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第五話

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翌日から、メリアナの新しい生活が始まった。
朝ごはんは猫の侍女が作ってくれた。
メニューはメリアナにも馴染みのものだ。
でも、メリアナは困惑していた。
今、メリアナがいるのは黒の魔法使いの膝の上だ。
「婚約者はここに座って、毎食食べさせてもらうのが普通だ」
黒の魔法使いは自信満々に言った。
最初はどうしようかと思ったが、メリアナはすぐに開き直った。ご飯が食べられればなんの問題もない。
「ねぇ、なんて呼べばいいの?」
「カルサーと呼べ」
今更だが、黒い魔法使いにも名前があったのだ。
「カルサーね。あなた、幼い私をどうにかしようとする変態じゃないでしょうね?」
「だったら、昨夜手を出してる」
なるほど、と思いながら、メリアナはとりあえず、男が差し出すスプーンに大きく口を開けた。

「人間の侍女がほしいか?公爵邸からさらってくるか?」
カルサーは気持ちは温かいのに、言葉が悪いのだ。
「大丈夫よ。猫ちゃん、かわいいもの」
公爵邸から連れて来ても喜んでくれる侍女に心当たりはあったけれど、この森の中に住まわせるのは気の毒だ。
自分はカルサーに命を救われたのだから、ここで彼と暮らすことに異存はない。
ただ、家族に会えないのはさみしかった。

「不便なことはないか?」
ぶっきらぼうながら、優しく気を使うカルサーに、言うまいと思ったのに、先に涙があふれてきてしまった。
カルサーは慌てている。
「どうした?痛いとこでもあるのか?」
「お母様に会いたいの」
カルサーは、ふむ、と考え出した。
「お前をこの森から出すわけにはいかない」
だが、とカルサーは続けた。
魔法を使えば、姿を見ながら話せるという。
水晶の前に連れて行かれた。
「魔力の流し方はわかるか?」
きょとんとカルサーを見上げると、
やり方を教えてくれる。

「メリアナ!あなた、メリアナが!」
お母様とお父様の姿が見えた。メリアナは号泣しながら、ここでの暮らしは楽しいと伝えた。2人は安心したようだった。
「魔法使いは優しいか?」
「うん」
「私も魔法が使えるようになるんだって」
そう言うと2人ともびっくりしていた。
「そう言えば、魔力測定したときは病気だったからな」
「東西南北の魔女様たちにも会ったよ」
「黒の魔法使いは、強い魔法使いだからな」
メリアナは両親と話して、また、時々連絡していいと言われて、安心した。

カルサーは暇さえあれば、メリアナにくっついていた。食事以外でも、カルサーの膝の上はメリアナの定位置になっている。
絵本の読み聞かせをしながら、文字を教えてくれるときも、カルサーの膝の上だった。

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