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第九章「海神編」
砂漠の国のアウトロー
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シルクは暇を持て余していた。
何故かと言えば、レオンハルドの次の目的地が街だったからだ。
いや、今までもレオンハルド自身はどこかの街なりに行っていたのだろうが、シルクはその近くの荒野に置いて行かれていた。
しかし今回は何故か町外れに安宿を取って、そこで待たされた。
はじめの数日は快適な空間で寝泊まりできる事が嬉しかったのだが、こんな所では派手に修行する事もできず、飽き飽きしてしまった。
「ヒマ~。ちょっと外、歩いて来ようかなぁ~。」
窓から外を眺め、そう呟く。
見える景色は生まれてから紆余曲折、ずっと生きてきたはずの西の国だ。
なのに今はこの国の方が異国に見える。
「変なの。」
帰りたいと言う思いが浮かんだ時、それはもう、この国ではない。
カイナの郷ですらない。
いや、カイナの郷も思い浮かびはするのだが、それより鮮明に浮かぶのは主の顔であり、半ば事実婚の恋人の腕の中であり、第三別宮警護部隊の鍛錬場なのだ。
「俺の家、あっちなんだなぁ……。」
中央王国に行ったのは主がいたからにすぎなかった。
場所なんてどうでも良かった。
主がいる所が自分のいるべき場所。
だからどこの国でもどんな場所でもどうでも良かったのだ。
だが今は違う。
帰ったら主の新しい家に自分の部屋がある。
まだ完成した部屋は見ていないが、帰れる場所があるのだ。
半ば伴侶の恋人のギルがそこに家具を全て揃えておいてくれると言っていた。
まだ見ぬ自分の為に存在する場所。
自分の為だけに存在する場所。
何があろうとそこにいる事を許された場所。
たとえどんなに遠くに行っても、ずっとそこに自分の居場所がある。
帰れる場所。
帰りたいなぁと思い出す場所。
それはもうこの西の国ではない。
それがなんだかおかしかった。
西の国で生まれ長く過ごしてきたシルクは、中央王国に行ったばかりの頃は、主の側以外、帰れる場所はなかった。
他に行くところはもうなかった。
だってカイナの郷はもうないのだから。
どんなに叫んでも、泣いても、カイナの郷はもうないのだ。
本当の自分を知っている人もいない。
誰もいない。
でも主がいる。
たった一人の一度の誓いの相手。
それで十分だった。
だって全てを捧げ、名と共に過去の全てを捨て、その人のものになったのだから。
それさえあれば何も要らなかった。
だが逆に言えばシルクには、主以外何一つ残されていなかったのだ。
主が全て。
この世の全て。
帰れる里もない。
自分を知る人もどこにもいない。
だから依存した。
そうと気づかず、主の存在に依存してしまった。
そしてその傍らを失う事を恐れた。
だって自分にはそれしか残されていなかったのだから。
離れれば気が狂いそうになった。
不安で押しつぶされた。
何より片腕にはしてくれたけれど、主は自分を選ばなかった。
その心の拠り所は別の人で、自分より先にすでに出会っていた。
でもきっと、出会う順番が逆でも主は自分を選ばなかっただろう。
それがわかるからこそ、自分が壊れそうになった。
いつも肝心な時に側にいさせてもらえない。
それが苦しくて悲しくて辛かった。
それはすでに主に従う従者の想いを逸脱していた。
呪いに飲まれて死にかけた主。
そしてそこに行くことが出来ない自分と、行けてしまうウィル。
無自覚にわかっていたそれを現実として突き付けられた時、正気を保てなかった。
無力で虚しくて生きていたくなかった。
でもそんな自分を抱きとめ、その全てを分かち合ってくれる人がいた。
同じ様に主に対して、言葉では表せない感情を最奥の更に奥の方に抱えている人。
何より互いを強く求め、心から愛する人。
これだけ強く主に依存し主従以上の感情を持っているのに、他に心から愛する人がいると言っても普通は信じられず眉を顰めるだろう。
だが、他人に何と思われようとそんな事はどうでも良いのだ。
何故ならシルクとその相手であるギルは、それすらも共有して深く深く繋がっているのだ。
おそらく二人の関係は、通常の良識の上では理解し難いだろう。
だがそんな事はどうでも良い。
二人には関係ない。
世界の誰にも理解できなくても、お互いが理解し共有しているのだから、他に何もいらないのだ。
それがシルクとギルの関係。
互いに唯一の相手、つがいという関係。
そこには何人たりとも、主ですら踏み入る事が出来ない。
はじめから堅く全ての絆が結合する事が決められた、唯一無二の片割れ。
彼がいたから、シルクは耐えられた。
苦しさも悲しさも絶望も、全て共有してくれるその人がいたから耐えられた。
自分の世界の全てである主に全てを受け入れて貰えず、一番大事な時に側に行く事さえ許されない絶望に耐えられた。
そして望んだ訳ではないが、自分は一人ではなかった。
カイナの郷は滅んだ。
自分一人だけが生き残ったはずだった。
もう、村の記憶を持っているのも自分一人だけだと思っていた。
だからあの暮らしが、カイナの村があった事すら本当の事なのか証明する術がなかった。
あれが本当だったのか、あれは自分の理想の夢に過ぎないのか、確かめる術はない。
だがもしも自分が忘れてしまったら、本当になくなってしまう気がして怖かった。
だがそれを証明するものが突然帰ってきた。
しかも自分の命を奪おうとする、容赦ない形で帰ってきた。
あの頃と同じ。
何一つ変わらない理不尽さが帰ってきた。
その血生臭いまでの現実が、より一層、真実味を持っていた。
あぁ、カイナだ。
カイナであり、演舞だ。
村の思い出で一番思い出したくなかった部分。
嬉しい気持ちと冗談じゃないと言う気持ちと、なんであえてこれ?!という想いがグチャ混ぜだった。
師父が生きていた。
村を守る為に西王国と取引し、自らを人身御供として差し出した師父が生きていた。
とっくに死んだと思っていたのに、村は滅んだのに、何故か一番はじめに犠牲になったはずの師父が生きていた。
その事についてシルクは何も聞かなかった。
顔に刻まれた皺の深さ、真っ白になった髪。
何より、昔の師父の強さがない。
確かに今でも勝つ事は出来ないが、自分を継承者候補として育てていた時の、狂気迫る武神の様な強さはない。
何があったか聞く必要はないだろう。
必要だと判断するか気が向けば、いずれ話してくれるだろうし。
ただ、中央王国でライオネル王子の執事長をしていたと言うのは絶対、嘘だと思っている。
あの師父にそんな事ができる訳がない。
目の前で執事のフリをする師父を見ても、シルクは信じなかった。
多分、脳の混乱が激しすぎて、理解する事を拒否したのだと思う。
主が目をキラキラさせて見つめるその人が、主の初恋の超絶ダンディなイケジジが、自分の師父である事を四億光年ぐらい譲って理解したとしても、「全てが完璧なダンディ執事さん」である事はシルクの全身全霊が拒絶反応を示し理解する事は不可能だった。
全てを共有し愛し愛される相手と、自分の過去と村の存在の証明でもある師父。
その二人の存在とその言葉で、シルクは自分が主に尋常ではない依存をしているのだとやっと理解した。
そしてそれが自分の弱さであり、主の片腕でありながら、その傍らに本当の意味で寄り添う事ができていない原因だと理解した。
だから一度離れる事を決めた。
自分から主の側を離れる事を決めた。
離れてみてわかった。
自分がどんなに主に必要とされ、信頼され、大切に愛されていたか。
その愛を混乱していた自分は見誤っていた。
恋人の様に愛される事だけが愛ではない。
家族として寄り添い合う事も、友人として時には言い合いそして笑い合う事も、師父のように常に自分に立ちはだかる強敵でいる事も、全て深く真実の愛の形なのだ。
何より主がくれた愛は信頼だった。
その命をなんの躊躇いもなく預け、そして覚悟を持って預かってくれる。
戦場で二人、背中合わせに躊躇いなく戦える。
その相手として選ばれたのだ。
こんな幸福な事が他にあるだろうか?
はじめからわかっていたのに、どうして忘れてしまったのだろう?
依存し、執着するあまり、見失っていた主の愛。
主はちゃんとそれを南の国で示してくれた。
地獄の門の前に二人で立ったのだ。
主はちゃんとそこに連れて行ってくれた。
そして、主は与えてくれた。
帰れる場所も、帰りたい場所も、全部くれた。
「……早く帰って、主に会いたいなぁ~。」
ふふふっと笑って呟く。
帰ったら、いっぱい困らせてやろう。
前と同じ様に、大好きって言って甘えて困らせてやろう。
そして以前とは違う自分を知ってもらおう。
そう思えたのも師父と、最愛の人のお陰だ。
そうしたいと言った自分を黙って送り出してくれた人。
離れていても一度繋がったつがいの絆は消えない。
ニ度目の南の国で発情期が来そうになった時は不安で仕方がなかったが、発情期は単なる生理現象にすぎない。
絆が消えた訳ではないのだ。
その証拠に発情期があんなに差し迫っていても気分が高揚するというより不安に苛まれ、行為ができれば誰でも良かった訳じゃない。
落ち着いてからそれを理解した。
自分のつがいはギルだけだと。
自分の主がサーク以外ありえないのと同じだ。
「そろそろ薬飲み始めようかなぁ。」
ギルと離れてからだいぶたった。
まだ予兆はないが、予兆が来たらまた不安になってしまう可能性がある。
頭で納得していてもうまく行かない事もある。
生命体としての生理現象ならなおさらだ。
主が言うには、発情期には女性の月のものの様にホルモン等のバランスが一時的に酷く狂う為、精神的にも肉体的にもアンバランスになるのではないかという事だ。
だからキチガイのように高揚したり、手がつけられないほど不安に苛まれたりするんじゃないかと。
正直、本当にあの時の不安は凄くて、もう二度とあんな面倒くさい不安に苛まれたくない。
どうにもできないものなら仕方がないが、薬という対処方法があるのだ。
予兆が来てすぐ薬を服用し始めたら、燻っているだけで結局、発情には至らなかった。
確かに起こりにくい状況だった事もあるとは思う。
だが感覚的な感想だが、つがいがいる場合、薬を飲めばほぼ完全に押さえ込めるんじゃないかと思えた。
つがいがいなかった時は薬を飲んでも発作的な発情は抑えられても、欲求不満みたいなものは残った。
でもギルと出会ってから起きたあの予兆の後、薬を服用していたら段々と自覚できるほど不安定さはなくなったし、欲求不満になる様な事もなかった。
ただその反動なのか久しぶりだったからなのか、ギルの存在を、その匂いをわずかでも確認出来た時にはタカが外れた様に抑えが効かなくなって、酷く熱く濃厚な一夜となったけれども。
第一、自分はもう他の誰かは受け入れられない。
気持ち的にも肉体的にも、考えただけでちょっと気持ち悪い。
今だってそうだし、発情期の予兆があった時だってそうだったのだ。
以前はあんなに許容範囲広く、金銭なら金銭、好みなら好みと言ったどこかの基準を満たせば、ほぼ誰でもウェルカムだったのに。
できなくはないが、やっぱりどこか気持ち悪い。
主に命じられればやるだろうし、主に必要だと思えばやるだろう。
そこのところはさほど抵抗はないが、昔のように何ともないというほすんなりいかない気がする。
誰か一人の腕の中に精神的にも肉体的にもストンと納まってしまうと、他のものではどうしてもどこか違和感や嫌悪感を覚えてしまうようだ。
それだけつがいという絆は深いし、自分はギルを愛しているのだろう。
「そんなの当たり前の事なのに、なんで俺、あの時あんなにネガティブに考えてたんだろ??起こんないと思ってた発情期が起こりそうになってびっくりしたってのもあるだろうけど、唯一の人なんだからそう簡単に絆が切れる訳ないのに。」
それだけ発情期の有無によって体内バランスが崩れてしまうという事だ。
普通に生活している分にはそこまで影響はないだろうが、自分は主の剣であり盾であり蔭なのだ。
主を持ったカイナの民としては、体調によって精神的・肉体的に波が出るというのはあまり良いことではない。
「始祖様は女性だったからそう言う崩れもあっただろうけど、どうしてたんだろう?」
自分には薬がある。
ある程度は抑えられる事がわかっている。
カバンから薬を取り出し口に放り込んだ。
始祖様が発情期があったという話は聞かないが、生体的にどうしようもないバランスの乱れがあった時、どうしていたのかは気になる。
水で流し込みながらそんな事を考えていた。
とは言え、このまま閉じ篭っていても仕方がない。
腹も減っているし、近くに鍛錬を出来そうな場所もあるかもしれない。
「そう言えばここって、前に主と踊り子ごっこをしていた時に来た国境の街に近いんだよなぁ~。」
別にその時自分の踊りを見た人に顔を見られたからと言って何かある訳ではないが、レオンハルドは密偵としてこの国に来ているのだ。
しかもこの辺りなら、あの時自分の踊りを見ていた者の殆どが軍人だ。
そう考えれば、おまけでくっついて歩いているだけとはいえ、あまり目立たぬ方がいいだろう。
そう思ってシルクは頭からすっぽり砂よけの薄手のストールを羽織った。
こうして顔を半分隠してしまうと、シルクは男性なのか女性なのかすらわかりにくくなってしまう。
下手に凝った変装をするより、この方が目立たないし街に溶け込みやすい。
そうやってシルクは小さな街の中に入っていった。
小さな街の繁華街を歩くシルク。
軽く声をかけられたりもしたがこちらも軽く返して相手にせず、必要なものを買っていく。
ちゃんと毎月安定して給与が支給される仕事とはいいものだ。
はじめはそんな堅苦しく仕事をするのは性に合わないと思っていたが、基本的には規則正しく修行するのとあまり変わらず、皆で鍛錬し必要があれば先輩としてそれを教え、教え合う様子を見守り、各自が自己鍛錬に励む手伝いをすると言う、カイナの村で過ごしていたのとあまり変わらなかった。
主がちゃんと、自分に合った仕事を与えてくれたんだなぁと思う。
安定した収入があるから、昔のようになけなしの金でその日を食いつなぎつつ、明日はどうするかを考えながら買い物をしなくていい。
だからちょっとした贅沢だって出来てしまう。
干しぶどうと乾燥ナツメヤシをおやつ用に一袋ずつ買って、日陰の岩場に腰掛けて頬張った。
自然な甘さが口の中に広がる。
ここのところずっと師父にしごかれていたのだ。
ちょうどあの鬼畜な師匠もいない事だし、今日はそんな自分にご褒美をあげても良いはずだ。
シルクは上機嫌でそれらを食べ続けた。
「美味しいですか?」
ふと、誰かが隣の岩に腰掛けて言った。
絡まれるのは面倒だったので、シルクはそちらに顔を向けなかった。
変わらずドライフルーツを摘んでは頬張る。
「美味しいですよ。だから食べてるんですし。」
「それは失礼。あなたがそんな旨そうに、道端で乾燥果物を食べているとは思わなくて。」
そう言われ、シルクは顔を向けた。
言い方が自分を知っている感じだったからだ。
厄介な事にならないよう相手を確かめる。
「……あ!!」
「覚えていて頂けて嬉しいです。」
落ち着いた低い声でそう話す男の顔に、シルクは覚えがあった。
何となく嬉しくなって微笑んだ。
「国境軍の班長さん!!」
そう、そこにいたのはシルクが西の国を出る時に手を貸してくれた、国境警備軍の班長の男だった。
荒くれた感じはないが、脱ぐと色々凄いんですって人だったなぁと思い出し、少し笑ってしまった。
「今日は休暇ですか?」
「いや……実はあの後色々ありまして……退役しました。今はしがない無職の男ですよ。」
「ふ~ん。」
シルクは深く突っ込まずそう返事をした。
無骨で渋くていい男だ。
何があっても不思議はない。
そしてそれを知る必要はシルクにはない。
「……あなたはこちらにお戻りに?」
「ん~ん?向こうで同じ遊牧グループの人とばったり会ってさ。ちょっとお休みもらって、一緒に里帰りに行く途中なんです。」
「そうですか……。またあなたの踊りが見られるのかと思ったのですが、残念です。」
「ふふふっ、それはごめんなさい。」
シルクの方が里帰り休暇中と言われ、男は残念そうにそう言った。
おもむろに紙タバコを出し火をつける。
その姿が様になっていて目の保養になるなぁなんてシルクは思った。
男は静かに煙を燻らせる。
「お連れの方は?」
「野暮用。」
「では、今はお暇と言う事ですか?」
「そうと言えばそうかなぁ??」
「ふふっ、オフのあなたは、とても気さくなんですね。」
シルクの口調が以前あった時と違い砕けている事に、男はフッと笑った。
それを見つめながら、主は師父を大人の男ってイメージで見てたけど、俺的にはこの人みたいな方が大人の男って感じがするんだけどなぁと思った。
そしてそれに対して悪戯に微笑む。
「いつも踊り子って訳じゃないから。」
「では、踊り子でないのなら、食事にお誘いしても??」
そしてこの返しである。
シルクはニヤッと笑った。
「食事だけなら。」
これは大人の遊びだ。
その感覚がなかなか堪らない。
男は何も言わずに立ち上がり煙草の火を消した。
そしてすっとシルクに手を差し出す。
無骨なのにスマートなエスコートをしてくる様は、少し恋人に似ていた。
「ただし、先に言わせて下さい。」
「何でしょう?」
「私はこの国を出た後、他国で事実婚をしました。夜の夢は期待しないで下さい。」
シルクは立ち上がりはしたが、男の手を取らなかった。
そして事実をはっきりと告げる。
男はシルクの言葉に驚きを見せた後、とても残念そうに笑った。
「……あなたをこの国から出したのは失敗でした。」
「それでも私を食事に誘いますか??」
「ええ。もう見れぬ夢であっても、焦がれた夢には変わりない。せめてその夢の余韻を私に頂けますか??」
「納得しての事でしたら。」
その返事を聞いてから、シルクは男の手に手を添えた。
口では何とでも言える。
それはシルクも嫌と言うほど知っていた。
けれどこのハードボイルド感の漂う男が、そんな横車を押す様な真似をするとも思えなかった。
何故かと言えば、レオンハルドの次の目的地が街だったからだ。
いや、今までもレオンハルド自身はどこかの街なりに行っていたのだろうが、シルクはその近くの荒野に置いて行かれていた。
しかし今回は何故か町外れに安宿を取って、そこで待たされた。
はじめの数日は快適な空間で寝泊まりできる事が嬉しかったのだが、こんな所では派手に修行する事もできず、飽き飽きしてしまった。
「ヒマ~。ちょっと外、歩いて来ようかなぁ~。」
窓から外を眺め、そう呟く。
見える景色は生まれてから紆余曲折、ずっと生きてきたはずの西の国だ。
なのに今はこの国の方が異国に見える。
「変なの。」
帰りたいと言う思いが浮かんだ時、それはもう、この国ではない。
カイナの郷ですらない。
いや、カイナの郷も思い浮かびはするのだが、それより鮮明に浮かぶのは主の顔であり、半ば事実婚の恋人の腕の中であり、第三別宮警護部隊の鍛錬場なのだ。
「俺の家、あっちなんだなぁ……。」
中央王国に行ったのは主がいたからにすぎなかった。
場所なんてどうでも良かった。
主がいる所が自分のいるべき場所。
だからどこの国でもどんな場所でもどうでも良かったのだ。
だが今は違う。
帰ったら主の新しい家に自分の部屋がある。
まだ完成した部屋は見ていないが、帰れる場所があるのだ。
半ば伴侶の恋人のギルがそこに家具を全て揃えておいてくれると言っていた。
まだ見ぬ自分の為に存在する場所。
自分の為だけに存在する場所。
何があろうとそこにいる事を許された場所。
たとえどんなに遠くに行っても、ずっとそこに自分の居場所がある。
帰れる場所。
帰りたいなぁと思い出す場所。
それはもうこの西の国ではない。
それがなんだかおかしかった。
西の国で生まれ長く過ごしてきたシルクは、中央王国に行ったばかりの頃は、主の側以外、帰れる場所はなかった。
他に行くところはもうなかった。
だってカイナの郷はもうないのだから。
どんなに叫んでも、泣いても、カイナの郷はもうないのだ。
本当の自分を知っている人もいない。
誰もいない。
でも主がいる。
たった一人の一度の誓いの相手。
それで十分だった。
だって全てを捧げ、名と共に過去の全てを捨て、その人のものになったのだから。
それさえあれば何も要らなかった。
だが逆に言えばシルクには、主以外何一つ残されていなかったのだ。
主が全て。
この世の全て。
帰れる里もない。
自分を知る人もどこにもいない。
だから依存した。
そうと気づかず、主の存在に依存してしまった。
そしてその傍らを失う事を恐れた。
だって自分にはそれしか残されていなかったのだから。
離れれば気が狂いそうになった。
不安で押しつぶされた。
何より片腕にはしてくれたけれど、主は自分を選ばなかった。
その心の拠り所は別の人で、自分より先にすでに出会っていた。
でもきっと、出会う順番が逆でも主は自分を選ばなかっただろう。
それがわかるからこそ、自分が壊れそうになった。
いつも肝心な時に側にいさせてもらえない。
それが苦しくて悲しくて辛かった。
それはすでに主に従う従者の想いを逸脱していた。
呪いに飲まれて死にかけた主。
そしてそこに行くことが出来ない自分と、行けてしまうウィル。
無自覚にわかっていたそれを現実として突き付けられた時、正気を保てなかった。
無力で虚しくて生きていたくなかった。
でもそんな自分を抱きとめ、その全てを分かち合ってくれる人がいた。
同じ様に主に対して、言葉では表せない感情を最奥の更に奥の方に抱えている人。
何より互いを強く求め、心から愛する人。
これだけ強く主に依存し主従以上の感情を持っているのに、他に心から愛する人がいると言っても普通は信じられず眉を顰めるだろう。
だが、他人に何と思われようとそんな事はどうでも良いのだ。
何故ならシルクとその相手であるギルは、それすらも共有して深く深く繋がっているのだ。
おそらく二人の関係は、通常の良識の上では理解し難いだろう。
だがそんな事はどうでも良い。
二人には関係ない。
世界の誰にも理解できなくても、お互いが理解し共有しているのだから、他に何もいらないのだ。
それがシルクとギルの関係。
互いに唯一の相手、つがいという関係。
そこには何人たりとも、主ですら踏み入る事が出来ない。
はじめから堅く全ての絆が結合する事が決められた、唯一無二の片割れ。
彼がいたから、シルクは耐えられた。
苦しさも悲しさも絶望も、全て共有してくれるその人がいたから耐えられた。
自分の世界の全てである主に全てを受け入れて貰えず、一番大事な時に側に行く事さえ許されない絶望に耐えられた。
そして望んだ訳ではないが、自分は一人ではなかった。
カイナの郷は滅んだ。
自分一人だけが生き残ったはずだった。
もう、村の記憶を持っているのも自分一人だけだと思っていた。
だからあの暮らしが、カイナの村があった事すら本当の事なのか証明する術がなかった。
あれが本当だったのか、あれは自分の理想の夢に過ぎないのか、確かめる術はない。
だがもしも自分が忘れてしまったら、本当になくなってしまう気がして怖かった。
だがそれを証明するものが突然帰ってきた。
しかも自分の命を奪おうとする、容赦ない形で帰ってきた。
あの頃と同じ。
何一つ変わらない理不尽さが帰ってきた。
その血生臭いまでの現実が、より一層、真実味を持っていた。
あぁ、カイナだ。
カイナであり、演舞だ。
村の思い出で一番思い出したくなかった部分。
嬉しい気持ちと冗談じゃないと言う気持ちと、なんであえてこれ?!という想いがグチャ混ぜだった。
師父が生きていた。
村を守る為に西王国と取引し、自らを人身御供として差し出した師父が生きていた。
とっくに死んだと思っていたのに、村は滅んだのに、何故か一番はじめに犠牲になったはずの師父が生きていた。
その事についてシルクは何も聞かなかった。
顔に刻まれた皺の深さ、真っ白になった髪。
何より、昔の師父の強さがない。
確かに今でも勝つ事は出来ないが、自分を継承者候補として育てていた時の、狂気迫る武神の様な強さはない。
何があったか聞く必要はないだろう。
必要だと判断するか気が向けば、いずれ話してくれるだろうし。
ただ、中央王国でライオネル王子の執事長をしていたと言うのは絶対、嘘だと思っている。
あの師父にそんな事ができる訳がない。
目の前で執事のフリをする師父を見ても、シルクは信じなかった。
多分、脳の混乱が激しすぎて、理解する事を拒否したのだと思う。
主が目をキラキラさせて見つめるその人が、主の初恋の超絶ダンディなイケジジが、自分の師父である事を四億光年ぐらい譲って理解したとしても、「全てが完璧なダンディ執事さん」である事はシルクの全身全霊が拒絶反応を示し理解する事は不可能だった。
全てを共有し愛し愛される相手と、自分の過去と村の存在の証明でもある師父。
その二人の存在とその言葉で、シルクは自分が主に尋常ではない依存をしているのだとやっと理解した。
そしてそれが自分の弱さであり、主の片腕でありながら、その傍らに本当の意味で寄り添う事ができていない原因だと理解した。
だから一度離れる事を決めた。
自分から主の側を離れる事を決めた。
離れてみてわかった。
自分がどんなに主に必要とされ、信頼され、大切に愛されていたか。
その愛を混乱していた自分は見誤っていた。
恋人の様に愛される事だけが愛ではない。
家族として寄り添い合う事も、友人として時には言い合いそして笑い合う事も、師父のように常に自分に立ちはだかる強敵でいる事も、全て深く真実の愛の形なのだ。
何より主がくれた愛は信頼だった。
その命をなんの躊躇いもなく預け、そして覚悟を持って預かってくれる。
戦場で二人、背中合わせに躊躇いなく戦える。
その相手として選ばれたのだ。
こんな幸福な事が他にあるだろうか?
はじめからわかっていたのに、どうして忘れてしまったのだろう?
依存し、執着するあまり、見失っていた主の愛。
主はちゃんとそれを南の国で示してくれた。
地獄の門の前に二人で立ったのだ。
主はちゃんとそこに連れて行ってくれた。
そして、主は与えてくれた。
帰れる場所も、帰りたい場所も、全部くれた。
「……早く帰って、主に会いたいなぁ~。」
ふふふっと笑って呟く。
帰ったら、いっぱい困らせてやろう。
前と同じ様に、大好きって言って甘えて困らせてやろう。
そして以前とは違う自分を知ってもらおう。
そう思えたのも師父と、最愛の人のお陰だ。
そうしたいと言った自分を黙って送り出してくれた人。
離れていても一度繋がったつがいの絆は消えない。
ニ度目の南の国で発情期が来そうになった時は不安で仕方がなかったが、発情期は単なる生理現象にすぎない。
絆が消えた訳ではないのだ。
その証拠に発情期があんなに差し迫っていても気分が高揚するというより不安に苛まれ、行為ができれば誰でも良かった訳じゃない。
落ち着いてからそれを理解した。
自分のつがいはギルだけだと。
自分の主がサーク以外ありえないのと同じだ。
「そろそろ薬飲み始めようかなぁ。」
ギルと離れてからだいぶたった。
まだ予兆はないが、予兆が来たらまた不安になってしまう可能性がある。
頭で納得していてもうまく行かない事もある。
生命体としての生理現象ならなおさらだ。
主が言うには、発情期には女性の月のものの様にホルモン等のバランスが一時的に酷く狂う為、精神的にも肉体的にもアンバランスになるのではないかという事だ。
だからキチガイのように高揚したり、手がつけられないほど不安に苛まれたりするんじゃないかと。
正直、本当にあの時の不安は凄くて、もう二度とあんな面倒くさい不安に苛まれたくない。
どうにもできないものなら仕方がないが、薬という対処方法があるのだ。
予兆が来てすぐ薬を服用し始めたら、燻っているだけで結局、発情には至らなかった。
確かに起こりにくい状況だった事もあるとは思う。
だが感覚的な感想だが、つがいがいる場合、薬を飲めばほぼ完全に押さえ込めるんじゃないかと思えた。
つがいがいなかった時は薬を飲んでも発作的な発情は抑えられても、欲求不満みたいなものは残った。
でもギルと出会ってから起きたあの予兆の後、薬を服用していたら段々と自覚できるほど不安定さはなくなったし、欲求不満になる様な事もなかった。
ただその反動なのか久しぶりだったからなのか、ギルの存在を、その匂いをわずかでも確認出来た時にはタカが外れた様に抑えが効かなくなって、酷く熱く濃厚な一夜となったけれども。
第一、自分はもう他の誰かは受け入れられない。
気持ち的にも肉体的にも、考えただけでちょっと気持ち悪い。
今だってそうだし、発情期の予兆があった時だってそうだったのだ。
以前はあんなに許容範囲広く、金銭なら金銭、好みなら好みと言ったどこかの基準を満たせば、ほぼ誰でもウェルカムだったのに。
できなくはないが、やっぱりどこか気持ち悪い。
主に命じられればやるだろうし、主に必要だと思えばやるだろう。
そこのところはさほど抵抗はないが、昔のように何ともないというほすんなりいかない気がする。
誰か一人の腕の中に精神的にも肉体的にもストンと納まってしまうと、他のものではどうしてもどこか違和感や嫌悪感を覚えてしまうようだ。
それだけつがいという絆は深いし、自分はギルを愛しているのだろう。
「そんなの当たり前の事なのに、なんで俺、あの時あんなにネガティブに考えてたんだろ??起こんないと思ってた発情期が起こりそうになってびっくりしたってのもあるだろうけど、唯一の人なんだからそう簡単に絆が切れる訳ないのに。」
それだけ発情期の有無によって体内バランスが崩れてしまうという事だ。
普通に生活している分にはそこまで影響はないだろうが、自分は主の剣であり盾であり蔭なのだ。
主を持ったカイナの民としては、体調によって精神的・肉体的に波が出るというのはあまり良いことではない。
「始祖様は女性だったからそう言う崩れもあっただろうけど、どうしてたんだろう?」
自分には薬がある。
ある程度は抑えられる事がわかっている。
カバンから薬を取り出し口に放り込んだ。
始祖様が発情期があったという話は聞かないが、生体的にどうしようもないバランスの乱れがあった時、どうしていたのかは気になる。
水で流し込みながらそんな事を考えていた。
とは言え、このまま閉じ篭っていても仕方がない。
腹も減っているし、近くに鍛錬を出来そうな場所もあるかもしれない。
「そう言えばここって、前に主と踊り子ごっこをしていた時に来た国境の街に近いんだよなぁ~。」
別にその時自分の踊りを見た人に顔を見られたからと言って何かある訳ではないが、レオンハルドは密偵としてこの国に来ているのだ。
しかもこの辺りなら、あの時自分の踊りを見ていた者の殆どが軍人だ。
そう考えれば、おまけでくっついて歩いているだけとはいえ、あまり目立たぬ方がいいだろう。
そう思ってシルクは頭からすっぽり砂よけの薄手のストールを羽織った。
こうして顔を半分隠してしまうと、シルクは男性なのか女性なのかすらわかりにくくなってしまう。
下手に凝った変装をするより、この方が目立たないし街に溶け込みやすい。
そうやってシルクは小さな街の中に入っていった。
小さな街の繁華街を歩くシルク。
軽く声をかけられたりもしたがこちらも軽く返して相手にせず、必要なものを買っていく。
ちゃんと毎月安定して給与が支給される仕事とはいいものだ。
はじめはそんな堅苦しく仕事をするのは性に合わないと思っていたが、基本的には規則正しく修行するのとあまり変わらず、皆で鍛錬し必要があれば先輩としてそれを教え、教え合う様子を見守り、各自が自己鍛錬に励む手伝いをすると言う、カイナの村で過ごしていたのとあまり変わらなかった。
主がちゃんと、自分に合った仕事を与えてくれたんだなぁと思う。
安定した収入があるから、昔のようになけなしの金でその日を食いつなぎつつ、明日はどうするかを考えながら買い物をしなくていい。
だからちょっとした贅沢だって出来てしまう。
干しぶどうと乾燥ナツメヤシをおやつ用に一袋ずつ買って、日陰の岩場に腰掛けて頬張った。
自然な甘さが口の中に広がる。
ここのところずっと師父にしごかれていたのだ。
ちょうどあの鬼畜な師匠もいない事だし、今日はそんな自分にご褒美をあげても良いはずだ。
シルクは上機嫌でそれらを食べ続けた。
「美味しいですか?」
ふと、誰かが隣の岩に腰掛けて言った。
絡まれるのは面倒だったので、シルクはそちらに顔を向けなかった。
変わらずドライフルーツを摘んでは頬張る。
「美味しいですよ。だから食べてるんですし。」
「それは失礼。あなたがそんな旨そうに、道端で乾燥果物を食べているとは思わなくて。」
そう言われ、シルクは顔を向けた。
言い方が自分を知っている感じだったからだ。
厄介な事にならないよう相手を確かめる。
「……あ!!」
「覚えていて頂けて嬉しいです。」
落ち着いた低い声でそう話す男の顔に、シルクは覚えがあった。
何となく嬉しくなって微笑んだ。
「国境軍の班長さん!!」
そう、そこにいたのはシルクが西の国を出る時に手を貸してくれた、国境警備軍の班長の男だった。
荒くれた感じはないが、脱ぐと色々凄いんですって人だったなぁと思い出し、少し笑ってしまった。
「今日は休暇ですか?」
「いや……実はあの後色々ありまして……退役しました。今はしがない無職の男ですよ。」
「ふ~ん。」
シルクは深く突っ込まずそう返事をした。
無骨で渋くていい男だ。
何があっても不思議はない。
そしてそれを知る必要はシルクにはない。
「……あなたはこちらにお戻りに?」
「ん~ん?向こうで同じ遊牧グループの人とばったり会ってさ。ちょっとお休みもらって、一緒に里帰りに行く途中なんです。」
「そうですか……。またあなたの踊りが見られるのかと思ったのですが、残念です。」
「ふふふっ、それはごめんなさい。」
シルクの方が里帰り休暇中と言われ、男は残念そうにそう言った。
おもむろに紙タバコを出し火をつける。
その姿が様になっていて目の保養になるなぁなんてシルクは思った。
男は静かに煙を燻らせる。
「お連れの方は?」
「野暮用。」
「では、今はお暇と言う事ですか?」
「そうと言えばそうかなぁ??」
「ふふっ、オフのあなたは、とても気さくなんですね。」
シルクの口調が以前あった時と違い砕けている事に、男はフッと笑った。
それを見つめながら、主は師父を大人の男ってイメージで見てたけど、俺的にはこの人みたいな方が大人の男って感じがするんだけどなぁと思った。
そしてそれに対して悪戯に微笑む。
「いつも踊り子って訳じゃないから。」
「では、踊り子でないのなら、食事にお誘いしても??」
そしてこの返しである。
シルクはニヤッと笑った。
「食事だけなら。」
これは大人の遊びだ。
その感覚がなかなか堪らない。
男は何も言わずに立ち上がり煙草の火を消した。
そしてすっとシルクに手を差し出す。
無骨なのにスマートなエスコートをしてくる様は、少し恋人に似ていた。
「ただし、先に言わせて下さい。」
「何でしょう?」
「私はこの国を出た後、他国で事実婚をしました。夜の夢は期待しないで下さい。」
シルクは立ち上がりはしたが、男の手を取らなかった。
そして事実をはっきりと告げる。
男はシルクの言葉に驚きを見せた後、とても残念そうに笑った。
「……あなたをこの国から出したのは失敗でした。」
「それでも私を食事に誘いますか??」
「ええ。もう見れぬ夢であっても、焦がれた夢には変わりない。せめてその夢の余韻を私に頂けますか??」
「納得しての事でしたら。」
その返事を聞いてから、シルクは男の手に手を添えた。
口では何とでも言える。
それはシルクも嫌と言うほど知っていた。
けれどこのハードボイルド感の漂う男が、そんな横車を押す様な真似をするとも思えなかった。
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