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第一章 拒絶と旅立ち

第21話 本当に大事なこと

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『【噛み砕き】スキルを奪いました。どのスキルと入れ替えますか?』


「【力30%UP】。」


『【力30%UP】スキルは完全に消滅しますが、よろしいですか?』


「いいよ。」


『【力30%UP】スキルと【噛み砕き】スキルを入れ替えました。』


放置していた、奪ったスキルを入れ替えた。



「…カイルさん…。」


「話はあとだ。
 帰るぞ。」


「カイルさん、こんなことしといて…、」


カイルを責めようとするティナの肩に手を置き、目を見つめるロック。

そして、首を左右にふり、やめるよう促す。


ロックとティナは、ディランを引きずるカイルのあとを無言で付いて行った。





村に帰り着くと、カイルは他の村人とディランをどこかに運んで行ってしまった。


「あとはじいさんに聞いてくれ。」


その言葉だけを残して。



2人はカイルの言葉通り、ヨムじいさんを訪ねた。


「入りなされ。」


家の中に入ると、座るように促された。


「ヨムじいさん、全部知ってるんですか?」

「もちろんじゃ。
 これはわしが考えて、カイルに頼んだことじゃからの。」

「どうして…?」

「ロック、パーティを結成した時、わしが行った言葉、覚えておるかの?」

「もちろんです。
 自分だけのために力を振るうな、信じ合える、笑い合える人たちとの繋がりを大事にしろ、と…。」

「うむ。
 では問うが、お主はなぜ魔王を倒し、故郷を取り戻したいんじゃ?」

「なぜ?
 僕は生まれた故郷を魔王たちに滅ぼされました。
 本当の両親やそこに住んでいた人たちの仇をうちたいからです。
 そして、その人たちが生きていた場所を魔王の手から取り戻したい。」

「それは誰のためなんじゃ?」

「だから、本当の両親やそこに住んでた人たちのために…。」

「本当にそうかの?
 本当に、それでご両親たちが喜ぶと?」

「違うんですか?
 自分たちの大事な場所に、そこにいたみんなを殺した魔王たちが住んでいる。 
 そんなの耐えられないと思います。」

「ふむ。
 じゃあ質問を変えよう。
 お主たちは今日何度も死ぬ思いをしたはずじゃ。
 ロック、仮にお主が死んでいたら、ティナに仇をうって欲しいかの?
 ティナ、お主もじゃ。ロックに仇をうって欲しいか?」

「それは…。」

「…私は、私は今日一番怖かったのは、ロックが死んでしまうこと。
 自分は死んでもいいから、ロックには逃げて、助かって欲しかった。
 もし私が死んでたとしても、…危険を冒して仇なんてうって欲しくない。」

「ロックはどうじゃ?」

「…僕もです。
 でも、僕は死ぬのが怖い。
 両親に殺されかけたことを思い出して、なにもできなくなった。
 でもそれより怖かったのが、ティナを失うこと。
 死んでも守りたかった。」

「ロック…。」

「自分の命より大切な人がいること、それは幸せなことじゃ。
 しかし、ロック。
 お主の旅の目的は、魔王を倒すこと。
 パーティメンバーのティナも一緒に行くことになるじゃろう。
 お主がダメだと言っても付いていくのは目に見えておる。
 それだけ、お互いが大事な存在になっておるからの。」

「あ…。」

「気が付いたか?
 誰かのために戦ってたつもりが、今一番そばにいて、命よりも大事な仲間を、お主が死なせてしまうかもしれん、ということじゃ。」

「それは…。」

「ロック。私にとって、あなたはとても、…とても大切な存在。
 自分が死ぬことより、あなたの幸せの方が大事なの。
 もし、あなたにとって死ぬより大事なことがあるなら、一緒に守りたい。
 例え死んでも。それが私の幸せだから。」

「ティナ…。
 でも、巻き込めないよ…。
 旅の中で君がもし死んでしまったら、僕は自分を一生憎む。」

「ロック…。」

「ヨムじいさん…、いったい僕にどうしろと…?」

「うむ。
 その答えは…。」

「はい…。」

「答えは…、





 ない。」

「…ない?」

「そうじゃ。
 用意された答えはない、ということじゃの。
 自分の答えを自分で考え続けるしかないんじゃ。」

「もうどうしたらいいか、わかんないですよ…。」

「それでも考え続けるんじゃ。
 魔王を倒すのは誰のためなのか、なんのためなのか。
 自分や自分の大事な人が幸せになるにはどうしたらいいのか。」

「考え続ける…。」

「例えばじゃ。
 今はお主たちはお互いに大事に思っておる。
 ずっと一緒にいたい、という気持ちもあるじゃろう。」

「そ、そんな…。」

「まあ聴きなされ。
 今の幸せになるための答えは「一緒にいる」ことかもしれん。
 しかし、どちらかの気持ちが変わったらどうかの?
 「一緒にいる」ことがお互いの幸せになるじゃろか?」

「なり、ません。」

「つまり、そういうことじゃ。」

「考えることを放棄しちゃだめ、ってことですか?」

「うむ。
 誰のために、なんのためにするのか。
 自分にとって大事なことはなんなのか。
 考え続けて欲しい。」

「わかりました…。
 それで、今回のことにはどう繋がるんですか?
 なぜヨムじいさんはこんなことを仕組んだんです!?」

「考えて欲しい、といいたいとこじゃが、それは話すべきじゃな。
 さっきの問いじゃが、魔王を倒すことをやめる選択をしたとしよう。
 ティナを危険に晒したくないから、と。」

「それは、答えの一つなのかと頭をよぎりました。」

「うむ。
 しかし、現実は理不尽なものじゃ。
 その理不尽さはロックやティナ、お主たちが一番知っておろう。」

「…。」

「お主たちが戦いのない平和な街で一緒に暮らしてる時に、魔王が攻めてきたらどうする?」

「…!そんなことを言ったら!
 全部不正解じゃないですか!!」

「正解を選んでも、力あるものに踏み躙られる、それがこの世の中なんじゃ。」
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