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第九話 出前
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今日は定休日だが、俺は店でコーヒーを淹れている。というのも、ある場所に出前するよう頼まれているからだ。もともと、うちの店にそんなサービスはない。だけど昔からのお得意様ということで、叔父さん経由で出前を頼まれたというわけだ。
ポットにコーヒーを入れ、ふたをする。カップなんかと一緒に自転車のかごに積み、目的地へと走り出した。
かごを揺らさないよう、慎重にペダルを漕いでいく。制服を着たまま自転車を走らせてるから、傍から見たら奇妙だろうな。
地図を頼りにたどり着いた先は、柵で囲まれた建設現場だった。
あれ?ここで合ってるのかな?住所間違えたかな……
右往左往していると、ヘルメットを被った一人の男が出てきた。作業着ではなく、お洒落にジャケットを着こなしている。なんだか、この場に似合わない格好だな。
「君、『凡人』の人?」
「はい、そうです」
「注文したのは僕だよ。 わざわざすまんね」
「いえ、ありがとうございます。 ただ今ご用意しますから」
俺はポットからカップにコーヒーを注ぎ、男に差し出した。
「お待たせしました。 コーヒーでございます」
「お、ありがとう」
「お会計については、マスターの奢りとのことでしたので」
「本当かい? 何から何まですまんね」
そう言うと、男はコーヒーを美味しそうに飲んだ。
「いやー、相変わらず美味いね。 マスターにご馳走様と伝えておいてくれ」
そう言いながら、男は空になったカップを手渡してきた。
「ありがとうございます。 伝えておきますね」
俺は片付けを始めた。男の方を見ると、現場の写真を熱心に撮っていた。だが、しばらくすると帰り支度を始めた。
「さて、僕も行かなくちゃ。 本当は店で飲みたかったんだけどね」
「そうだったんですか。 今度は是非おいでください」
「ははは、だといいけどねえ。 海外を拠点にしてから、日本に来ることも少なくなってね」
男は寂しそうな表情で、そう言った。
その言葉を聞いてぴんと来た。そうか、この人は建築家だ。昔、テレビで紹介されていた気がする。今日ここに来たのも、自分が設計した建物がどうなったのか視察に来たってことだろうな。
「では、お先に失礼します。 ご利用ありがとうございました」
「ああ、ありがとうね。 そう言えば、君はマスターの甥っ子なんだって?」
「はい。 その通りです」
「君の叔父さんにはずいぶんお世話になったよ」
「え? 叔父にですか?」
「ああ、そうさ。 なんと言っても――」
「あの喫茶店は、僕の初めての仕事だからね」
ポットにコーヒーを入れ、ふたをする。カップなんかと一緒に自転車のかごに積み、目的地へと走り出した。
かごを揺らさないよう、慎重にペダルを漕いでいく。制服を着たまま自転車を走らせてるから、傍から見たら奇妙だろうな。
地図を頼りにたどり着いた先は、柵で囲まれた建設現場だった。
あれ?ここで合ってるのかな?住所間違えたかな……
右往左往していると、ヘルメットを被った一人の男が出てきた。作業着ではなく、お洒落にジャケットを着こなしている。なんだか、この場に似合わない格好だな。
「君、『凡人』の人?」
「はい、そうです」
「注文したのは僕だよ。 わざわざすまんね」
「いえ、ありがとうございます。 ただ今ご用意しますから」
俺はポットからカップにコーヒーを注ぎ、男に差し出した。
「お待たせしました。 コーヒーでございます」
「お、ありがとう」
「お会計については、マスターの奢りとのことでしたので」
「本当かい? 何から何まですまんね」
そう言うと、男はコーヒーを美味しそうに飲んだ。
「いやー、相変わらず美味いね。 マスターにご馳走様と伝えておいてくれ」
そう言いながら、男は空になったカップを手渡してきた。
「ありがとうございます。 伝えておきますね」
俺は片付けを始めた。男の方を見ると、現場の写真を熱心に撮っていた。だが、しばらくすると帰り支度を始めた。
「さて、僕も行かなくちゃ。 本当は店で飲みたかったんだけどね」
「そうだったんですか。 今度は是非おいでください」
「ははは、だといいけどねえ。 海外を拠点にしてから、日本に来ることも少なくなってね」
男は寂しそうな表情で、そう言った。
その言葉を聞いてぴんと来た。そうか、この人は建築家だ。昔、テレビで紹介されていた気がする。今日ここに来たのも、自分が設計した建物がどうなったのか視察に来たってことだろうな。
「では、お先に失礼します。 ご利用ありがとうございました」
「ああ、ありがとうね。 そう言えば、君はマスターの甥っ子なんだって?」
「はい。 その通りです」
「君の叔父さんにはずいぶんお世話になったよ」
「え? 叔父にですか?」
「ああ、そうさ。 なんと言っても――」
「あの喫茶店は、僕の初めての仕事だからね」
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