環境を乗り越える方法わかっておりながら、何で実行に移さないんだよ。


後日、商店街の公園の前を通ると、先日の女の子がお友達数人と楽しそうに遊んでいる姿を見つけた。

僕は心に住み着いている、本音と建前の二人の自分に挟まれて苦しんでいる。
こんな小さな女の子でも未来を信じて目一杯の勇気で一歩踏み出したのに・・・。
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