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メイキングトラッシュ
6th エンジョイトキョーフ
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「おはようございます!葛さん!篦河さん!おふたりとも昨日は大丈夫でしたか?今日は仲良く元気に参りましょう!」
夏来は変わらない調子で元気に挨拶をする。こういうところは本当に模範的な生徒って感じだ。
大丈夫か否かで言えば正直大丈夫では無い。どうしようもなくヤバい人間とはいえ、一人の少女のいたいけな姿を見つつ平常心を保ち続けろという注文はは少し難しい。
「ひへへ、あたしは今日再出発かなぁ?」
「ほう、再出発ですか?どういうことでしょう?」
「ひへへ、昨日はちょっと急ぎすぎたところあったからねぇ……これからゆっくりクズくんの動かぬ証拠を掴んでいこうかなって……」
やめてくれ……夏来はさっぱりとした性格故にそこまでの嫌悪感は無いが、篦河の場合はかなり粘着的にオレを拘束してきそうだ。
徹底的に社会的地位を落としにかかってきそうで恐ろしい。
「ひへへ、まあ、あたしのホントの姿を知ってしまった可能性があるってことは……責任を取ってもらわなきゃねぇ?」
「せ、責任ってなんだよ」
「ひへへ、簡単だよ」
◇ ◇ ◇
放課後。オレはなぜか地上八十メートルに向かって上昇していた。隣には篦河、後ろには夏来、前には安全バー。そう、オレは今ジェットコースターに乗せられ――
――うわぁぁぁぁぁ!!!!!
死を覚悟した。「心中」とはこのことなのか。整いのない息が続く。しかも、それだけなら自分との戦いだけで済むのだが、篦河は叫び声もあげずにずっと笑っている。それもなんか不自然に。目を大きく見開いて景色を舐めるように見ている。いくらなんでも怖すぎるわ!後ろの夏来はニコニコしてるし!安全バーはなんかガタガタ鳴ってるし!
もはや今どんな角度でどんな所を走っているのかすらわからない。意識が飛びかけたその時、車両は急減速し停止した。楽しそうな女子二人に対して男子のオレはグロッキーになってしまった。ロッカーから荷物を何とか取り出し、階段を千鳥足で降りる。なんでオレは死んでないんだ……
「楽しかったですねー!」
「ひへへぇー……良かった」
良くない。この状況でなんでそんなことを言えるんだ。訳が分からない。
というか、これが責任を取るということに繋がるのだろうか?ただ遊んでいるようにしか思えないのだが……
「観覧車行きましょ!観覧車!」
「行こう……ひへ」
元気があり余りすぎている。別に高いところが苦手な訳では無いが、高いところから落ちるのは嫌いだ。ちなみに、この事実には先程気付いた。出来れば気付きたくなかった。
「葛さん!カラオケ歌えるらしいですよ!カラオケ!」
「ラッキー……なんか空いてる……」
二人はオレの手を引きながらはしゃぐ。正直カラオケどころでは無い――
――ってこともなかった。
結局この気分の悪さは一時的なもので、観覧車に乗って上昇すると同時に段々と解決して行った。
「何歌います?流行りの曲でも入れます?」
「ひへへ~、あたしは何でも~」
先程からオレは蚊帳の外で女子二人がガンガン進んでいる。というか一日で仲良くなりすぎじゃないか?夏来が社交的な性格ってこともあるのかもしれないが、にしても出会って二日で遊園地に行くなんて少々おかしな気もする。
「じゃあこれで行きますか!」
国民的アニメの主題歌が流れ始める。楽しげなその曲に手拍子を打ったりしながら風景を眺める。この街は本当に都会って感じだ。
自分の住む場所は田舎では無いが別に都会でもない、中途半端な場所。そんなんだからオレも中途半端な感じになっちゃったのかなぁ……夏来を見ていると尚更思う。これほどカラッとした性格の人間には憧れる。逆に篦河みたいな性格もありなのかもしれない。妄想の多いこいつでも中途半端なオレよりも何千倍も良いのではないか?
――そんなこと考えても仕方ないか。
「~♪はい!私はこれで終わり!それでは、葛さんお願いします!」
「え、オレ?歌上手くないからいいよ」
「知りませんよそんなこと!いいから歌ってください!歌わないなら私を殴り倒してみてください!」
「あー……!わかったよ!歌えばいいんだろ!」
そうしてオレは流行り物の歌を全力で歌った。景色なんか見ず、目をつぶって。近くを通るジェットコースターの音も聞こえない。
歌詞を間違えていたような気がするが、そんなことは気にしていられなかった。女子たちの前で歌うのに必死だったのだ。
「おー!なかなか上手いじゃないですか!」
「良いね~」
そんな感じの声が聞こえた気がしたが、幻聴だと思って歌いきった。
「ど、どうだ!!」
「すごいです!!」
恥ずかしい。凄まじく恥ずかしい。でもやりきった。だからあまり責めないで欲しい。
◇ ◇ ◇
「いやぁー!楽しかったですねー!」
「ひへへ……時間なくてあんま回れなかったけどねぇ……」
疲れた。なぜここに来たのかも分からないのによくもここまで付き合えたよな。とはいえ、今日は楽しかったな。
――この二人と楽しむことが「責任を取る」ってことなのか……?どうなんだろうか。あいにくオレは男なので女の気持ちはよく分からない。
「じゃあ帰りましょう!――あ、連絡先だけ交換しましょうよ!」
夏来の提案で、オレたちはチャットアプリの連絡先を交換し、今日の三人が入ったグループを作った。
いやー、ジェットコースターを昇っている時はあまりにも怖かったが、終わってみればいい思い出になったなぁ……?
あれ、なにかおかしい。今日のオレはいくら使った?え、もしや払ってない?財布の中身は!?――お札どころか小銭一つすら減ってない!?まずい!!やばい!!
このままじゃ本当に「女の子にお金払わせて自分はのほほんとしてるクズ男」になってしまう!!しかも、この事実に気づいたのは今……というか家の最寄り駅に着いてからであった。
つまり、オレは少なくとも明日までは前述の人間ということになるのだ。さらに明日はなんと休日。どうしよう……!
夏来は変わらない調子で元気に挨拶をする。こういうところは本当に模範的な生徒って感じだ。
大丈夫か否かで言えば正直大丈夫では無い。どうしようもなくヤバい人間とはいえ、一人の少女のいたいけな姿を見つつ平常心を保ち続けろという注文はは少し難しい。
「ひへへ、あたしは今日再出発かなぁ?」
「ほう、再出発ですか?どういうことでしょう?」
「ひへへ、昨日はちょっと急ぎすぎたところあったからねぇ……これからゆっくりクズくんの動かぬ証拠を掴んでいこうかなって……」
やめてくれ……夏来はさっぱりとした性格故にそこまでの嫌悪感は無いが、篦河の場合はかなり粘着的にオレを拘束してきそうだ。
徹底的に社会的地位を落としにかかってきそうで恐ろしい。
「ひへへ、まあ、あたしのホントの姿を知ってしまった可能性があるってことは……責任を取ってもらわなきゃねぇ?」
「せ、責任ってなんだよ」
「ひへへ、簡単だよ」
◇ ◇ ◇
放課後。オレはなぜか地上八十メートルに向かって上昇していた。隣には篦河、後ろには夏来、前には安全バー。そう、オレは今ジェットコースターに乗せられ――
――うわぁぁぁぁぁ!!!!!
死を覚悟した。「心中」とはこのことなのか。整いのない息が続く。しかも、それだけなら自分との戦いだけで済むのだが、篦河は叫び声もあげずにずっと笑っている。それもなんか不自然に。目を大きく見開いて景色を舐めるように見ている。いくらなんでも怖すぎるわ!後ろの夏来はニコニコしてるし!安全バーはなんかガタガタ鳴ってるし!
もはや今どんな角度でどんな所を走っているのかすらわからない。意識が飛びかけたその時、車両は急減速し停止した。楽しそうな女子二人に対して男子のオレはグロッキーになってしまった。ロッカーから荷物を何とか取り出し、階段を千鳥足で降りる。なんでオレは死んでないんだ……
「楽しかったですねー!」
「ひへへぇー……良かった」
良くない。この状況でなんでそんなことを言えるんだ。訳が分からない。
というか、これが責任を取るということに繋がるのだろうか?ただ遊んでいるようにしか思えないのだが……
「観覧車行きましょ!観覧車!」
「行こう……ひへ」
元気があり余りすぎている。別に高いところが苦手な訳では無いが、高いところから落ちるのは嫌いだ。ちなみに、この事実には先程気付いた。出来れば気付きたくなかった。
「葛さん!カラオケ歌えるらしいですよ!カラオケ!」
「ラッキー……なんか空いてる……」
二人はオレの手を引きながらはしゃぐ。正直カラオケどころでは無い――
――ってこともなかった。
結局この気分の悪さは一時的なもので、観覧車に乗って上昇すると同時に段々と解決して行った。
「何歌います?流行りの曲でも入れます?」
「ひへへ~、あたしは何でも~」
先程からオレは蚊帳の外で女子二人がガンガン進んでいる。というか一日で仲良くなりすぎじゃないか?夏来が社交的な性格ってこともあるのかもしれないが、にしても出会って二日で遊園地に行くなんて少々おかしな気もする。
「じゃあこれで行きますか!」
国民的アニメの主題歌が流れ始める。楽しげなその曲に手拍子を打ったりしながら風景を眺める。この街は本当に都会って感じだ。
自分の住む場所は田舎では無いが別に都会でもない、中途半端な場所。そんなんだからオレも中途半端な感じになっちゃったのかなぁ……夏来を見ていると尚更思う。これほどカラッとした性格の人間には憧れる。逆に篦河みたいな性格もありなのかもしれない。妄想の多いこいつでも中途半端なオレよりも何千倍も良いのではないか?
――そんなこと考えても仕方ないか。
「~♪はい!私はこれで終わり!それでは、葛さんお願いします!」
「え、オレ?歌上手くないからいいよ」
「知りませんよそんなこと!いいから歌ってください!歌わないなら私を殴り倒してみてください!」
「あー……!わかったよ!歌えばいいんだろ!」
そうしてオレは流行り物の歌を全力で歌った。景色なんか見ず、目をつぶって。近くを通るジェットコースターの音も聞こえない。
歌詞を間違えていたような気がするが、そんなことは気にしていられなかった。女子たちの前で歌うのに必死だったのだ。
「おー!なかなか上手いじゃないですか!」
「良いね~」
そんな感じの声が聞こえた気がしたが、幻聴だと思って歌いきった。
「ど、どうだ!!」
「すごいです!!」
恥ずかしい。凄まじく恥ずかしい。でもやりきった。だからあまり責めないで欲しい。
◇ ◇ ◇
「いやぁー!楽しかったですねー!」
「ひへへ……時間なくてあんま回れなかったけどねぇ……」
疲れた。なぜここに来たのかも分からないのによくもここまで付き合えたよな。とはいえ、今日は楽しかったな。
――この二人と楽しむことが「責任を取る」ってことなのか……?どうなんだろうか。あいにくオレは男なので女の気持ちはよく分からない。
「じゃあ帰りましょう!――あ、連絡先だけ交換しましょうよ!」
夏来の提案で、オレたちはチャットアプリの連絡先を交換し、今日の三人が入ったグループを作った。
いやー、ジェットコースターを昇っている時はあまりにも怖かったが、終わってみればいい思い出になったなぁ……?
あれ、なにかおかしい。今日のオレはいくら使った?え、もしや払ってない?財布の中身は!?――お札どころか小銭一つすら減ってない!?まずい!!やばい!!
このままじゃ本当に「女の子にお金払わせて自分はのほほんとしてるクズ男」になってしまう!!しかも、この事実に気づいたのは今……というか家の最寄り駅に着いてからであった。
つまり、オレは少なくとも明日までは前述の人間ということになるのだ。さらに明日はなんと休日。どうしよう……!
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