大切なあなたに幸せを

フィリア

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序章

王様ゲーム

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「なんでだよ!面白そうじゃん王様ゲーム!!」

 真夏は限りを尽くしてやろうと抗議し続ける。が、よく漫画やアニメで王様ゲームのシーンを見るが、あんな恥晒しなことやりたいとも思わない。

「なぁ汐恩。さっきはやりたくないって言ってたけどよ。秀になんでも命令できるんだぜ?」

「私はもとよりやるつもりだったわよ!」

 いやチョロ!こんなにもチョロかったんすか!?汐恩さん!?

「私やりたくないですよぉ!」

 有栖は抗議していた。すると、真夏は悪魔のような笑みを浮かべた。

「有栖ちゃん。秀に何かしてもらわなくても良いのか?」

「やりましょう!」

 汐恩と全くおんなじ手で有栖を落とす真夏。みんなちょろすぎると思うんだ。

「まぁ、私はどっちでも良いですけど……過激なのは無しにしましょうね?」

 音羽が釘を刺した。うむ。それで良い。恥晒しにはなりたくないのだ。

 そんなこんなで王様ゲームをすることが決定した。うん。切実に心の底からやりたくない。

「はいこれ。」

 真夏が何かを渡してきた。それは割り箸が入ってる袋だった。用意周到だなぁおい。もとよりやるつもりだっただろこいつ。

「ルールは命令の改変なしってことと、王様の命令は絶対って事で。」

 そう真夏が言い、みんな各々と割り箸を手に持つ。そして、

「王様だーれだ!」

「……………あれ?これ俺しか言わないの?」

 真夏一人の声が寂しく家中にこだました。

 僕は手に取った割り箸の番号を見てみる。そこには3番と書かれていた。ふむ。初手は王様じゃないと。誰が王様だろうと辺りを見回す。すると、王様になったらしき人物が声を上げる。

「クク。クハハ。私が王様なのね。」

 背筋に悪寒が走った。その声の主は汐恩だった。なぜ悪寒が走ったのか、言わなくてもわかるだろう。

「そうねぇ。どういう命令にしようかしらねぇ。」

 ニヤニヤしながら僕を見てくる。………いや、僕を見ないで!?

「こいつが王様って、ハズレだろ…俺嫌だよ、あいつとハグとかすんの。」

「そんな過激な命令、音羽ちゃんがなしって言ったのでないですよきっと。」

 汐恩はいまだに僕を見続けてくる。そして、口を開いた。

「2番が私とこのゲームが終わるまで当て手を繋ぎなさい!」

 ………え?何その命令。思ったよりも簡単なんだけど。もしかして漫画やアニメで見るようなあの過激展開とかならなかったりする?

 僕の中に希望が渦巻き始めた。すると、2番と思われる人物が声を上げた。

「私ですか。」

 どうやら音羽が2番だったようだ。

「秀じゃないの?無効よ!こんな命令!」

 汐恩は2番が僕じゃないと知るや否や騒ぎ立てる、が、

「悪いがルールで命令の改変はできないって言ったぞ。」

「む、むぅ。そんじゃさっさとやるわよ。」

 そう言い適当に手を繋ぐ二人。なんか見ててドキドキしない展開である。見ると真夏は興醒めしているようだった。

「そ、そんじゃ次行くぞ。」

 そうして各々割り箸を手に取る。

「王様だーれだ!」

「……意外と寂しいんだけど…」

 王様は誰だと辺りを見回す。すると、何やら肩を震わせている人物がいた。

「俺が王様だぁ!」

「そうか。お前が王様か。そんじゃやり直すか。」

「そね。不正だもの。」

「確かに不正ですね。」

「おぉい!俺は不正なんてしてねぇぞ!」

 まぁ、それは本当だろう。こいつは不正が嫌いだ。

「そんじゃ命令は何にしようかな~。」

 ウキウキした顔で色々と思案し始める真夏。俺の首にたらりと嫌な汗が流れた。

「よし!」

 どうやら命令を決めたようだ。神様おねがいします。どうか僕に当たらないように。

「4番!」

「ひっ…」

 思わず声を上げてしまった。これで4番が僕だとバレたようなものだ。まずいな。

「4番と2番がキスをするんだ!」

 僕の中に鐘の音が流れる。これは死んだな。僕はそう確信した。一応2番を見つけた方が良いだろう。

「ふふ。ふふふ。」

 何やら呻くように笑っている人物を発見した。

「…………え?」

 信じたくなかった。まさかこいつにキスすることになるなんて。

「私は神に愛されているのかもしれないわねぇ。」

 ニヤニヤしながら立ち上がり、こっちに近づいてくる人影。やめろ、やめろよ。頼むからこっちに来ないでくれ。

「一回落ち着け汐恩!」

 僕は叫んだ。このままではまずい流れになり倉な気配がする。

「何よ。私とキスできて幸せじゃないの?」

「い、いやそういうわけじゃ…いやそういうわけかもしれないけど。」

 僕が落ち着かせようと言葉を捲し立てるが、その間汐恩はだんだんと近づいてきて、僕の肩に手を置いた。

「汐恩。冷静になれ。真夏は唇にしろなんて一言も言ってないんだ。」

 ジーっと僕を見つめてくる汐恩。頼むから伝わっててくれ。

「わかったわよ。」

 汐恩は不満そうに呟いて、勢いよく僕の左頬にキスをした。これで僕の右頬と左頬はどちらも経験済みと言うことになる。

「…………っ!」

 僕は体を硬直させた。それは、左斜め前方の方からとんでもない殺気を感知したからである。

「………あ…有栖…さん?」

 まずい。あの目は今すぐにでも人を殺す目だ。

「秀先輩。」

「は、はい。」

「後で覚えておいてくださいね!」

「はい…」

 可愛かった有栖は面影も感じず、般若になっていた。怖い。

「そ、そんじゃ次行くか。」

 真夏の声でみんな割り箸を掴む。そして

「王様だーれだ!」

 僕は自分の番号を確認して呟く。

「僕か…」

 王様は僕だった。ここでどんな命令をしようか。過激なものを便乗して出すのも良いが、それではよくない流れになってしまう。だから僕は簡単な命令を出すことにした。  

「そんじゃ、1番が4番に全力でしっぺ。全力じゃなかったらビンタされるってことで。」

 その瞬間二つの声が上がった。

「俺が1番かよ。ビンタ確定じゃんか…」

「わ、私が4番ですか…うぅ…」

 1番は真夏で4番は有栖だった。うん。男を見せるのならビンタ確定である。まぁ、真夏は意外と男気があるがゆえ、おそらくビンタされる選択肢を取るだろう。

「じゃあビンタしてくれ。」

 かっこいいねぇ真夏くん。

 そうして有栖が真夏の横に立ち、

「えい!」

 ペチリと、可愛らしい音がした。多分それ痛くも痒くもない。まぁ、命令ではビンタは全力じゃないって言ってたからそれで良いけど。

「なんか、かわいいな。」

「やっぱ兄さんもそう思うよね。」

 ビンタでぺちりとかいう音初めて聞いたぞ。普通はバッチーンとか言うんじゃないの?

「そ、それじゃあ次ラストにするか。」

 真夏の言葉に全員が頷いた。そして

「王様だーれだ!」

「ありゃ、私ですか…」

 隣にいた音羽が声を上げた。

「音羽ならやばい命令しなさそうだな。」

 安心した。ほんと、心の底から。

「う~ん。最後の命令って難しくないですか?」

「まぁ、そうだろうな。終わりって感じの命令にしてくれよ?音羽ちゃん。」

 真夏がプレッシャーをかけた。やめたげれ。可哀想だぞ。

「それじゃあそうすることにします。」

 音羽の命令にみんなが耳を傾けた。この時、誰も知らなかった。この後にとんでもない地獄を見る人が現れることを。

「2番は明日初詣行った時に半袖短パンで行って、鐘の前で3回回ってワンって叫んでください。」

「………は?」

 全員の口から素っ頓狂な声が漏れる。全員が慌ただしく番号を確認する。

「良かったぁ、俺じゃない。」

 真夏は違うと。

「私も違います~。良かったです~。」

 有栖も違うと。残されるは僕と汐恩。汐恩は恐る恐る番号を確認する。そして、

「ほっ…」

 安堵の声が漏れた。………え?僕は恐る恐る番号を確認する。

『2番』

「………僕も違うわ良かったぁ。」

「嘘つくなよ秀。王様の命令は?」

「……絶対……」

 そうして僕はこの命令を実行することが決まり、初詣で寒さによる地獄と寒いし視線による地獄を同時に体験したのであった。
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