潜入スパイですが、敵国のわんこな部下を愛してしまったので、去る前に思い出SEXだけすることにしました。

水鏡あかり

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3 流れ星のお誘い

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 早速、ごそごそと部屋を整理していたリリアは、ピコンッというメッセージ受信音で顔を上げた。
 いつも耳につけているデバイスを操作すれば、目の前に、満天の星空の映像がぱっと映る。
『中尉! 今日、流れ星見えますよ。リックに聞いたら、流星群だって言ってました!』
 たしかに、星空の映像のあちこちで、いくつもの星が流れていく。
(綺麗……)
 星を見るのが好きらしいジャックは、非番のときはよく、展望台のガラスドームにいると、リリアは本人から聞いて知っていた。この軍基地は山の頂上付近に設置されているから、空気が澄んでいて、星空がとても綺麗に見える。
 それか、大好きなバイクや車を整備したり改造したり、乗り回したりしているそうだ。
 とはいえ、星を見るのが好きとは言っても、その場で安心して寝ていることが多いらしいが……。
 リリアはちらっと時計を確認した。
 午後十時ちょっと過ぎ。
 ジャックはそろそろ引き上げてしまうだろう。
 この、夜のお誘いは、ジャックの都合の良いときに気まぐれで来る。
 夜に休みがあって、星が綺麗で、バイクや車より星を見たくなった日。そしてジャックとリリアの休みが重なる日。
 同じチームとはいえ休みは同じではなく、交代で取っているから、なかなかレアなお誘いだった。
 頻度としては月に一、二回。
 まだ、一度も応えたことはない。
 ジャックも別に怒ることはなく、『俺が、自分のルーティンのなかで勝手に待ってるだけなんで、中尉の気が向いたら来てくださいね~』とゆるいスタンスだ。
 だから、なんだか決定的に断りきれずにいる。
 ただ、昼間か夕方に『今夜待ってるんで』と知らされ、ジャックが引き上げるときには『そろそろ帰るんで。中尉、おやすみなさい』とメールが来る。それだけ。
 なんだかその姿がいじらしくて、ついつい毎回、『おやすみ。ジャック、また明日ね』などとメールを返していた。
(これを逃したら、次はないかもしれない……)
 そう思えば、寂しさが胸を締め付けた。
 『リリア』という人間はこれから、嘘の人事異動で、シェル国の諜報部に行くことになる。チームメンバーには、「任地も機密だから言えないし、これから会えなくなる」と伝えるつもりだった。
 それで、姿をくらました上で本国に脱出する。
 リリアはもう一度、星空の映像を再生した。
 ガラスドーム越しの星空が映ったその映像は、角度を見るに、きっと寝っ転がったまま撮影を開始して、立ち上がって窓の近くに寄ったのだろう。
 見上げていたら、流れ星が降ってきたから、見せたいと思って、慌てて撮り始めた。
 そんな感じがした。
(ジャックらしい……)
 微笑ましくて、くすっと笑みが零れる。
 『リリア』は、一年後に、諜報部の任務中に殉死する予定だ。ジャックはたぶん、順調に出世していくだろうから、いつかはその『事実』を知ることができる地位になるだろう。
(ジャックは泣くかな……)
 そもそも、かつて異動していった上官のその後など、調べようとするだろうか。
 もしデータを見たとしてもきっと、「そんな上官もいたな」と思うだけなのではないか。そして、そのときの恋人の元に……いや、奥さんかもしれない。そこへ帰って、また日常に戻る。
 そう考えると、リリアはたまらない気持ちになった。
 いま、「ホワイト中尉」と嬉しそうに呼びかけてくれるあの顔で、別の誰かを呼ぶようになるのだろう。
 嫌だ。
 だが、どうしようもない。
(……………でも一回だけ……なら)
 一回くらい、応えてしまっては駄目だろうか。
 お互い、それを思い出に諦めるということで。
 一回だけ。
 リリアは運命を天に委ねるつもりで、前に女性の先輩に教わった、この基地内の秘密サイトに飛んだ。
 404エラーが表示される。
 ページが存在しないという意味だ。
 そのなかに巧妙に隠されているパスワード入力画面にパスワードを入力すると、パッと画面が切り替わって、いくつかの部屋写真と共に部屋番号が表示された。
 これらの部屋は、大っぴらには言えないが、基地内で代々、有志によって引き継がれてきた、……まぁはっきり言うと、逢引き部屋である。もっと露骨に、ヤリ部屋という者もいた。
 軍としても、既婚者が増えることは望ましいと思っているのか、黙認されている。帰る場所がある、待っている人がいると思うからなのか、既婚者の生還率は高いのだそうだ。
 公共の場での会話や勤務中に、「逢引き部屋」なんて言えないから、このサイトは「404番地」と呼ばれていた。
 リリアは画面をスクロールした。
(展望台のすぐそばの部屋…は、…)
 空いていれば行く。
 空いていなければ行かない。
 空いていれば一度きりのチャンスを掴む。
 空いていなければ諦める。
 灰色か赤か。
 今夜が流星群だというのなら、全部埋まっていてもおかしくない。
(……あ、空いてる!)
 奇跡的に、一部屋、空いていた。
 それでリリアは腹を決めた。
 予約を入れれば、部屋番号の背景が、灰色から赤に変化する。
(やっちゃった……! 予約しちゃった!)
 本国の諜報活動の一環で、秘密の部屋があるらしいという情報を掴み、このシステムに辿り着いたときはかなり脱力したが、なにが役に立つかわからないものだ。
 あとはジャックにメッセージを送らなければ。
 帰ってしまう。
『ジャック、あと三十分待てる? そこまでかからないと思うけど』
 送信ボタンを押した途端、リリアは高速で頭を回転させた。
 ……軽くパニックになっていると言ってもいい。
(えっと、えーと、しゃ、シャワーどうしよう。ジャックはもう入ったのかな。先輩は部屋にもシャワーはついてるって言ってたけど……。というか服! キメていったら、逆に変に思われるよね。それは避けないと……)
 おろおろとウォークインクローゼットに入ったところで、ジャックからピコンッと返信が来て、リリアは文字通り飛び上がった。
『待ってます』
 簡素なメッセージの背景には、特大の赤いハートのムービーがチョイスされていた。
(う、うむ……行ってやるわよ。待ってなさい!)
 スパイとは言っても、リリアは閨房術の適正が低いと判断され、閨房術は基礎を修めただけだ。その代わり、得意な体術と、ずば抜けて成績が良かった軍事技術や戦術の知識を伸ばされてきた。
 気になる相手と、……となると初めてである。
(ここから展望台まで十分ちょっと。……ジャックをあまり待たせられないと思って三十分とか言っちゃったけど、一時間って言えばよかったかも!)
 ひぃ…。
 半べそになりつつ、リリアは服をあれこれベッドに広げだした。

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