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「九百九十七……九百九十八……九百九十九……千っ! 上がりましたわ、私の魂がーっ!」
離宮の庭。チャーミーは今、大木の枝に足をかけ、逆さまにぶら下がった状態で腹筋をしていた。
ゼノンが王都へ戻ってから二日。寂しさを紛らわせるために始めた「垂直腹筋・千本ノック」を完遂した彼女は、そのまま地面にドサリと着地した。
「ふぅ。やはり筋肉は裏切りませんわね。少しだけ、腹筋が『岩』のように硬くなった気がしますわ!」
チャーミーが自分の腹を太鼓のように叩いて満足げに笑った、その時だった。
カチャリ、と離宮の門が開き、一台の豪華な馬車が滑り込んできた。
「あら……。ゼノン様にしては、戻るのが早すぎますわね。もしや寂しさに耐えかねて、仕事を放り出してきたのかしら?」
期待を込めて駆け寄ったチャーミーだったが、馬車から降りてきた人物を見て、その顔芸がぴたりと止まった。
「……お、お姉様っ! あいたかったですわ、お姉様!」
馬車から飛び出してきたのは、ピンク色のフワフワしたドレスを身に纏った男爵令嬢、マリアンヌだった。
「……は? マリアンヌ様? なぜ、こんな魔境のような場所に?」
チャーミーは、泥だらけの手を腰に当て、不審なものを見る目で彼女を睨んだ。
「お姉様! その汚れ、その野生味あふれる佇まい……! やはり、私の目に狂いはありませんでしたわ!」
マリアンヌは、怯えるどころか目をキラキラと輝かせ、チャーミーの手をギュッと握りしめた。
「あの夜会で、お姉様が窓から飛び降りた瞬間、私、雷に打たれたような衝撃を受けましたの! あんなに美しく、あんなに面白い顔で自由を求める方を、私は他に知りません!」
「……面白い顔? 褒めてますの、それ?」
「最高級の褒め言葉ですわ! 殿下のナルシシズムに付き合わされる毎日……。鏡を見ては『今日も私は可憐』と呟かなければならない義務教育……。私、もう疲れましたの!」
マリアンヌは、突然その場に膝をつき、深々と頭を下げた。
「お願いですわ、チャーミーお姉様! 私を、あなたの弟子にしてくださいませ! 私もお姉様のように、顔の筋肉を自在に操り、丸太を持ち上げて高笑いしたいのです!」
「…………」
チャーミーは、絶句した。
婚約者を奪ったライバルが、まさか「変顔と筋トレ」の極意を学びにくるとは、夢にも思わなかったからだ。
「マリアンヌ様……。正気ですの? ここでの生活は、お茶会もマカロンもありませんわよ? あるのは泥と、汗と、昨夜の残りの剛力ウサギの骨だけですわ」
「望むところですわ! 骨、しゃぶりますわ!」
マリアンヌの決意は固そうだった。
彼女は、自慢のフリル付きドレスを「えいっ!」と自力で引き裂き、動きやすい(?)丈に改造してみせた。
「……いい根性していますわね。分かりましたわ。そこまで言うなら、まずは入門テストですわよ!」
チャーミーは、庭の隅にある巨大な岩を指差した。
「あそこの岩まで、全力でダッシュ! 戻ってきたら、今の殿下の不満を叫びながら、変顔を十パターン披露してくださいませ!」
「はいっ、師匠! 行って参りますわ!」
マリアンヌは、砂埃を上げて走り出した。
「殿下のポエムは、リズムが悪すぎますのよーっ! あと、寝る前のルーティンが長すぎますわーっ!」
彼女が走りながら叫ぶ不満は、意外にもチャーミーの共感を呼ぶものばかりだった。
戻ってきたマリアンヌは、肩で息をしながらも、見事な「寄り目」と「口角引き上げ」を同時に披露した。
「……くっ。初めてにしては、なかなかセンスを感じる変顔ですわね」
「……ありがとう、ございます……師匠……!」
「よろしい! 今日からあなたは、私の第一弟子ですわ! まずはそのナヨナヨした二の腕を、薪割りで鍛え上げて差し上げますわよ!」
「はいっ!」
こうして、離宮の静寂は完全に失われた。
二人の令嬢が「ドスコイ!」「殿下のバカー!」と叫びながら薪を割る音が、森の奥深くまで響き渡る。
一方、王都の王宮では。
アルフォンス王子が、自分を追いかけてくるはずのマリアンヌまでもが姿を消したことに困惑し、「もしや……二人で私を奪い合うために、どこかで決闘でもしているのか……!? 罪な男だ、私は!」と、安定の勘違いを加速させていた。
離宮の庭。チャーミーは今、大木の枝に足をかけ、逆さまにぶら下がった状態で腹筋をしていた。
ゼノンが王都へ戻ってから二日。寂しさを紛らわせるために始めた「垂直腹筋・千本ノック」を完遂した彼女は、そのまま地面にドサリと着地した。
「ふぅ。やはり筋肉は裏切りませんわね。少しだけ、腹筋が『岩』のように硬くなった気がしますわ!」
チャーミーが自分の腹を太鼓のように叩いて満足げに笑った、その時だった。
カチャリ、と離宮の門が開き、一台の豪華な馬車が滑り込んできた。
「あら……。ゼノン様にしては、戻るのが早すぎますわね。もしや寂しさに耐えかねて、仕事を放り出してきたのかしら?」
期待を込めて駆け寄ったチャーミーだったが、馬車から降りてきた人物を見て、その顔芸がぴたりと止まった。
「……お、お姉様っ! あいたかったですわ、お姉様!」
馬車から飛び出してきたのは、ピンク色のフワフワしたドレスを身に纏った男爵令嬢、マリアンヌだった。
「……は? マリアンヌ様? なぜ、こんな魔境のような場所に?」
チャーミーは、泥だらけの手を腰に当て、不審なものを見る目で彼女を睨んだ。
「お姉様! その汚れ、その野生味あふれる佇まい……! やはり、私の目に狂いはありませんでしたわ!」
マリアンヌは、怯えるどころか目をキラキラと輝かせ、チャーミーの手をギュッと握りしめた。
「あの夜会で、お姉様が窓から飛び降りた瞬間、私、雷に打たれたような衝撃を受けましたの! あんなに美しく、あんなに面白い顔で自由を求める方を、私は他に知りません!」
「……面白い顔? 褒めてますの、それ?」
「最高級の褒め言葉ですわ! 殿下のナルシシズムに付き合わされる毎日……。鏡を見ては『今日も私は可憐』と呟かなければならない義務教育……。私、もう疲れましたの!」
マリアンヌは、突然その場に膝をつき、深々と頭を下げた。
「お願いですわ、チャーミーお姉様! 私を、あなたの弟子にしてくださいませ! 私もお姉様のように、顔の筋肉を自在に操り、丸太を持ち上げて高笑いしたいのです!」
「…………」
チャーミーは、絶句した。
婚約者を奪ったライバルが、まさか「変顔と筋トレ」の極意を学びにくるとは、夢にも思わなかったからだ。
「マリアンヌ様……。正気ですの? ここでの生活は、お茶会もマカロンもありませんわよ? あるのは泥と、汗と、昨夜の残りの剛力ウサギの骨だけですわ」
「望むところですわ! 骨、しゃぶりますわ!」
マリアンヌの決意は固そうだった。
彼女は、自慢のフリル付きドレスを「えいっ!」と自力で引き裂き、動きやすい(?)丈に改造してみせた。
「……いい根性していますわね。分かりましたわ。そこまで言うなら、まずは入門テストですわよ!」
チャーミーは、庭の隅にある巨大な岩を指差した。
「あそこの岩まで、全力でダッシュ! 戻ってきたら、今の殿下の不満を叫びながら、変顔を十パターン披露してくださいませ!」
「はいっ、師匠! 行って参りますわ!」
マリアンヌは、砂埃を上げて走り出した。
「殿下のポエムは、リズムが悪すぎますのよーっ! あと、寝る前のルーティンが長すぎますわーっ!」
彼女が走りながら叫ぶ不満は、意外にもチャーミーの共感を呼ぶものばかりだった。
戻ってきたマリアンヌは、肩で息をしながらも、見事な「寄り目」と「口角引き上げ」を同時に披露した。
「……くっ。初めてにしては、なかなかセンスを感じる変顔ですわね」
「……ありがとう、ございます……師匠……!」
「よろしい! 今日からあなたは、私の第一弟子ですわ! まずはそのナヨナヨした二の腕を、薪割りで鍛え上げて差し上げますわよ!」
「はいっ!」
こうして、離宮の静寂は完全に失われた。
二人の令嬢が「ドスコイ!」「殿下のバカー!」と叫びながら薪を割る音が、森の奥深くまで響き渡る。
一方、王都の王宮では。
アルフォンス王子が、自分を追いかけてくるはずのマリアンヌまでもが姿を消したことに困惑し、「もしや……二人で私を奪い合うために、どこかで決闘でもしているのか……!? 罪な男だ、私は!」と、安定の勘違いを加速させていた。
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