虹のアジール ~ある姉妹の惑星移住物語~

千田 陽斗(せんだ はると)

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後日談

光とはなにか

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 虹では、メアリが死んだ。
 彼女が亡くなる一週間まえに、なんとかヤミが顔を見せにこれた。
 メアリは病魔に体力を吸われかなり痩せていた。人工呼吸機ごしの彼女の言葉は明瞭ではなかった。
 もしかしたらヒカリの不在の理由を悟ってしまったかもしれない。
 
 ヤミがキュリオ博士を追って水の都に行ってしまった。ジャックはメアリから託された手紙の内容についての扱いに困っていた。
 そのあと陽でもカクタ・タナエ体制を打破する動きが出てくるし、重要人物の所在も明らかになってジャックも他の関係者もより多忙になる。
 ジャックは一番肝心な人物にメアリのメッセージを直接伝えれず仕舞いだった。
 彼は後に陽の権力者となるルビィと酒を飲んだ際に彼女にだけ手紙の内容を伝えた。
 しかしその内容や伝え方には確実性に欠けた。
「だから、手紙は読んだが棺に戻した」
「はあ?原文がないのに今の話信じられる?」
「俺に墓暴きでもして手紙を見せろとでも?無理だね。読んだら手紙は棺に入れてくれと言われたんでね」
 ルビィはジャックを睨んだ。
「だいたい、その話はヤミちゃんこそ、知る権利があるわよ。ヤミちゃんに手紙を見せずあんたが読むなんて、単なる配達人が手紙を盗み読んだのと同じじゃない」
「辛辣だなあ。メアリさんは俺のことも信頼してくれていたんだが」
「本当に?メアリさんがあの二人の実の母親だったとか。あとヒカリちゃんのこととか。あんたが責任持ってヤミちゃんにも伝えなさいよね」 
 ルビィはカクテルを飲み干した。
 そうでもしないと、この話の妙な後味を拭いされない気がした。
「確認させて。あるダークマター災害に二人の姉妹が巻き込まれた。ダークマター炉の炉心融解により漏れだしたダークマター放射能を浴びた二人のうち一人は左腕がダークマター化、もう一人は、死んだ」
「そうだ。その姉妹がヤミとヒカリ。ヤミは当時はアミという名前だった。実の母親であるメアリは娘ヒカリの死を受け入れることができなかった」
「それでメアリさんは、ヒカリちゃんに似た別の子を引き取って、死んだはずのヒカリとして育てた。でも理由があって二人の姉妹を孤児院に預けた」
 ジャックはタバコの火を消した。
「そうだ。俺たちがヒカリだと思っていたあの女性は、ヤミの実の姉ではなくヒカリとして育てられた別人。ヤミは事故のショックから記憶をなくしている。ヤミは気づいていないだろう」
「今の技術なら遺伝子検査で血縁関係もわかるわ。それとも遺伝子レヴェルで垢の他人をヒカリちゃんに似せたの?!そんなの倫理的に許されるの?まったく別人の人生を背負わされるなんて……」
 憤るルビィ。ジャックは淡々と告げた。
「耐えられなかったんだろうよ。メアリさんも。まるで着せ替え人形みたいに他人を作り替えてしまった。でもこの惑星に二人を導いたのもメアリさんだ。なにを考えてたんだろうな……」
 ルビィはジャックから告げられたことに衝撃を受けた。しかし、こうも思った。この話にはどこかに彼の作り話がまじっているかもしれない。おそらく彼もヒカリの死を受け入れることができないのではないだろうか。
 そこまで考えてルビィは別な疑問に行き当たった。
「ところで、なぜアミちゃんがヤミちゃんになったのかしら?」
「孤児院にいたころの彼女はめっちゃ暗かったらしい。しかもダークマター化した黒い爪をからかわれる。闇のように暗いアミ、やがてヤミになったのだろう。ま、どこかで吹っ切れて悪いあだ名をあえて自分から名乗るようになったのかもな……」  
 ルビィは二杯めのカクテルをオーダーした。
「ヒカリ、ヒカリってなんだったんだろう?然り気無くヤミちゃんやみんなを照らしてくれてたのかな」
「今も照らしてるさ、今も。」
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