欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

夢で逢えたら

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「ここにある精神魔術に関する資料はこれで終わりだと思うよ。」

ロイさんが奥から手書きの書類の束を持って来て渡してくれた。
精神魔術を得意とし、生涯その研究をされていたフーボーさんの残した研究レポートだ。

「まだきちんとまとめ終わっていなくてね。何分、私にとっても精神魔術は自分が扱えるものではないから、形にするには時間がかかってね。そのままの形ですまない、サーク。」

「いえ、資料が残っているだけでとても助かります。」

ロイさんこと、魔術本部資料管理担当長、リロイ・オズ・クウェンネル。
ジョシュア国王の元ロイヤル・シールドでロイヤル・ガード長を務めていた経験もある人だ。
歴史あるロイヤル・ガードの中でも、ソード・シールド合わせても、ロイさん以上の人はいないと言われている伝説の人らしい。
俺にとっては物静かな司書さんのイメージしかないロイさんだが、実はウィルと同じ竜の谷の外界調査員の女性と恋仲だった事があったり、現ルードビッヒ宰相や国軍の最高責任者であるアーチボルド総元帥と何となく複雑な親友関係にあるようだったりと、謎の多い人でもある。
いや、魔術本部にいる人は皆、ただのほほんとして見えてとんでもない人ばかりだから、ロイさんが特別な訳ではないんだけどね。

「……どうしたんだい?サーク?」

「いや……この前、ルードビッヒ宰相と顔を合わせる機会があったんですけど……何と言うか……何か言いたげな凄い顔でジリジリ睨まれたんで……。」

「ルーイが?どうしたんだろうね?」

「ロイさん……帰る時、ちゃんと挨拶してきました??」

「………あ~。……ふふっ、どうだったかなぁ~。」

昔馴染みなせいか、ちょっと悪戯っ子の様な顔に戻って、ロイさんは笑った。
あかん……この人、絶対、黙って帰ってきたんだ……。
どういう関係なのかよくわからないけど、宰相のあれは「可愛さ余って憎さ100倍」みたいな感じな気がする。
ブラハムさんもいるのに俺を睨んでくる辺り、ルードビッヒ宰相も狡いけどさ~。
義父さんもそうだけど、ロイさんといいフレデリカさんといい、大人世代、謎が多すぎるし何か複雑すぎる……。
深く関わらないのが懸命だろう。
くわばらくわばら。

「そう言えば、合う場所は見つからなかったかい?」

「あ、はい。資料館じゃないとすると、どこの鍵なんですかねぇ~??」

俺の手元に置いてあった小さな鍵を見て、ロイさんは言った。
先日、ナーバル議長に貰った鍵。
リリとムクに見せたところ、本棚の鍵だと教えてくれた。
ただ、どこの本棚でもいいってものではなく、決められた本棚に指して回すとその鍵と繋がった精霊のいる本棚に繋がるらしい。
ハウスパートナーの鍵と似ているようで少し違うもののようだ。

「でも、鍵が御霊分けされた精霊の一部だなんて気づきませんでした。」

「私も君の話を聞くまで、そんな事は考えた事もなかったからね。精霊が使う何らかの魔法や魔術なのだと思い込んでいたよ。さすがは東の国の神仕えの息子だね、サーク。分霊と言われてハッとしたよ。」

「とはいえ、仮説にすぎませんけどね。」

「いや。確かめる術は無いが一番しっくりくる話だと思うよ。精神魔法もしかり、我々は何気なく使っているものでも、言われてみればきちんと理解していていない物が多いんだね。」

「そうですね。」

俺はロイさんが出してくれた資料などをまとめ始めた。
特別に全て資料館から持ち出していい事になったが、魔術本部の外には持ち出さない事を約束した物もある。
その他の資料も、向こうの家の外には持ち出してはいけない事になっている。
それだけここにある資料は貴重であり、悪用も可能なものなのだ。
俺はそれらに間違いが起こらないように簡単な魔術をつけた。

「そんな気にしなくても、サークなら大丈夫だとわかっているよ。」

「いやいや、未来の魔術師達にとっても大事な資料ですからね。俺のちょっとしたドジでエライ事になったら大変です。」

とりあえず魔術本部から出せないものにはここから出せないように処理をして、王国に持ち帰って良いものは俺の書斎の外には出せない&俺以外は開けない様に細工した。
これで準備は良いだろう。

「帰るのかい?」

「ええ、リリとムクがお昼を作って待ってると思うので。でも今日一日はこっちにいます。」

「わかった。また関連した物が出てきたら、家の方に届けるよ。」

「ありがとうございます。ロイさん。」

「どういたしまして。私も一度帰ろうかな……っと、おや、どうやら私は帰らずに済みそうだ。」

そんな話をしていると、ドアが開いてシュッとスマートでリリ達より大きめな黒いうさぎが入ってきた。
ロイさんのハウスパートナーのセヤだ。
俺達を見て綺麗に礼を尽くす。
それにニッコリとロイさんは笑い返した。

「やぁ、セヤ。」

「お仕事中、失礼致します。旦那様、ご昼食をお持ちしました。」

う~ん、いつ見ても格好いいなぁ、セヤ。
セヤは片眼鏡をしていて、ビシッとしたジャケットを着こなし、いかにも出来る執事さんの様な雰囲気がある。
でもうさぎなので鼻のあたりをひくひくっと動かしたりするのでそれが可愛い。

「どうだい、サーク?セヤのジャケット?新調してみたんだ。」

「とても素敵ですね。」

「君がリリとムクにあげていた髪飾りも素敵だったよ。二人とも耳につけて私達に見せに来てね、ふふっ、嬉しそうに手を繋いで見せに来て凄く可愛かったよ。何となく皆と同じようにセヤを執事として育ててしまったけれど、君のように家族として育てるのもいいなって思ったよ。」

「……旦那様、私ではご不満ですか?」

「いや?セヤは世界一の私のハウスパートナーだよ。」

「……もったいないお言葉、恐縮です。」

ちょっと拗ねたように言った後、褒められて照れ隠しに恭しく礼に尽くすセヤが可愛かった。
ハウスパートナーって、やっぱりそれぞれと特別な絆があるんだな。
二人を見ていて、俺はリリとムクに早く会いたくなった。

「じゃ、俺もリリとムクが待ってるんで帰ります。」

「ああ。何かあったら相談においで。精神魔術の事は詳しくないけれど、フーボーさんの話ならしてあげられるからね。」

「はい。ありがとうございます。」

俺はそう言って資料館の部屋を後にした。
ドアの締り際それとなく振り返ると、あのビシッとしたセヤがロイさんに撫でられて嬉しそうに耳を倒していた。
セヤにはロイさんにしか見せない顔があるのだと思うと、凄く微笑ましかった。










「それにしてもなぁ~、どこの鍵なんだ??これ??」

俺はベッドにごろりと横になり、それを見つめた。

首にかけられた紐。
そこに家の鍵と並んだ小さな鍵。

家に帰ってきた俺はリリとムクの作ってくれた美味しい昼食を食べ、食休みにベッドに転がっていた。
リリとムクは片付けを終えると、出かけてくると言って二人でどこかに行ってしまった。
久しぶりに帰ってきたら家の周りにハーブなんかが植えられて、簡単な畑っぽいものもあったから、そういったものを作ったり植えるものを森から調達してきたりしているみたいだった。

「やっぱり、家を持ったら畑をやるのは必須なのかな??」

ウィルも当たり前にハーブとか簡単な野菜を作るつもりでいるし、実家である東の国の教会も畑をやっている。
他の森の街の家々は畑っぽい事はやってたりやってなかったりとまちまちだ。
多分、家主の家のイメージの影響なんだと思う。
俺は当たり前ながら庶民感覚だし、実家も畑をやっていたし、ウィルとも家で畑をやるつもりでいるから、無意識に簡単な畑ありきってのが家のイメージに含まれているからリリとムクもそれを始めたのだと思う。

俺はゴロンと寝返りをうった。
うつ伏せになって枕を抱える。
いかん、こんな事をしている場合ではないのだが、お腹も膨れているし眠くなってきた。
家の周りにハーブが植えられたせいか、何だか爽やかな匂いがする気がする。

「ヤバい~寝そう~。」

考えてみれば、今朝は滅茶苦茶早起きをしたのだ。
昨日は徹夜しているし、睡眠リズムがおかしな事になっている。
このまま本を読んでも頭に入らなそうだし、ちょっとだけ昼寝しよう。
そう思ってそのまま目を閉じた。











ふと気がつくと、俺は見覚えのない図書館にいた。

芸術的に積み上げられた本の数々を見て、純粋に凄いなぁと思った。
独特の本の香りに妙な安心感を覚える。
ちょっと枯れ葉の匂いに似ているんだとそんな事を思った。

木々の中を歩くように、高く高く積まれた本棚の間を当て所なく歩く。
本の背表紙の文字は、読めているはずなのに何と書いてあるのか頭に残らなかった。

ああ、これ、夢の中だ。

俺はそれを自覚した。
夢の中でまで資料を探しているとか、ちょっと疲れてるなぁと自分に苦笑した。

「…………あれ……??」

本の森を歩き続けていると、目の前にそれまでと違う本棚が現れた。
今までの本棚は皆、本が剥き出しで置いてあったが、目の前の本棚はガラス扉がある。
開けようとして引っ張ってみたが、鍵がかかっている。

「鍵がいるなぁ……。」

俺はそう思って、無造作に首から鍵を外した。
リリとムクの御霊分けである家の鍵の横にちょこんと並んだ小さな鍵。
それを鍵穴に刺して回した。
カチンッと小さな音を立てて鍵が開く。
特に何を思うでもなく首に鍵をかけ直すと、俺はガラス戸を開けた。


「……ヒッ!!」


開けたは良かったのだが、目の前に見えたものにぎょっとして俺は思わず声を上げてしまった。
本棚に、本の目の前に、違和感しか感じないものがあったのだ。

それは生き物の様で呼吸をしているのか、一部が規則的に膨らんだりへこんだりする。
どうやら眠っているようだ。
体を丸めて、背中?をこちらに向けて動かない。

う~ん??これは……。

生き物は大好きだが……この生々しい感じはさすがの俺でもいきなり目の前にするとちょっとビビる。
ぶよぶよと皮膚に皺が寄ってるのも何かうが~っとなってしまう。
何より毛がないのが触っていいものやら躊躇する。


「………何で……?!」


俺はその生き物が何か大体の予想はついていた。
無駄に動物好きな訳じゃないからね。
だが何故その生き物が本棚の中にいるのかは全くわからなかった。

毛のない肌色剥き出しの地肌を眺め、困惑するばかりだ。
それがもぞもぞっと動いて、俺はビクッとしてしまった。

「……んん??何か寒みいと思ったら……!!」

「ひゃっ?!喋るのか?!これ?!マジで?!」

「ああんっ?!……誰だ!オメェ?!」


ただでさえ意味不明で狼狽えていた俺に、それは物凄く不細工な顔を向けてそう言った。

うん、わかってたけど、マジで不細工だな?!
いや、人の好みはそれぞれだけど、俺的にはやっぱり不細工だな?!
愛嬌があるって言えばあるんだけどさ?!

無駄に長い出っ歯を剥き出しにして怒るそれを眺めながら、俺は半分思考が停止していた。

「何とか言え!!クソガキが~っ!!」

「……思ったより、ちょっと気持ち悪い……。」

「ああんっ?!何言ってやがんだよ?!」

「ハダカデバネズミ……思ったよりちょっと気持ち悪い……。」

「喧嘩売ってんのか~っ!!」

「いや俺、動物大好きだけど、もふもふしてる方が好きだから……。」

「必要ねぇから毛がねぇんだよっ!!テメェら人間だってほぼ毛がねぇ癖に!!ふざけんじゃねぇぞっ!!クソガキっ!!」

「いや、人間は基本、真っ裸でいないし。」

「真っ裸とか言うんじゃねぇ~っ!!」

「え??なら、生まれたままの姿??」

「変に卑猥な感じにすんじゃねぇ~っ!!」

初見は違和感ありすぎて思考停止したのだが、ギャンギャンと怒鳴られているうちに俺の感覚も麻痺してきたのか普通に受け答え出来るようになった。

何より、これ、夢だしな。

でなければ、何で荘厳な感じの図書室の本棚にハダカデバネズミがいると言うのか?
何で言葉を話して、しかも口汚いのか説明できない。

夢なんだなぁと思うとおかしくなってきて、俺は怒り狂うハダカデバネズミを前にゲラゲラ笑い転げたのだった。
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