絶滅の旅

古野ジョン

文字の大きさ
14 / 15

最終話 絶滅の旅

しおりを挟む
「ハカセ、待ってよ!!!!!!!!!!!」


いきなりゼロが大声を出した。
まだそんな気力が残っていたとは。
「ハカセなんかには従わないもん!べー」
ゼロはキミヅカにあかんべーをした。
だがよく見ると――
舌先にカプセルが乗っていた。まさか、これは……
「馬鹿な!!ゼロ、お前の薬剤合成部は破壊したはずだ!!」
キミヅカが初めて動揺した。
「これ以上タツヤさんをいじめたら、私これ飲んで死ぬから!!!」
たしかに、ゼロたちと俺たちの構造は似ている。
だからゼロも自分で合成した薬を飲めば死に至る可能性は十分にある。
だがなぜ薬を用意できたんだ、いやそれよりも――


「今だ!!」


俺は動揺するキミヅカに飛び蹴りを食らわせた。
倒れ込んだキミヅカを抱える。
そして超人類たちが発砲してくる前に、俺は銃をキミヅカの頭に当て
「お前らが撃とうとすれば、俺もキミヅカを撃つぞ!!!」
と叫んだ。
それを聞いた超人類たちは銃を下した。
「キミヅカ、お前に聞きたいことがある」
「な、なんだ?」
「ゼロの正体はお前の死んだ娘、レイコだろう。間違いないか?」
「……部分的にはそうだ。私は熱波で死んだ零子レイコの知能をゼロに移植した。だが記憶は移植できなかった」
「おかしいと思ったんだ。ベルナデッタたちと違ってこいつはアホ過ぎる。恐らく、まだ幼かったレイコの人格を移植したから身体と脳みそが釣り合っていなかったんだろう。違うか!?」
「……そうだ。」
やはりそうか。
ポンコツロボットがこんな重要な任務をこなしていることに違和感があった。
だがこれで説明がついた。
「ゼロの名前は零子の零を取ってつけたんだな。てっきりシリアルナンバーだと思い込んでいたよ」
「……やはり君も頭がキレるな。」
「どうしてゼロ……いや、レイコを女王にしようと思ったんだ」
「死んだ娘を不憫に思ったからだ。私はレイコを失ってから、彼女を復活させる計画をしていた。だが文明崩壊が現実味を帯びてきたときに、彼女は復活したとて荒廃した世界を生きねばならないことに気が付いた。それでは彼女に再び苦しい思いをさせるだけだ。そこで、彼女を女王として新文明を築くことを計画した。その後、日本政府に国民を安楽死させる計画を持ち掛けた。日本政府の力を用いて旧文明を消失させたあと、新文明をすみやかに始めるためにね」
日本政府には自分の計画を隠したまま、国民を安楽死させようと持ち掛けた。
その過程で超人類を作り出し、不要になったベルナデッタたちを安楽死の補助用に転用した。
その結果、俺たち旧文明収束官はまんまとキミヅカの計画を手伝うことになったわけか。
結局俺も騙されていたというわけだ。
たしかに、詐欺師としてのプライドは傷つくなあ。
お前の気持ちがちょっとだけ分かったよ、マサト。
「だが、キミヅカ。お前のやったことがどんなことか分かっているのか」
「……ああ。とんだ親バカさ」
「そうか。では死ね」


どん。という音とともに、俺はキミヅカの頭を撃ちぬいた。


次の瞬間――
超人類たちが一斉に俺に向かって射撃した。
服のおかげで急所は外れたが、体中に穴が開いた感じがした。
俺も思わず仰向けに倒れ込む。
超人類たちが俺にとどめを刺そうと近寄ってきた。
するとゼロが、
「やめなさい!!女王様の言うことが聞けないの!?」
と大声をあげた。
すると、皆銃を下げた。


間もなく、背中じゅうに温かい感覚が広がった。
見なくともわかる。俺の血だ。
これが死か――
「タツヤさん!!!!死んじゃだめですッ!!!!!!!」
ゼロが大泣きで叫んだ。
なんだ、もう元気じゃないか。流石は女王様だ……
「なあ、ゼロ。俺はこの仕事に就く前から悪いことをたくさんしてきたんだ。そして収束官としてもたくさん人を殺した。こうなることは分かってたんだ」
「けど……、けどぉ……!!」
ゼロは俺の体にすがりついた。
「タツヤさん、一言謝りたいことがあるんです……。」
「なんだ、ゼロ?」
「レイナさんのとき、私はつい嫉妬しちゃって……ちょっと暴走しちゃいました」
「ああ、あのときか。」
俺はレイナのとき、もっと穏やかに安楽死させるよう考えていた。
実行の直前、俺は「カプセルか注射器かこっそり手渡してくれ」という意味で右手を挙げたのだが、ゼロは首に咬みついてしまった。
結果的に、レイナは半ば無理やり殺されるような格好になってしまった。


「もう、いいんだゼロ……お前はよく頑張ったよ」
「タツヤさん、ありがとうございます……。さっきのお薬、レイナさんのために作っていた分なんです」
そうか、さっきあかんべーをして見せていたのはレイナの分だったのか。
だがつい暴走して首咬みで実行したから、不要になった。
それが余っていたのか。
俺はゼロにそっと語りかける。
「ゼロ、頼みがあるんだ。」
「なんですか、タツヤさん……?」
「どうせ死ぬなら、お前の手で殺してほしいんだ。」
俺は生を渇望していた。
今まで生きるために仕事をやってきた。
だが死が間近に迫った今、初めて殺してほしいと思った。
この愛する相棒――ゼロの手によって。


かつて、ゼロとともに崩壊直後の東京を歩いたことがあった。
まだ居住可能地域で気温もそこまで高くなかった。
東京は、俺の故郷だった。
文明崩壊によって、子どもの頃に住んだ家は破壊されていた。
かつて遊んだ公園も焼け野原になっていた。
だが、なんとか形を残したままのものがあった。
両親の墓だった。
「ここにタツヤさんの『親』が眠ってるんですか……?」
「そうだ、ゼロ。俺の両親はここに眠っている。」
俺の両親は、幼いころに死んだ。
俺は両親への感謝の気持ちなど微塵もない。
そのせいで俺は詐欺師という道を選ばざるを得なかったのだから。
それでも俺は、墓参りをしようと思った。
恐らく、二度と東京に足を踏み入れることは出来ないと思ったからだった。
俺は墓に向かって語りかけた。
「悪いな、こんな詐欺だの人殺しだのする親不孝な息子になっちまってよ。」
「けど、なんとか生き延びてこられたんだ。これからもしばらくは死なねえでやるから、それで親孝行ってことにしちゃくれねえか」
そう言って俺は、水筒の水を少しだけ墓にかけた。
ゼロもそれを真似して、少しだけかけた。
そしてゼロと共に、手を合わせた。
それから、二度と両親の墓に参ることは出来なかった。
俺は親孝行のつもりで、今の今まで人生を全うしたつもりだった。
もういいよな、仕事も済んだんだ。
俺の中で、生への渇望というものが消えていた。


「殺してくれなんてひどいです、タツヤさん……。」
ゼロはただ泣くだけだった。
俺は残る力を振り絞ってポケットから王冠を取り出し、ゼロに被せてやった。
「ゼロ、お前は女王になるんだ。俺たち人類とは違う、新しい文明を築くんだ」
「でも、でもぉ……!」
「……これが最後の命令だ。立派なプリンセスになれよ」
「……はいッ!分かりましたッ!」
ゼロは涙目になりながら、元気にそう言ってくれた。
今まで命令した時と、同じように。
「では、やってくれ」
「はいッ!」
そう言ってゼロは、ゆっくりと顔を近づけ――


俺に口づけをした。


俺とゼロは舌を絡めた。愛おしく、別れを惜しむように。
そして俺は、ゼロの舌からカプセルを絡めとり、目を閉じた。
もちろん、薬が全身にまわる前に俺は失血死するだろう。
けど、そんなことは言わなかった。


だんだんと意識が遠くなる。
眼前に広がる暗黒な世界。
微かにゼロのすすり泣く声だけが聞こえてきた。
それでもゼロは力を振り絞り、静かに口を開いた。





「タツヤさん、お仕事お疲れ様でした」





絶滅の旅は――終わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...