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シュガーダディ
29th オイツメピンチ
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「あんたら、誰の差し金?」
銀河の一言は、質問と言うよりも威嚇であった。ドスの効いた低い声、異様なまでに詰められた距離、先程まで媚び声を出していたとは思えない迫真の表情。それら全てがとてつもない圧力を醸し出している。
篦河と言織は今まで感じたことの無い恐怖にどうすればいいかたじろぐ。篦河はオロオロとしながらもなんとか言葉を絞り出す。
「ひへっ……えっと、なんの事ですか……?」
何とか誤魔化そうと目を逸らしてみるが、それが逆に銀河の逆鱗に触れた。
「はぁ?明らかにツケて来といて『なんのことですか』ぁ?ウチのこと、あまり舐めてっと痛い目見るよ」
言織は『足がすくむ』とはどういうことかを身をもって痛感する。しかし、そんな状態でもなんとか活路を見出そうと声を震わす。
「だ、誰の差し金とかではない、ですよ……私たちはたまたまあなた達のことを見つけて……えっと……」
言葉に詰まってしまった言織を援護するように、篦河が付け加える。
「明らかに年齢差があるし……事件にでも巻き込まれてるんじゃないかなって思って……ひへへぇ……」
笑ってごましてみるが、銀河の威圧は留まるところを知らない。
「……苦しいよ、その言い訳。じゃあ、あんたらは殺人事件の犯人かもしれない人を見つけたら尾行するわけ?」
「うっ……それは……」
「普通警察に通報するよね?なのにあんたらはしてない。それって、どー考えてもウチに何かしらの因縁みたいなのがあって、ツケる必要性があったってことじゃん?」
篦河と言織は黙り込んでしまった。これ以上上手い言い訳が思いつかないのだ。
「まあでも、どっちもウチと知り合いな訳じゃないし、あんまり怒ってもしゃーないか。んで?あんたらは誰由来?親か、それともソーゴ?」
「えっ……えっと……」
言織は知らない名前を出されて困ってしまう。しかし、ここで葛の名前を出してしまうのもマズいような気がする。言織はなんとか穏便に済ませるために、話を逸らすことを選択した。
「『親』って……親御さんにも言ってないんですか?」
「言ってないよ。バレたら殺されると思うし。薄々気づかれてんのかもしんないけど」
殺される、というのは過剰表現だと思うが、こんな表現をするのは意外だった。というのも言織としては、パパ活なんてものをする人間は総じて罪悪感の欠けらも無い純粋悪だと思っていたからである。
「バレたら殺される」。ということは、バレたらマズいものだと認識できていると考えられる。すなわち、罪悪感、そして改心の余地がある……かもしれない。
「うん?ってことは親じゃない?じゃあソーゴか……それで?写真はどこまで撮った?」
「ひへへ……あたしたちは撮ってないです」
「あたしたち『は』?つまり撮影要員が居るってことか……?」
どうやら、葛がいたということは全く気づかれて居ないようだ。これは好都合かもしれない。
「撮ってんのはどいつ?ウチの知ってるやつ?」
「わ、わからないです」
「はぁ?ウチの知らないやつなのか。ソーゴのやつ……ウチと関わりのないやつで固めてきたな」
言織は「撮影要員が誰か分からない」という意味で発言したのだが、銀河はこれを「銀河が分からない人」……というよりは、「銀河が知らない人」という意味で捉えたようだ。
「まあ、もう吹っ切れっか。ウチはもうおじぴの所に戻るから。じゃあね」
銀河はそう言ってその場を去った。篦河と言織は安堵で腰が抜ける。
それからまもなく、二人の元に見たことのある影が迫るのだった。
◆ ◆ ◆
なんとか寿司屋を出たは良いが、何故か常磐さんと篦河との連絡が取れなくなってしまった。
――不安だ。どうしたのだろうか。先程のようにアイスを食べているのならいいのだが、この時間帯だとアイス屋は閉まっているだろうし……
アイスでは無いとすれば……捕まった?いやいや、アイツらは二人とも銀河さんに知られていないはず。
とりあえず探さないと……!
◇ ◇ ◇
オレはまずレストランフロアをぐるっと回ってみた。――いない。エスカレーター付近にも、エレベーター付近にも。オレは階段を駆け下り、一階へと降りていく。
最後の一段を飛ばし、一階へ降り立ったオレは、正面出口からデパートの外へ飛び出そうとする。しかし、何故かオレの体がそれを拒んだ。南出口から出ていかなければならない気がしたのだ。
オレは駆け足で迂回し、南出口へと向かった。そして、止まることなく外へ出て左右を見回してみる。
――いないじゃないか。なんだよっ。オレの直感はあまりにもアテにならない。オレは早歩きで正面出口の方へ向かう。
◇ ◇ ◇
三分ほど歩くと、ようやく正面出口が見えてきた。すると、どういう訳かぐったりと倒れている篦河と常磐さんがいた。
「お、おい!どうしたんだよ」
「ひへへ……クズくんか……」
篦河は無気力に答えた。オレは二人を立ち上がらせ、何があったのかを問う。
「なんで二人共ばったり倒れてたんだよ?何があったんだよ!?」
「ひへへ……恐ろしいパパ活女子に詰められたのさ」
「――銀河さんに見つかったのか!?」
「うん」
なんだと……!?ということはオレのこともバレたのか……!?
「どこまで言った!?オレのことは!?」
「多分だけど……私たちがついて行ったという事実しか伝わってないと思う」
「そうか……厄介なことになったな……」
とりあえず状況をまとめないことには何も始まらないだろう……オレは焦りを加速させるのだった。
銀河の一言は、質問と言うよりも威嚇であった。ドスの効いた低い声、異様なまでに詰められた距離、先程まで媚び声を出していたとは思えない迫真の表情。それら全てがとてつもない圧力を醸し出している。
篦河と言織は今まで感じたことの無い恐怖にどうすればいいかたじろぐ。篦河はオロオロとしながらもなんとか言葉を絞り出す。
「ひへっ……えっと、なんの事ですか……?」
何とか誤魔化そうと目を逸らしてみるが、それが逆に銀河の逆鱗に触れた。
「はぁ?明らかにツケて来といて『なんのことですか』ぁ?ウチのこと、あまり舐めてっと痛い目見るよ」
言織は『足がすくむ』とはどういうことかを身をもって痛感する。しかし、そんな状態でもなんとか活路を見出そうと声を震わす。
「だ、誰の差し金とかではない、ですよ……私たちはたまたまあなた達のことを見つけて……えっと……」
言葉に詰まってしまった言織を援護するように、篦河が付け加える。
「明らかに年齢差があるし……事件にでも巻き込まれてるんじゃないかなって思って……ひへへぇ……」
笑ってごましてみるが、銀河の威圧は留まるところを知らない。
「……苦しいよ、その言い訳。じゃあ、あんたらは殺人事件の犯人かもしれない人を見つけたら尾行するわけ?」
「うっ……それは……」
「普通警察に通報するよね?なのにあんたらはしてない。それって、どー考えてもウチに何かしらの因縁みたいなのがあって、ツケる必要性があったってことじゃん?」
篦河と言織は黙り込んでしまった。これ以上上手い言い訳が思いつかないのだ。
「まあでも、どっちもウチと知り合いな訳じゃないし、あんまり怒ってもしゃーないか。んで?あんたらは誰由来?親か、それともソーゴ?」
「えっ……えっと……」
言織は知らない名前を出されて困ってしまう。しかし、ここで葛の名前を出してしまうのもマズいような気がする。言織はなんとか穏便に済ませるために、話を逸らすことを選択した。
「『親』って……親御さんにも言ってないんですか?」
「言ってないよ。バレたら殺されると思うし。薄々気づかれてんのかもしんないけど」
殺される、というのは過剰表現だと思うが、こんな表現をするのは意外だった。というのも言織としては、パパ活なんてものをする人間は総じて罪悪感の欠けらも無い純粋悪だと思っていたからである。
「バレたら殺される」。ということは、バレたらマズいものだと認識できていると考えられる。すなわち、罪悪感、そして改心の余地がある……かもしれない。
「うん?ってことは親じゃない?じゃあソーゴか……それで?写真はどこまで撮った?」
「ひへへ……あたしたちは撮ってないです」
「あたしたち『は』?つまり撮影要員が居るってことか……?」
どうやら、葛がいたということは全く気づかれて居ないようだ。これは好都合かもしれない。
「撮ってんのはどいつ?ウチの知ってるやつ?」
「わ、わからないです」
「はぁ?ウチの知らないやつなのか。ソーゴのやつ……ウチと関わりのないやつで固めてきたな」
言織は「撮影要員が誰か分からない」という意味で発言したのだが、銀河はこれを「銀河が分からない人」……というよりは、「銀河が知らない人」という意味で捉えたようだ。
「まあ、もう吹っ切れっか。ウチはもうおじぴの所に戻るから。じゃあね」
銀河はそう言ってその場を去った。篦河と言織は安堵で腰が抜ける。
それからまもなく、二人の元に見たことのある影が迫るのだった。
◆ ◆ ◆
なんとか寿司屋を出たは良いが、何故か常磐さんと篦河との連絡が取れなくなってしまった。
――不安だ。どうしたのだろうか。先程のようにアイスを食べているのならいいのだが、この時間帯だとアイス屋は閉まっているだろうし……
アイスでは無いとすれば……捕まった?いやいや、アイツらは二人とも銀河さんに知られていないはず。
とりあえず探さないと……!
◇ ◇ ◇
オレはまずレストランフロアをぐるっと回ってみた。――いない。エスカレーター付近にも、エレベーター付近にも。オレは階段を駆け下り、一階へと降りていく。
最後の一段を飛ばし、一階へ降り立ったオレは、正面出口からデパートの外へ飛び出そうとする。しかし、何故かオレの体がそれを拒んだ。南出口から出ていかなければならない気がしたのだ。
オレは駆け足で迂回し、南出口へと向かった。そして、止まることなく外へ出て左右を見回してみる。
――いないじゃないか。なんだよっ。オレの直感はあまりにもアテにならない。オレは早歩きで正面出口の方へ向かう。
◇ ◇ ◇
三分ほど歩くと、ようやく正面出口が見えてきた。すると、どういう訳かぐったりと倒れている篦河と常磐さんがいた。
「お、おい!どうしたんだよ」
「ひへへ……クズくんか……」
篦河は無気力に答えた。オレは二人を立ち上がらせ、何があったのかを問う。
「なんで二人共ばったり倒れてたんだよ?何があったんだよ!?」
「ひへへ……恐ろしいパパ活女子に詰められたのさ」
「――銀河さんに見つかったのか!?」
「うん」
なんだと……!?ということはオレのこともバレたのか……!?
「どこまで言った!?オレのことは!?」
「多分だけど……私たちがついて行ったという事実しか伝わってないと思う」
「そうか……厄介なことになったな……」
とりあえず状況をまとめないことには何も始まらないだろう……オレは焦りを加速させるのだった。
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