上 下
8 / 10

第八話

しおりを挟む
今夜は舞踏会だった。まだ4歳のミラルカ王女は少しだけ挨拶して、すぐに寝所に下がる予定だった。
ハルトもそう聞いていた。ミラルカ王女は頭だけでなく、身体能力も高い。ダンスも実はうまい。ただ、この国の慣習として幼い子どもが、王女であっても、夜中に起きているのは望ましくない。
ハルトはミラルカ王女が通るはずの廊下でひたすら彼女を待っていた。
「ハルト様。どうなされたのですか?」
ミラルカはハルトを見つけて驚いた。
ハルトはやっぱり優しく微笑んでから、ミラルカに跪いた。
「ミラルカ王女。一曲踊ってください」
廊下まで音楽は聞こえていた。
差し伸ばしたハルトの手を取るとミラルカの初めての婚約者とのダンスが始まった。
それは幸せな気持ちになるダンスだった。ミラルカ王女とハルトはくるくると何度も回りながら、笑い合った。

皇城はとんでもなく広く大きく、守りも完璧だった。
レディオナは、自分の暮らしていた小屋はもちろん、王宮よりも立派な城に驚いて、手足がうまく動かせなくなった。
皇帝はそんな様子に笑いながら、
「レディオナ、大丈夫だ。みんなお礼がしたいだけなんだ。深呼吸をしてみるんだ」
「僕がいるから大丈夫だよ。レディオナ。落ち着いて」
リルディが肩に乗ったまま優しくささやく。
2人のおかげでなんとか頭が回り始めたレディオナだが、緊張は消えない。
そもそもレディオナにはまだ自分が王女だという実感がない。マナーや座学、ダンスは楽しかったし、ある程度身についた。けれど、王女としての人生は始まったばかりなのだ。とまどうことも多い。
帝国の公用語は、簡単な会話ならできるようになったが、難しい話はできない。
自分はどうなってしまうのだろう。

歓迎会の会場は広く、シャンデリアが美しかった。そこにたくさんの人が皇帝と皇帝の妃になる王女を待っていた。
「みなのもの、レディオナ王女を讃えるが良い。王女のおかげで、我が国の土はよみがえった」
おー!!という歓声のあと、拍手が巻き起こった。誰もがレディオナを温かい眼差しで見ていた。
レディオナは気づいたら、泣いていた。
「どうしたの?どこか痛い?」
リルディが慌てている。
「ちがうの。私はずっとひとりだと思ってたけど、ちがうんだなって」
皇帝もレディオナの涙を拭いながら、困っていた。
「レディオナ。泣くな。みんなが感謝している。もちろん私もだ」
しおりを挟む

処理中です...