婚約破棄?望むところですわ!悪役令嬢の爆走?

八雲

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「……却下ですわ。ボリス、この花の予算を二割削って、その分をすべて『領民に振る舞うお酒』に回しなさいな。私は見栄えだけの花より、酔っ払った領民の笑顔の方が好きですの」

結婚式を一週間後に控えた執務室。私はいつにも増して、鋭い筆致で予算書を書き換えていました。
結婚式という人生最大のイベントですら、私にとっては「最高効率の領地プロモーション」に過ぎません。

「承知いたしました。……ですがお嬢様、アルスター様が先ほどから、ウェディングドレスのカタログを見ながら『だりあが……白すぎて、消えてしまいそうだ……』と、隅っこで震えていらっしゃいますぞ」

「あら、消えませんわよ。むしろこれから、あなたの主(あるじ)としてより一層濃く、存在感を示して差し上げるつもりですわ。……アルスター様! そこで固まっていないで、引き出物の干し肉の味見をしなさいな!」

「…………う、うむ。……はい、おじょうさま」

アルスター様は、私の叱咤を受けてビクッと飛び上がると、幸せそうに干し肉を齧り始めました。
この平和な光景。……ですが、それを破るように、一枚の「非常に汚い」紙切れが届きました。

「……なんですの、この泥と汗の臭いがする物体は」

「鉱山で強制労働中の、元第一王子ジュリアン殿下からの『祝辞』だそうでございます。……看守に泣きついて、特別に送らせてもらったとか」

私は指先でつまむようにして、その紙を開きました。そこには、かつての華やかな筆跡の欠片もない、震える文字が並んでいました。

『ダリア……。僕は今、人生で初めて「空腹」というものを知った。
毎日、泥を掘り、石を運び、夜は冷たい床で眠っている。
メアリも修道院で毎日床掃除をさせられ、手が荒れたと泣き喚いているよ。
……君が隣にいたことが、どれほど幸福だったか、今さら気づいたんだ。
結婚おめでとう。……もし、もし情けがあるなら、結婚式の余り物でいい。
パンの耳でも、冷めたスープの残りでもいいから、僕に恵んでくれないか……?』

「……………………」

私は読み終えると、迷うことなくその手紙をシュレッダー(魔法の灯火)へと放り込みました。

「ボリス。返信を出しなさい。……一言、『不法投棄されたゴミは、自力で土に還るのがマナーですわ』とだけ。……あ、それと、彼らの収監場所には、私たちが結婚式で食べる『最高級ローストビーフの香りが染み込んだ布』でも送って差し上げたら? 想像力は、空腹を助長させますものね」

「……お嬢様。相変わらず、慈悲の欠片もございませんな」

ボリスが感心したように頷きました。
悪役令嬢としての最後の仕上げ。それは、過去の男を許すことでも、慈しむことでもありません。
「あなたがいなくても、私はこんなに幸せで、強欲に生きている」という現実を、死ぬまで見せつけ続けることです。

「…………だりあ」

いつの間にか背後に立っていたアルスター様が、私の肩に大きな手を置きました。

「…………そんな、ごみのこと……もう、考えなくていい。……おれが、おまえを……わらわせる」

「あら。あなたがそこに立っているだけで、私の頬は緩みっぱなしですわ。……さあ、湿っぽい話はここまでです。次は、お父様が勝手に注文した『黄金の馬車』のキャンセル交渉に行きますわよ! あんな派手なもの、北の雪道には似合いませんわ!」

「…………う、うむ。……おれ、だりあについていく。……どこまでも」

私はアルスター様の力強い手を取り、執務室を飛び出しました。
王都の過去、王子の未練、メアリの嫉妬。
それらすべては、もう私の背後で舞い散る雪の結晶に過ぎません。

目の前には、白銀の領地と、私を愛する不器用な死神。
そして、私たちがこれから作り上げる、最高の未来だけが広がっていました。

「さあ、明日は完結……いえ、私たちの門出ですわよ、アルスター様!」

「…………はい、おじょうさま!」
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