まずは、あなたから幸せになる?

千田 陽斗(せんだ はると)

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不安をごまかす日々

ケメコとカップ麺

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 どこでどう歯車が噛み合わないのだろうか。
 消費される文化が、便利な街が、すべてのものが空回りしているようだ。
 この街の何かが軋んで悲鳴を上げても誰の耳にも聞こえない。
 イヤホンを耳に、人々は寿司詰め電車にめでたくない表情で乗り込んで行く。
 夜の九時だった。ルカの携帯電話にメールが入った。ケメコからのメールだった。
「ルカー?お腹空いてない?高級カップ麺買ったから一緒にお夜食しませんか」
「いいですよ。家来ます?お腹はあまり空いてないけど」 
 ルカはメールを返信するや否や、慌てて本棚の向きを一八〇度変えた。 
 あまり大きくないその棚にはスピリチュアル本しか並んでいない。 
 大学時代からの知り合いとは言え、こんなのは見られたくなかった。
 見られたら心の弱さを知られてしまう。
 この街の吾妻ルカは「漬け物以下」ではない。大卒でアパレルの会社でそれなりに稼いでる自立して洗練された女でなければならないのだ。
 ピンポーン。
 インターホンが鳴る。
 ルカは思う。この間の抜けたインターホンの音もダメだ。客が来るたびにもっと高級な音色が鳴るようなマンションに引っ越さねば。家賃は?ならば金持ちと結婚する道を目指すか。
 こんなことを考えるぐらいにルカは疲れていた。
 地元は水のきれいな里でもありホタルの群れがいたのだが、あのささやかな螢火の灯りさえルカは忘れていた。
 ガサ。
 コンビニ袋のビニールがゲンキンな音を立てる。
「ルカー、久しぶりー。ほら、こないだタカコやアユと飯食ったんだけどさ、ルカには会えなくてさ。だから来たんだけど、いきなりで迷惑かな?」
「そんなことないですよ」
 ケメコさんは見栄を張らず生きてて楽そうだなとルカは思う。変なあだ名までつけられてもケロっとしている。
 ケメコさんがわざわざカップ麺を食べにきてくれる。こんなことさえ奇跡なんだと思い知らされるにはまだなにかが足りなかった。
「ルカは食べないの?とりあえず置いとくから後で食べてよ」
 ケメコはがさつにカップ麺の蓋を開けてお湯を注いだ。

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