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第六話
その日、ルーディはついに知り合いの侯爵夫人に出会ってしまった。
「あなた、ルーディ?」
「奥様。どなたかとお間違えです」
察しのいい侯爵夫人は、それ以上追求せずに買い物を続けた。
「ありがとう。気に入るドレスができそうよ」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「あなた、高位貴族とのやりとりに向いてるわ。あなたのことは誰にも言わない。でも、気づかれるわよ」
「その時はその時です。悪いことをしているわけではありませんから」
「そうね。あなたが元気にしていてホッとしたわ。貴族として育って14歳から平民なんて、なかなかならないもの」
ルーディは気合いを入れた。まだだ。まだ泣いてはならない。侯爵夫人をお見送りしてからだ。
「ありがとうございました。出来上がりましたら、お持ちします」
「ルーディ、どうしたの?」
店長も店員も驚いた。お客様を送って、くるりと振り向いたルーディは大粒の涙を流している。しばらくして泣き止んだルーディを取り囲んで、店長も店員も問い詰めた。
「まさか、そんな」
「ひどい」
「ルーディは悪くないじゃない」
ルーディが自分の話をすると店長も店員も自分のことのように聞いてくれる。だから、優雅な物腰が身についていて、ドレスや刺繍に詳しかったのかと納得する反面、今後どうすべきか考えた。
「低位貴族と交換しましょう」
店長は決めた。ルーディが評判になり、ミルエンズ伯爵夫妻の耳に届く前に。マルシィも頷いた。
「任せてください。小さなときから、ここにいたのは私も同じです」
マルシィの接客にも問題なく、店が回り始めた頃、外から覗き込んでる高位貴族がいると騒ぎになった。
「もしかして」
リハ店長とマルシィが確認すると店の前に男女がいた。
「どうなさいましたか?ご用命いただけるのでしょうか?」
「私たちはミルエンズというの。ルーディに会わせて」
夫人の顔色は悪い。心労がたたっている顔だ。
「すまないね。この通り、妻は調子を崩している。一生を思い返して悔いている。ルーディを手放したことを」
「私たちには決められません。ルーディに確認してきます」
リハ店長とマルシィは、店の中で震えていたルーディにすべてを話した。
「憎いわけではないんです」
ドレスをひそかに贈りたいとは思っていたが、まさか再会することがあるとは。ルーディはドキドキしていた。彼らと店の片隅で再会することにした。店内にしたのはリハ店長だ。話が広がる危険を思ってのことだ。
「ルーディ」
ミルエンズ夫妻はそれ以上言葉が出てこなかった。
「お父様、お母様」
ルーディもそれ以上言葉が出なかった。久しぶりに会うふたりはとても元気がないようだ。
「何かありましたか?」
「お前を孤児院に帰したことは間違いだった。私たちはずっと悔いていた。そしたら、ドレスショップに高位貴族のご令嬢が働きに出ていると噂で聞いて。髪色はちがうが、もしかしたら、ルーディじゃないかと確認に来た。謝りたいと思って」
「いいえ、ミルエンズ伯爵夫妻様、ルーディはふたりとは関係のないドレスショップの店員です。どうか後悔などせず、楽しい日々をお過ごしください。お客様としては歓迎しますわ」
「それなら私はここでドレスを作るわ。ルーディが担当じゃないと嫌だわ」
ミルエンズ伯爵夫妻の話を断ったなんて噂になったら、お店の経営にも響きかねない。ルーディは担当するしかなかった。
「あなた、ルーディ?」
「奥様。どなたかとお間違えです」
察しのいい侯爵夫人は、それ以上追求せずに買い物を続けた。
「ありがとう。気に入るドレスができそうよ」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「あなた、高位貴族とのやりとりに向いてるわ。あなたのことは誰にも言わない。でも、気づかれるわよ」
「その時はその時です。悪いことをしているわけではありませんから」
「そうね。あなたが元気にしていてホッとしたわ。貴族として育って14歳から平民なんて、なかなかならないもの」
ルーディは気合いを入れた。まだだ。まだ泣いてはならない。侯爵夫人をお見送りしてからだ。
「ありがとうございました。出来上がりましたら、お持ちします」
「ルーディ、どうしたの?」
店長も店員も驚いた。お客様を送って、くるりと振り向いたルーディは大粒の涙を流している。しばらくして泣き止んだルーディを取り囲んで、店長も店員も問い詰めた。
「まさか、そんな」
「ひどい」
「ルーディは悪くないじゃない」
ルーディが自分の話をすると店長も店員も自分のことのように聞いてくれる。だから、優雅な物腰が身についていて、ドレスや刺繍に詳しかったのかと納得する反面、今後どうすべきか考えた。
「低位貴族と交換しましょう」
店長は決めた。ルーディが評判になり、ミルエンズ伯爵夫妻の耳に届く前に。マルシィも頷いた。
「任せてください。小さなときから、ここにいたのは私も同じです」
マルシィの接客にも問題なく、店が回り始めた頃、外から覗き込んでる高位貴族がいると騒ぎになった。
「もしかして」
リハ店長とマルシィが確認すると店の前に男女がいた。
「どうなさいましたか?ご用命いただけるのでしょうか?」
「私たちはミルエンズというの。ルーディに会わせて」
夫人の顔色は悪い。心労がたたっている顔だ。
「すまないね。この通り、妻は調子を崩している。一生を思い返して悔いている。ルーディを手放したことを」
「私たちには決められません。ルーディに確認してきます」
リハ店長とマルシィは、店の中で震えていたルーディにすべてを話した。
「憎いわけではないんです」
ドレスをひそかに贈りたいとは思っていたが、まさか再会することがあるとは。ルーディはドキドキしていた。彼らと店の片隅で再会することにした。店内にしたのはリハ店長だ。話が広がる危険を思ってのことだ。
「ルーディ」
ミルエンズ夫妻はそれ以上言葉が出てこなかった。
「お父様、お母様」
ルーディもそれ以上言葉が出なかった。久しぶりに会うふたりはとても元気がないようだ。
「何かありましたか?」
「お前を孤児院に帰したことは間違いだった。私たちはずっと悔いていた。そしたら、ドレスショップに高位貴族のご令嬢が働きに出ていると噂で聞いて。髪色はちがうが、もしかしたら、ルーディじゃないかと確認に来た。謝りたいと思って」
「いいえ、ミルエンズ伯爵夫妻様、ルーディはふたりとは関係のないドレスショップの店員です。どうか後悔などせず、楽しい日々をお過ごしください。お客様としては歓迎しますわ」
「それなら私はここでドレスを作るわ。ルーディが担当じゃないと嫌だわ」
ミルエンズ伯爵夫妻の話を断ったなんて噂になったら、お店の経営にも響きかねない。ルーディは担当するしかなかった。
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