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舞踏会から一夜明けた、グランヴィル公爵邸。
私は朝日が差し込む執務室で、優雅に(そして徹底的に)王都の朝刊をチェックしていた。
各紙の見出しには『王太子の婚約者、赤ワインの海で踊る』や『聖女、筋肉不足で自爆』といった、非常に知性の欠片も感じられない文字が躍っている。
私はそれらを一瞥し、無機質にハサミで切り抜いた。
「……閣下。ご覧なさい。これが『感情に任せて物理法則を無視した者』の末路ですわ。新聞のインク代がもったいないくらいの惨状ですわね」
「……! 朝一番から、他人の不幸をインク代に換算して切り捨てるその冷徹さ。ミリアーナ、君という女性はどこまで私の心を震わせれば気が済むんだい?」
カシアン閣下は、私の隣で、まるで聖書でも読むかのように切り抜かれた新聞記事を眺めている。
その顔には、隠しきれない法悦が浮かんでいた。
「喜んでいる暇があるなら、この計算書を確認してください。昨夜、ルルアさんが汚したベルモンテ公爵邸の絨毯のクリーニング代、および会場の雰囲気改修費の試算ですわ。当然、すべてウィルフレッド様へ請求させていただきます」
「……。君が請求するのかい? ベルモンテ公爵ではなく?」
「当然ですわ。ベルモンテ公爵は、私の『正論』に深く感銘を受け、この債権の回収を私に委任してくださいました。……閣下。貸しを作っておくことは、将来的な関税交渉において極めて有利に働きます。……あなたは、ただ変態的な声を上げているだけで、外交が成立するとでも思っているのですか?」
「外交……! 私の変態性を外交の変数として組み込むなんて! ああ、君に管理される私は、なんて幸せな国家資源なんだ!」
「……。資源ではなく、廃棄物にならないよう努力しなさい。……さて、次はこれですわ」
私は、一通の青い表紙のファイルを取り出した。
かつて実家を出る際、お父様に「絶対に触るな」と言い残してきた、あの証拠集めだ。
「……お父様から、泣き言のような手紙が届きましたわ。『帳簿が合わない、助けてくれ、あのファイルだけは公表しないでくれ』と。……。……。……実に不潔な内容ですわね」
「ほう。オーブリー公爵も、ようやく自分の首を絞めている縄の太さに気づいたようだね」
カシアン閣下の瞳が、一瞬だけ鋭い軍神のそれに変わる。
しかし、すぐに私に向けられる視線は、甘ったるい熱を帯びた。
「それで、ミリアーナ。君はどうするつもりだい? 慈悲をかけるのか、それとも……」
「慈悲? そんな非効率的な概念、私の辞書にはありませんわ。……いいですか、閣下。汚れた布は、洗って落ちるなら洗いますが、芯まで腐っているなら焼き捨てるのが最も衛生的な処理です。……このファイルには、お父様の汚職だけでなく、ウィルフレッド様がルルアさんのために国庫から引き出した『謎の宝石代』の明細も含まれていますわ」
私は冷ややかに笑い、ファイルをパラパラとめくった。
「これを適切な時期に、適切な場所で開示すれば……あのおバカな王子は、ネクタイを結ぶ暇もなく王位継承権を失うでしょうね。……。……。……あ、閣下。今、私の笑顔を見て『ゾクゾクする』と思いましたわね? マイナス百点です。今すぐ廊下で反省のスクワットをしてきなさい」
「……っ! なぜ分かったんだ! 思考を読み取って肉体的な苦痛(スクワット)を課すなんて……! ああ、最高の朝だ! ミリアーナ、私は今、かつてないほど健康で、かつ不健康に興奮しているよ!」
閣下は歓喜の声を上げながら、本当に廊下へ出てスクワットを開始した。
「一、二、三……! ミリアーナに! 叱られる! 喜び……!」という声が響いてくる。
私はそれを聞き流しながら、再びペンを走らせた。
王都の情勢は、今や私の手帳の中で刻一刻と崩壊へと向かっている。
「……ふん。愛だの、か弱さだの。そんな実体のないものにすがっているから、足元から腐っていくのですわ。……。……。……さて、明日は閣下と一緒に、領内の孤児院の視察(衛生検査)でしたわね」
私は、カレンダーに「徹底的な除菌と説教」と書き込み、満足げに頷いた。
実家の崩壊も、王子の没落も、私にとっては「整理整頓」の一環に過ぎない。
窓の外には、抜けるような青空が広がっていた。
しかし、私の心には、あのおバカ王子への未練など塵一つ残っていない。
「……さあ、閣下。スクワットが終わったら、次は経理報告書の修正ですわよ! もたもたしていると、あなたの夕食をすべてプロテインにしますわ!」
「プロテインのみ! 徹底的な肉体改造への誘い! ああ、今行くよ、ミリアーナ!」
私の可愛くない新生活は、今日もまた、けたたましい音を立てて加速していく。
王都のゴミたちが、完全に灰になるその日まで。
私は朝日が差し込む執務室で、優雅に(そして徹底的に)王都の朝刊をチェックしていた。
各紙の見出しには『王太子の婚約者、赤ワインの海で踊る』や『聖女、筋肉不足で自爆』といった、非常に知性の欠片も感じられない文字が躍っている。
私はそれらを一瞥し、無機質にハサミで切り抜いた。
「……閣下。ご覧なさい。これが『感情に任せて物理法則を無視した者』の末路ですわ。新聞のインク代がもったいないくらいの惨状ですわね」
「……! 朝一番から、他人の不幸をインク代に換算して切り捨てるその冷徹さ。ミリアーナ、君という女性はどこまで私の心を震わせれば気が済むんだい?」
カシアン閣下は、私の隣で、まるで聖書でも読むかのように切り抜かれた新聞記事を眺めている。
その顔には、隠しきれない法悦が浮かんでいた。
「喜んでいる暇があるなら、この計算書を確認してください。昨夜、ルルアさんが汚したベルモンテ公爵邸の絨毯のクリーニング代、および会場の雰囲気改修費の試算ですわ。当然、すべてウィルフレッド様へ請求させていただきます」
「……。君が請求するのかい? ベルモンテ公爵ではなく?」
「当然ですわ。ベルモンテ公爵は、私の『正論』に深く感銘を受け、この債権の回収を私に委任してくださいました。……閣下。貸しを作っておくことは、将来的な関税交渉において極めて有利に働きます。……あなたは、ただ変態的な声を上げているだけで、外交が成立するとでも思っているのですか?」
「外交……! 私の変態性を外交の変数として組み込むなんて! ああ、君に管理される私は、なんて幸せな国家資源なんだ!」
「……。資源ではなく、廃棄物にならないよう努力しなさい。……さて、次はこれですわ」
私は、一通の青い表紙のファイルを取り出した。
かつて実家を出る際、お父様に「絶対に触るな」と言い残してきた、あの証拠集めだ。
「……お父様から、泣き言のような手紙が届きましたわ。『帳簿が合わない、助けてくれ、あのファイルだけは公表しないでくれ』と。……。……。……実に不潔な内容ですわね」
「ほう。オーブリー公爵も、ようやく自分の首を絞めている縄の太さに気づいたようだね」
カシアン閣下の瞳が、一瞬だけ鋭い軍神のそれに変わる。
しかし、すぐに私に向けられる視線は、甘ったるい熱を帯びた。
「それで、ミリアーナ。君はどうするつもりだい? 慈悲をかけるのか、それとも……」
「慈悲? そんな非効率的な概念、私の辞書にはありませんわ。……いいですか、閣下。汚れた布は、洗って落ちるなら洗いますが、芯まで腐っているなら焼き捨てるのが最も衛生的な処理です。……このファイルには、お父様の汚職だけでなく、ウィルフレッド様がルルアさんのために国庫から引き出した『謎の宝石代』の明細も含まれていますわ」
私は冷ややかに笑い、ファイルをパラパラとめくった。
「これを適切な時期に、適切な場所で開示すれば……あのおバカな王子は、ネクタイを結ぶ暇もなく王位継承権を失うでしょうね。……。……。……あ、閣下。今、私の笑顔を見て『ゾクゾクする』と思いましたわね? マイナス百点です。今すぐ廊下で反省のスクワットをしてきなさい」
「……っ! なぜ分かったんだ! 思考を読み取って肉体的な苦痛(スクワット)を課すなんて……! ああ、最高の朝だ! ミリアーナ、私は今、かつてないほど健康で、かつ不健康に興奮しているよ!」
閣下は歓喜の声を上げながら、本当に廊下へ出てスクワットを開始した。
「一、二、三……! ミリアーナに! 叱られる! 喜び……!」という声が響いてくる。
私はそれを聞き流しながら、再びペンを走らせた。
王都の情勢は、今や私の手帳の中で刻一刻と崩壊へと向かっている。
「……ふん。愛だの、か弱さだの。そんな実体のないものにすがっているから、足元から腐っていくのですわ。……。……。……さて、明日は閣下と一緒に、領内の孤児院の視察(衛生検査)でしたわね」
私は、カレンダーに「徹底的な除菌と説教」と書き込み、満足げに頷いた。
実家の崩壊も、王子の没落も、私にとっては「整理整頓」の一環に過ぎない。
窓の外には、抜けるような青空が広がっていた。
しかし、私の心には、あのおバカ王子への未練など塵一つ残っていない。
「……さあ、閣下。スクワットが終わったら、次は経理報告書の修正ですわよ! もたもたしていると、あなたの夕食をすべてプロテインにしますわ!」
「プロテインのみ! 徹底的な肉体改造への誘い! ああ、今行くよ、ミリアーナ!」
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