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一話 アクアシティ
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溢れんばかりの人混みにうんざりしながら、勇上八代は一人で大都会を歩いていた。
中学生の頃から漫画やアニメに夢中になり、フィギュアやラノベを買う以外は家をでないという引き篭もりの生活を送っていた。
家族からは正直呆れられ、ほぼ放置されていた状態だったが、高校を卒業したら一人暮らしを始めろとは言われていた。
卒業してからはすぐに家を追い出されたが、住む所は生活が安定するまで支援してくれるそうだ。
その日のためにバイトをし、なんとか暮らせる程度には軍資金を貯めることができていた。
今日はその軍資金を使って家具を買いに来ていた。
なんでこんな日に外に出たんだろうと八代は後悔していた。
八代は人混みが苦手なのである。その上、日差しがギラギラと照りつけてくる。
しかも今は夏だ、余計に不快に感じるだろう。
八代は人混みから逃げるべく、人が少ない場所を目指した。
こんな場所に人が少ない場所があるだろうかと思うが、大きな広場のようなものが見えていた。
そして人混みを抜けると目を見張る光景を目にした。
街のいたるところで様々な広告やニュースなど、映画が画面から飛び出して空中に浮かんでいる。さらにその上を見上げると、大きな建物に隠れ、積乱雲がすこし顔をのぞかせていた。
さらに広場にはたくさんのドローンが停まっていた。
これはいわゆるタクシーとして使われるものであり、操縦者はおらず無人で目的地まで運んでくれる。
全てのドローンには製造会社のカッコいいロゴがつけられており、広告のようなものをボディー、胴体部分に映像として流している。
ちなみに物資を輸送するドローンもあるが、専用に作られた空港でしか着陸できないらしい。騒音が凄いという理由で。
八代は見慣れない光景に、すでに目が回りそうになっていた。
「これで小さい都市なのか」と八代は無意識に呟いていた。
そうなのだ、これでも十分大きな都市のはずなのだが、この国の首都ではないらしい。
海外からやってきた観光客もこれには思わず上を見上げてしまうだろう。
帰ったら友人への土産話にできそうだと八代はウキウキしながら考えるのだった。
常に落ち着きがない八代である。
引っ越しのための買物の用事も忘れて、八代はすでに観光気分でいた。
ついには完璧に頭から消し飛び、都会を見て回ろうと足を進めた時だった。
耳をつんざく大きな爆発音があたりに鳴りひびいた。
みんなが突然のできごとに時間が止まったような感覚に陥おちいっていた。
「・・・・な、なにが起きた?」
沈黙を破るように誰かがつぶやく。
それに釣られて周りも困惑しながら音がしたほうに身を乗りだしていた。
そして八代というと、
なんかのイベントだろうか?と警戒心のカケラもなかった。
八代も続いて野次馬の最後尾から背伸びをして覗いた。
見ると、地面からは真っ白な大きい煙が立ちのぼり、中の様子を確認できないでいた。
そして、となりには巻き込まれた珍しい真っ白なドローンが横転しており、道をふさいでしまっていた。
なんだなんだと、人々が心配してると低いうなり声のようなものが聞こえた。
その直後、頭上に大きな鳥が現れた。
いや、それは鳥と言うには余りにも巨大で、博物館から飛び出してきたプテラノドンの姿にそっくりであった。
おぉ凄いな。なんかの劇か、と都会は何でもあるんだなと八代は感心していた。
するとプテラノドンは人混みの中に弾丸のごとく飛び込んでくる。
そして、小柄な成人男性をつまみあげ、抵抗させぬ間もなく遠くに羽ばたいていった。
いたるところで悲鳴が上がった。
それが嫌でも現実と分からせられ、身の毛がよだつのだった。
大勢の人がその場所から逃げようと通行人を押し倒しながら走り出すが、八代は恐怖で足がすくんで動けなくなってしまった。
そう八代はビビりな怖がりなのだ。ジェットコースターやお化け屋敷も、誰かと一緒じゃなきゃ入りたくないのだ。
まあ普通一人じゃそんなとこは行かないだろう。
向かってくる人々の勢いに負けてしまい、八代は地面に押し倒されてしまった。
これでもかと踏み潰され、痛みに喘ぎ、口の中は鉄の味がしたが必死の思いで耐えていた。
その時だった。
目の前に丸刈りのサングラスをかけた巨漢の男が覆いかぶさってくるのが見えた。
八代の普段から体を鍛えて、普通の人とくらべて頑丈な方だ。
それでも、大柄な男に乗られるのはヤバいと思い、意識が飛ばないよう覚悟した。
そのぐらい対格差が違うのだ。
「ぐえ」
これまで以上に強烈な痛みをお腹に感じ、つぶれたカエルのうめき声のようなものがでた。
あれ、結構やばいかもしれないと過去一番の痛みを感じた。
高所から飛んできた訳ではなかったので衝撃が少ないはずと希望を持っていたが、それはもう立派なプロレス技だった。
せめてもう少し勢いを殺して欲しかったと八代は思った。
「すまない、大丈夫か!?」
おっさんはそのイカツイ顔をドアップにして声をかけてくる。
彼なりに心配してくれたのだろうが、八代はもう一発重いものを食らわされた気がした。
本当に失礼すぎる八代である。
そうして、八代の記憶はおっさんの顔を最後に途切れてしまうのだった。
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