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「チャーミー・ド・ベルサイユ! 貴様のような、淑女の欠片もない女との婚約は、今日、この瞬間をもって破棄させてもらう!」
きらびやかなシャンデリアが輝く王宮の夜会会場。その中心で、第一王子アルフォンスが、喉も裂けよとばかりに叫んだ。
その隣には、か弱い花を思わせる令嬢マリアンヌが、怯えたように王子の腕にすがっている。
会場に集まった貴族たちの視線が、一斉に一人の令嬢に突き刺さった。
公爵令嬢チャーミー。
彼女は、あまりの衝撃に立ち尽くしている……ように見えた。
「…………」
チャーミーは、扇を握りしめたまま硬直していた。
視線は宙を彷徨い、口角は微かに震え、目は血走っている。
「……ふ。ふふ。ふふふふふふ」
不気味な笑い声が、彼女の唇から漏れ出した。
王子は一歩後ずさり、マリアンヌを守るように身構える。
「な、なんだ! あまりのショックで気が狂ったか!?」
「殿下、今、なんとおっしゃいました? もう一度、私のこの鼓膜に、天使の歌声を届けてはいただけませんか!?」
チャーミーが、ガバリと顔を上げた。
その表情は、令嬢にあるまじき凄まじいものだった。
目は見開かれ、鼻の穴は膨らみ、喜びを抑えきれないと言わんばかりの「満面の笑み」——というよりは、獲物を前にした獣のような形相である。
「き、貴様、その顔はなんだ! 私は今、婚約破棄だと言ったのだぞ! 聞こえなかったのか!」
「いいえ! 聞こえましたわ! はっきりと! 右の鼓膜を通り抜け、左の鼓膜を震わせ、脳髄にまで直接響き渡りましたわ!」
チャーミーは、持っていた扇を力任せにバキリと折った。
「これで……これでやっと、あの地獄のようなダイエットから解放されますのね!? 毎朝のコルセット締め上げ、三食の温野菜生活、そして三時間のマナー教育……! 全部、ポイ捨てしてよろしいのですわね!?」
「なっ……」
「おまけに、殿下の長ったらしい『愛のポエム』を、寝る間を惜しんで添削する作業からもおさらばですわ! ああ、神よ! 感謝いたしますわ!」
チャーミーは、ドレスの裾を豪快に掴み上げると、その場でくるくると回り始めた。
その動きは優雅なワルツとは程遠く、まるで荒ぶる魂を鎮める儀式のようだった。
「お、おい! 私のポエムを添削だと!? あれは私の魂の叫び……」
「魂の叫びにしては、文法ミスが多すぎますのよ! 『君の瞳は宇宙』と言いたいなら、せめて漢字の書き間違いを直してからおっしゃってくださいませ!」
チャーミーは、一気に王子との距離を詰めた。
至近距離で見る彼女の顔は、喜びのあまり白目を剥きかけている。
「さあ! 婚約破棄の書類はどこにありますの!? 今すぐ、この私が公爵家の印鑑を、血判でもなんでも押して差し上げますわ!」
「チャーミー様……。本当は、お辛いのでしょう……? 無理をなさって……」
見かねたマリアンヌが、震える声で口を挟んだ。
チャーミーは、マリアンヌの方をカッと見開いた目で睨みつけた。
「マリアンヌ様! あなたこそ、今ならまだ間に合いますわよ! この王子、寝る時に自分の名前を呼んでから寝るタイプですわよ! 耐えられますの!? 私は無理でしたわ!」
「えっ……。アルフォンス様、本当なのですか……?」
マリアンヌの視線が、一瞬で冷ややかなものに変わった。
「そ、それは……! 自分を鼓舞するためのルーティンであって……!」
「いいのですわ、殿下! そんな些細なことは、この愛に満ちた(予定の)お二人で解決なさればよろしいのですわ!」
チャーミーは、懐から一枚の書状を取り出した。
「実は、いつ言われてもいいように、あらかじめ私の方でも『婚約解消合意書』を作成しておきましたの! さあ、サインを! 早く! 私の自由のために!」
「な、なぜ準備がいいのだ……」
王子は、チャーミーの気迫に押され、ガクガクと震える手でペンを取った。
サラサラとサインが書かれた瞬間、チャーミーはそれをひったくるように奪い取った。
「やった……。やりましたわあああ!」
彼女は、夜会会場のど真ん中で、天に向かって拳を突き上げた。
「皆様! 今日、この日から、私はただのチャーミーですわ! 明日からは昼まで寝て、昼食には唐揚げをバケツ一杯食べて、夜には酒場を飲み歩きますわ!」
「……不謹慎だぞ、チャーミー! そんな振る舞い、公爵家が許すはずが……」
「父様なら、既に私の部屋の窓から逃亡用の荷物を投げ入れてくれておりますわ! 『お前は自由になれ』と、涙ながらに言ってくれましたもの!」
チャーミーは、豪華な装飾が施されたドレスのスカートを、躊躇いもなくビリリと引き裂いた。
中から現れたのは、なんと動きやすそうな旅装——ズボン姿だった。
「さらばです、殿下! あなたのナルシシズムに、幸多からんことを!」
チャーミーは、会場の大きな窓枠に足をかけた。
「おい、待て! ここは二階だぞ!?」
「自由の翼があれば、これくらいの高さ、実質ゼロメートルですわ! トオーッ!」
豪快な掛け声と共に、公爵令嬢チャーミーは夜の闇へとダイブした。
残されたのは、あまりの出来事に言葉を失った王子と、引き気味のマリアンヌ。
そして、窓の下から聞こえてくる「アハハハハ! 自由ですわー!」という、絶叫に近い笑い声だけだった。
これが、後に伝説となる「爆笑悪役令嬢」の、自由への第一歩であった。
きらびやかなシャンデリアが輝く王宮の夜会会場。その中心で、第一王子アルフォンスが、喉も裂けよとばかりに叫んだ。
その隣には、か弱い花を思わせる令嬢マリアンヌが、怯えたように王子の腕にすがっている。
会場に集まった貴族たちの視線が、一斉に一人の令嬢に突き刺さった。
公爵令嬢チャーミー。
彼女は、あまりの衝撃に立ち尽くしている……ように見えた。
「…………」
チャーミーは、扇を握りしめたまま硬直していた。
視線は宙を彷徨い、口角は微かに震え、目は血走っている。
「……ふ。ふふ。ふふふふふふ」
不気味な笑い声が、彼女の唇から漏れ出した。
王子は一歩後ずさり、マリアンヌを守るように身構える。
「な、なんだ! あまりのショックで気が狂ったか!?」
「殿下、今、なんとおっしゃいました? もう一度、私のこの鼓膜に、天使の歌声を届けてはいただけませんか!?」
チャーミーが、ガバリと顔を上げた。
その表情は、令嬢にあるまじき凄まじいものだった。
目は見開かれ、鼻の穴は膨らみ、喜びを抑えきれないと言わんばかりの「満面の笑み」——というよりは、獲物を前にした獣のような形相である。
「き、貴様、その顔はなんだ! 私は今、婚約破棄だと言ったのだぞ! 聞こえなかったのか!」
「いいえ! 聞こえましたわ! はっきりと! 右の鼓膜を通り抜け、左の鼓膜を震わせ、脳髄にまで直接響き渡りましたわ!」
チャーミーは、持っていた扇を力任せにバキリと折った。
「これで……これでやっと、あの地獄のようなダイエットから解放されますのね!? 毎朝のコルセット締め上げ、三食の温野菜生活、そして三時間のマナー教育……! 全部、ポイ捨てしてよろしいのですわね!?」
「なっ……」
「おまけに、殿下の長ったらしい『愛のポエム』を、寝る間を惜しんで添削する作業からもおさらばですわ! ああ、神よ! 感謝いたしますわ!」
チャーミーは、ドレスの裾を豪快に掴み上げると、その場でくるくると回り始めた。
その動きは優雅なワルツとは程遠く、まるで荒ぶる魂を鎮める儀式のようだった。
「お、おい! 私のポエムを添削だと!? あれは私の魂の叫び……」
「魂の叫びにしては、文法ミスが多すぎますのよ! 『君の瞳は宇宙』と言いたいなら、せめて漢字の書き間違いを直してからおっしゃってくださいませ!」
チャーミーは、一気に王子との距離を詰めた。
至近距離で見る彼女の顔は、喜びのあまり白目を剥きかけている。
「さあ! 婚約破棄の書類はどこにありますの!? 今すぐ、この私が公爵家の印鑑を、血判でもなんでも押して差し上げますわ!」
「チャーミー様……。本当は、お辛いのでしょう……? 無理をなさって……」
見かねたマリアンヌが、震える声で口を挟んだ。
チャーミーは、マリアンヌの方をカッと見開いた目で睨みつけた。
「マリアンヌ様! あなたこそ、今ならまだ間に合いますわよ! この王子、寝る時に自分の名前を呼んでから寝るタイプですわよ! 耐えられますの!? 私は無理でしたわ!」
「えっ……。アルフォンス様、本当なのですか……?」
マリアンヌの視線が、一瞬で冷ややかなものに変わった。
「そ、それは……! 自分を鼓舞するためのルーティンであって……!」
「いいのですわ、殿下! そんな些細なことは、この愛に満ちた(予定の)お二人で解決なさればよろしいのですわ!」
チャーミーは、懐から一枚の書状を取り出した。
「実は、いつ言われてもいいように、あらかじめ私の方でも『婚約解消合意書』を作成しておきましたの! さあ、サインを! 早く! 私の自由のために!」
「な、なぜ準備がいいのだ……」
王子は、チャーミーの気迫に押され、ガクガクと震える手でペンを取った。
サラサラとサインが書かれた瞬間、チャーミーはそれをひったくるように奪い取った。
「やった……。やりましたわあああ!」
彼女は、夜会会場のど真ん中で、天に向かって拳を突き上げた。
「皆様! 今日、この日から、私はただのチャーミーですわ! 明日からは昼まで寝て、昼食には唐揚げをバケツ一杯食べて、夜には酒場を飲み歩きますわ!」
「……不謹慎だぞ、チャーミー! そんな振る舞い、公爵家が許すはずが……」
「父様なら、既に私の部屋の窓から逃亡用の荷物を投げ入れてくれておりますわ! 『お前は自由になれ』と、涙ながらに言ってくれましたもの!」
チャーミーは、豪華な装飾が施されたドレスのスカートを、躊躇いもなくビリリと引き裂いた。
中から現れたのは、なんと動きやすそうな旅装——ズボン姿だった。
「さらばです、殿下! あなたのナルシシズムに、幸多からんことを!」
チャーミーは、会場の大きな窓枠に足をかけた。
「おい、待て! ここは二階だぞ!?」
「自由の翼があれば、これくらいの高さ、実質ゼロメートルですわ! トオーッ!」
豪快な掛け声と共に、公爵令嬢チャーミーは夜の闇へとダイブした。
残されたのは、あまりの出来事に言葉を失った王子と、引き気味のマリアンヌ。
そして、窓の下から聞こえてくる「アハハハハ! 自由ですわー!」という、絶叫に近い笑い声だけだった。
これが、後に伝説となる「爆笑悪役令嬢」の、自由への第一歩であった。
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