燃える魔術の書

ミクリ21 (新)

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悲恋

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あるところに、二人の男の子がいた。

一方は、父親が魔王を倒した勇者で今は一国の王様である者の息子シュヴァルツ。

一方は、今は亡き魔王に守られた代わりに一人ぼっちになったその息子アルト。 

アルトは父親が魔王だったから、ひっそりと森で誰にもみつからないように生活していました。

しかし、実はシュヴァルツはアルトとよく会っては楽しく遊んでいたのです。

アルトとシュヴァルツの出会いは、怪我をして動けなくなっているシュヴァルツをアルトが助けたことでした。

お互いに惹かれ合い、無邪気に遊んで、お互いが出会ってはいけない関係だったなんて気づかなかったのです。



そのうち、シュヴァルツが勇者の息子でアルトが魔王の息子だと、二人は気づいてしまいました。

それでも、二人は惹かれ合うのです。

切り捨てられない大切な友達なのです。

だから、知ってしまっても今まで通りに密やかに遊んでいました。

次第に、惹かれ合う気持ちは愛という感情に育っていきました。



そろそろシュヴァルツは婚約をしなくてはならないと勇者はたくさんの縁談の話をシュヴァルツにします。

しかしシュヴァルツはアルトを愛しているので、どれもお断りするのです。

けれど勇者としては、息子に女性と結婚して子供を作って幸せな家庭を築いてほしいのです。

そしていずれは王になってほしいと考えていました。

なのに、シュヴァルツはまったく婚約の話を受け入れません。
 


まさか、好きな人がいるのだろうか?

そういえば、シュヴァルツはよくどこかに行っていたな。



そう思って、勇者は側近にシュヴァルツの行動を見張らせました。

そしてわかったのは、まさか倒した魔王に息子がいたという事実でした。

シュヴァルツは魔王の息子に唆されているのだと皆が思いました。

だから、シュヴァルツのために退治をせねばと思ったのです。



アルトには、父の形見の魔術の書があります。

大切なもので、いつも持ち歩くほどのものでした。

今日もシュヴァルツが来るのを待ちながら、アルトは魔術の書を読んでいたのです。

……しかし、その日来たのは勇者と騎士団でした。

あっという間に家は包囲され、家ごとアルトは勇者の魔法の炎で燃やされ命を落としてしまいました。

シュヴァルツがやってきた頃には、燃え尽きた家だったものが虚しくあるだけでした。

そこに、ずっと燃えている魔術の書がありました。

シュヴァルツが炎を気にせずに触れると、炎はシュヴァルツを受け入れるように焼きません。

シュヴァルツは、その炎からアルトの悲しい気持ちを感じます。

そしてシュヴァルツは、愛するアルトを殺した者を深く恨みました。



皆が言うのです。

シュヴァルツのためにしたのだと。

悪い者を退治したのだと。

これで婚約の話を受け入れるだろうと。

燃える魔術の書を握り締め、シュヴァルツは全てを許せなくて仕方ないのです。

シュヴァルツは、一番許せない勇者を眠っている真夜中に殺してしまいました。

そして、シュヴァルツはアルトのいない世界なんていらないと燃える魔術の書を持って、崖から身を投げてしまうのです。



どうか、来世では幸せに結ばれますようにと願いながら……。



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