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第九章「海神編」
闇の入り口 ☆
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真っ暗な部屋の中に落ちる沈黙。
そこにじわじわと満ちていく絶望。
「……サーク。」
「…………………………。」
「お前……。」
「……黙れ。」
「…………。」
冷静に話さなければならないとわかっていても、サークの口から出るのはそんな言葉だった。
言葉のトーンからギルが困惑しているのがわかる。
そりゃそうだ。
俺が勃たないのは半ば常識ぐらいの勢いで皆知ってる。
実際、この状況でも勃ってる訳じゃない。
だからもちろん、射精なんかしてない。
それにはギル自身も気づいていると思う。
だからこそ困惑しているのだ。
不感症のはずの俺の今の状態に。
普通と違えど、イッたような状態になる事を知っているのは当然ウィルだけだ。
だからそう見えるけれど相変わらず勃ってもいない俺の様子に戸惑っているのだろう。
「……何でだ……。」
「サーク……。」
「ファルシュの誘惑には応えないって言ったよな?!」
「………………すまない……。」
「……………………。」
わかってる。
これはミチルが仕出かした事。
だから冷静に話さなければならない。
でも、そんなものどうでもいいほど沸々と湧き上がってくる怒りを抑えるので精一杯だった。
本当はわかってる。
ミチルの時の記憶があるからわかっている。
あのまま拒み続ければ、ミチルは自らギルに痴態を曝し、見せつけただろう。
それをさせない為にギルは誘いに応じた。
いや、応じたフリをした。
パジャマの上ははだけていたがそれだけだ。
完全に全てを脱がされた訳でもない。
また、下半身を、陰部を弄られた訳でもない。
口腔内を指で犯したのは、ギルなりの苦肉の策だったのだろう。
そのぐらいはしなければミチルを納得させられなかった。
わかってる。
わかってはいるが、こみ上げる怒りと嫌悪を止める事ができない。
許せない。
どうしても許せない。
ウィル以外の相手で自分が達してしまった事実が許せない。
ギルが悪い訳じゃない。
わかってる。
ギルはできる限りの事をしてくれた。
わかってる。
「…………それでも……それでも許せないんだよ……っ!!」
わかってる。
これは八つ当たりだ。
それでもどこかに怒りをぶつけなければ、気が狂いそうだった。
わかってる。
これは不運が重なった事故みたいなもんだ。
ギルは俺が不感症だから、こういう事にはならないと考えていたのだろう。
けれど俺は、ウィルと愛を交わす事で正常な形ではないが達する事ができるようになっていた。
これがもし少し前だったら話は変わっていた。
多分、達せない俺が正気に返った時点でギルをぶん殴って終わっていたはずだ。
何で……何で今なんだよ……何で……っ!!
ずっと思っていた。
どんな形であれ、欠けた本能がこの体に戻ればいいと。
でも……。
「俺は……俺は……っ!!こんな事の為に取り戻したかったんじゃない……っ!!」
思い知らされた。
本能は、生物の持つ基礎欲求は個体の意思よりも強い。
生命が生きる為に備わったそれは、意思よりも優先される。
俺の意志なんて関係なく性欲は快楽を求めるのだ。
ウィルと快楽を分かち合える事がとても幸せだった。
けれどこれは生命の基礎欲求なのだ。
意志より強い本能なのだ。
刺激に対して起こる生理現象であり相手は関係ない。
「……何で……何でだよ……。」
こんな事ならないままでよかった。
なくてもウィルは俺を受け入れ、愛してくれたのだから。
「…………すまない……。」
ギルは俯いて動かないサークを見つめていた。
また、サークの信頼を裏切って傷付けた。
その事が自分の血を黒く染めているように思えた。
もう、サークは自分を見る事はない。
激しく求める想いは真っ黒く塗りつぶされ絶望に変わった。
「…………っ。」
だが何より忌まわしいのは、自分の中にマグマのように滾るどす黒い欲望だ。
こんなにも打ちひしがれるサークを見つめながらも、どこか高揚した思いがあった。
意味がわからないほど焦がれ、手に入らないとわかりながら求め続けた黒い欲望。
あの日と同じく、それはサークの精神を引き裂き、精神をどす黒く乱暴に塗りつぶした。
自分が……自分がサークを底のない絶望に貶めた。
まとわりつくような闇の中に貶めた。
その事が身を引き裂かれるほど辛く、そして同時に、表現しようのないほどの恍惚感を与えた。
自分がサークから希望を奪い、暗い闇の中に突き落とした。
可哀想なサーク。
あの日のようにまた、自分の与えた闇にまとわりつかれ、きっと長く苦しむだろう。
その事が辛く、許されるなら泣いて詫たいのに、どこかで声高らかに笑ってやりたいとも思った。
ズクン……ッと身体の奥が激しく疼く。
俯くサークの身体はまだ、どこか微かな熱と快楽の余韻を纏っている。
力の入らない腕はわずかに震え、肌はしっとりと濡れ、赤らんだ皮膚が情事の色香を放っていた。
腹の奥の方で蠢く闇。
それは醜くドス黒く、ねっとりとマグマの様に焼き爛れ粘っこい。
ああ、これか……。
その時になってやっとギルは理解した。
『どんなに否定しても、それがギルの愛だよ。』
ファルシュはそう言った。
全てを見透かすように。
サークを愛している。
でもそれは、残忍で貪欲で傲慢な支配欲に似ていた。
引き裂いて欲望のまま滅茶苦茶に精神を犯し、逃れられない闇に突き落とす。
自分の与えた闇に苦しむ様を愛おしいと欲情する。
そしてまた犯して引き裂く。
最悪だ。
何て最低な愛だろう?
けれどそれでも、本能は打ちひしがれるサークに欲情していた。
「………………すまない……。」
ギルはその場を離れ、足早にバスルームに入った。
聞こえ始めるシャワーの音。
「……………………。」
サークは何も言わなかった。
ギルは悪くないとわかっていながら、どうしても許せないと怒りに心が泣き叫んでいた。
明かりのない暗い部屋に響く水音。
頭を冷やしているのか、もしくはそういう事か。
どちらでもいい、自分には関係のない事だとサークは思った。
緩慢な動きで立ち上がり、水差しの水で口を濯ぎ吐き捨てる。
ファルシュ……ミチルは流石にマズイと思っているのか、奥の方に引っ込んで隠れている。
引きずり出して引き裂いてやりたかった。
海神と混ざらない為の境である事などどうでもいい。
この怒りをミチルにも理解させなければ気が済まない。
だが、ミチルは出てこない。
いつもなら翻弄されるサークを無邪気に笑って眺めているのに、今はその存在すら掴めなかった。
「……クソッ!!」
ダンッと壁を叩く。
もう湖は目前だというのに、何故こうなった?!
暗い部屋の中、苦痛に顔を歪め俯いていたサークは顔を上げた。
部屋にあふれる闇を遺恨を込めて睨む。
もう一刻の猶予もないのだと奥歯を噛んだ。
頭から水を浴びる。
この醜くドス黒い熱を抑えたかった。
だがいくら冷水を浴び続けてもそれは治まらなかった。
生々しく手に残る感触。
艶めかしい声。
濡れた肌。
跳ねる身体。
何より、達したであろうその姿を見てしまったのだ。
「…………サーク……ッ!!」
ダンッと弱々しく浴室の壁を叩く。
抑えきれなかった。
サークは勃っていなかった。
精も潮も放っていない。
けれどあれは確かに快楽に果てていた。
理屈はわからない。
その様子が生々しく頭に浮かぶ。
堪えきれず上がった奇声。
硬直に仰け反る身体は、突き抜けた激しい快楽に少しの間痙攣していた。
「……あぁ……っ……サーク……ッ。」
強烈に脳裏に焼き付いた姿。
肉欲的な痴態をギルは恐らく一生忘れないだろう。
水を浴びながら、ギルの手は滾る欲望に触れた。
すでにドロリとした熱を垂れ流し、赤黒く腫れ上がったそれは、欲情の吐き出し先を求めビクビクと脈打っている。
「…………ッ!…………ッッ!!」
指に感じていた口腔。
弄ればダラダラといやらしく唾液に濡れ、舌と内壁が熱くうねる。
鼻にかかる甘い吐息。
堪えきれず口から漏れる喘ぎ。
鮮明に思い出せるそこに、指ではなく猛る欲望をねじ込む事を想像する。
きっと嫌がって抵抗するだろう。
それを無理やり押さえ込んで己の雄で犯す。
「……あぁ……いい……。」
にや……と広角が上がる。
普段、無表情と言われるその顔が身勝手な欲望に歪む。
嫌がる中、あの熱く濡れた穴に無理矢理肉棒をねじ込む。
アイツはきっと眼だけは屈せず睨みつけてくるだろう。
ぞくぞくした。
それを有無を言わさず激しく犯し、奥までねじ込む事を想像する。
大きすぎる竿に抵抗できず、睨む眼光も長くは持たないだろう。
やがて翻弄され涙を流す。
息苦しさにもがく頭を無理やり押さえつけ、思うがまま腰を打ち付ける。
舌の感触を楽しみ、そして喉奥の狭さを堪能する。
嘔吐くかもしれない。
しかし構うものか。
この大竿が入り込める最奥まで、吐こうが何をしようが有無を言わさずねじ込んで……そして…………。
「…………ッ~~ッッ!!」
白濁が弾ける。
最奥にたっぷり流し込む事を思い描いて放ったそれは、冷水を浴びて排水口に吸い込まれていく。
「…………………………。」
それをぼんやりと眺めていた。
欲望を解き放った事で熱も治まり、冷たい水に頭が冷えていく。
ろくでもない……。
自分自身の醜悪さに嫌気が差す。
こんな卑怯で醜い想いが愛だという事に愕然とした。
けれどもう、それを否定できない。
これだけの事をしておきながら、サークがあれだけ打ちのめされているのを目の当たりにしながら、自分は欲情した。
「…………避けられて当然だ……こんな醜悪な想いを寄せられたって……応えられる訳がない……。」
欲望が治まった事で激しい自己嫌悪を感じた。
何故、意識がサークに変わった事に気づいた時、行為をやめなかったのだろう……。
ファルシュの時は何が楽しいのかアイツは笑っていて、切り替わり始めたのか次第に静かになった。
微睡んだ時間。
刺激に対して抵抗がなく純粋に反応が返る。
そして……急にビクッと体が硬直した。
体が強ばり、弱くはあったが抵抗された。
だから気づいた。
サークが戻ってきたのだと……。
だが、ギルは行為をやめなかった。
擬似的な性行為であってもその体に触れ、悩ましい吐息をもう少し聞いていたかった。
どうせどれだけ愛撫したとしても、サークは不感症なのだから大丈夫だと思ってしまった。
もう少し……もう少しだけ……。
抵抗に対し「ファルシュ」と呼び掛ければ、サークは戸惑いながらも「違う」と名乗らなかった。
演技なのか艶めかしい様子が行為に拍車をかけ、本気で抵抗し始めてもやめる事ができなかった。
もっと追い詰めたい。
演技でもいい、もっとこの痴態を自分に晒して欲しい。
段々と後戻りできなくなり、それに溺れた。
だがまさか、サークが達する事ができるとは思ってもいなかった。
それを見た時、激しく後悔した。
取り返しのつかない事をしたのだと気づいた。
切り替わった時、すぐにやめていればこんなにもこじれる事はなかったというのに。
けれど……。
頭のどこかで後悔していないと思っている自分がいる。
快楽に果てるさまを見れたのだから……。
ギルはシャワーを止めた。
全身が冷え切っていた。
タオルを頭から被り、バスローブを羽織って浴室を出る。
どんな顔をすればいい?
どんな顔をしている?
そう思いながら戻った客室は、シンッと静まり返っていた。
「…………サーク……?」
部屋に籠ったのだろう。
そう思ったのだが、何かがおかしかった。
胸騒ぎを覚え、サークの部屋のドアノブをひねった。
「!!」
サークは部屋にいなかった。
荷物も何もない。
その意味を瞬時に理解し、ギルは奥歯を噛み締めた。
そこにじわじわと満ちていく絶望。
「……サーク。」
「…………………………。」
「お前……。」
「……黙れ。」
「…………。」
冷静に話さなければならないとわかっていても、サークの口から出るのはそんな言葉だった。
言葉のトーンからギルが困惑しているのがわかる。
そりゃそうだ。
俺が勃たないのは半ば常識ぐらいの勢いで皆知ってる。
実際、この状況でも勃ってる訳じゃない。
だからもちろん、射精なんかしてない。
それにはギル自身も気づいていると思う。
だからこそ困惑しているのだ。
不感症のはずの俺の今の状態に。
普通と違えど、イッたような状態になる事を知っているのは当然ウィルだけだ。
だからそう見えるけれど相変わらず勃ってもいない俺の様子に戸惑っているのだろう。
「……何でだ……。」
「サーク……。」
「ファルシュの誘惑には応えないって言ったよな?!」
「………………すまない……。」
「……………………。」
わかってる。
これはミチルが仕出かした事。
だから冷静に話さなければならない。
でも、そんなものどうでもいいほど沸々と湧き上がってくる怒りを抑えるので精一杯だった。
本当はわかってる。
ミチルの時の記憶があるからわかっている。
あのまま拒み続ければ、ミチルは自らギルに痴態を曝し、見せつけただろう。
それをさせない為にギルは誘いに応じた。
いや、応じたフリをした。
パジャマの上ははだけていたがそれだけだ。
完全に全てを脱がされた訳でもない。
また、下半身を、陰部を弄られた訳でもない。
口腔内を指で犯したのは、ギルなりの苦肉の策だったのだろう。
そのぐらいはしなければミチルを納得させられなかった。
わかってる。
わかってはいるが、こみ上げる怒りと嫌悪を止める事ができない。
許せない。
どうしても許せない。
ウィル以外の相手で自分が達してしまった事実が許せない。
ギルが悪い訳じゃない。
わかってる。
ギルはできる限りの事をしてくれた。
わかってる。
「…………それでも……それでも許せないんだよ……っ!!」
わかってる。
これは八つ当たりだ。
それでもどこかに怒りをぶつけなければ、気が狂いそうだった。
わかってる。
これは不運が重なった事故みたいなもんだ。
ギルは俺が不感症だから、こういう事にはならないと考えていたのだろう。
けれど俺は、ウィルと愛を交わす事で正常な形ではないが達する事ができるようになっていた。
これがもし少し前だったら話は変わっていた。
多分、達せない俺が正気に返った時点でギルをぶん殴って終わっていたはずだ。
何で……何で今なんだよ……何で……っ!!
ずっと思っていた。
どんな形であれ、欠けた本能がこの体に戻ればいいと。
でも……。
「俺は……俺は……っ!!こんな事の為に取り戻したかったんじゃない……っ!!」
思い知らされた。
本能は、生物の持つ基礎欲求は個体の意思よりも強い。
生命が生きる為に備わったそれは、意思よりも優先される。
俺の意志なんて関係なく性欲は快楽を求めるのだ。
ウィルと快楽を分かち合える事がとても幸せだった。
けれどこれは生命の基礎欲求なのだ。
意志より強い本能なのだ。
刺激に対して起こる生理現象であり相手は関係ない。
「……何で……何でだよ……。」
こんな事ならないままでよかった。
なくてもウィルは俺を受け入れ、愛してくれたのだから。
「…………すまない……。」
ギルは俯いて動かないサークを見つめていた。
また、サークの信頼を裏切って傷付けた。
その事が自分の血を黒く染めているように思えた。
もう、サークは自分を見る事はない。
激しく求める想いは真っ黒く塗りつぶされ絶望に変わった。
「…………っ。」
だが何より忌まわしいのは、自分の中にマグマのように滾るどす黒い欲望だ。
こんなにも打ちひしがれるサークを見つめながらも、どこか高揚した思いがあった。
意味がわからないほど焦がれ、手に入らないとわかりながら求め続けた黒い欲望。
あの日と同じく、それはサークの精神を引き裂き、精神をどす黒く乱暴に塗りつぶした。
自分が……自分がサークを底のない絶望に貶めた。
まとわりつくような闇の中に貶めた。
その事が身を引き裂かれるほど辛く、そして同時に、表現しようのないほどの恍惚感を与えた。
自分がサークから希望を奪い、暗い闇の中に突き落とした。
可哀想なサーク。
あの日のようにまた、自分の与えた闇にまとわりつかれ、きっと長く苦しむだろう。
その事が辛く、許されるなら泣いて詫たいのに、どこかで声高らかに笑ってやりたいとも思った。
ズクン……ッと身体の奥が激しく疼く。
俯くサークの身体はまだ、どこか微かな熱と快楽の余韻を纏っている。
力の入らない腕はわずかに震え、肌はしっとりと濡れ、赤らんだ皮膚が情事の色香を放っていた。
腹の奥の方で蠢く闇。
それは醜くドス黒く、ねっとりとマグマの様に焼き爛れ粘っこい。
ああ、これか……。
その時になってやっとギルは理解した。
『どんなに否定しても、それがギルの愛だよ。』
ファルシュはそう言った。
全てを見透かすように。
サークを愛している。
でもそれは、残忍で貪欲で傲慢な支配欲に似ていた。
引き裂いて欲望のまま滅茶苦茶に精神を犯し、逃れられない闇に突き落とす。
自分の与えた闇に苦しむ様を愛おしいと欲情する。
そしてまた犯して引き裂く。
最悪だ。
何て最低な愛だろう?
けれどそれでも、本能は打ちひしがれるサークに欲情していた。
「………………すまない……。」
ギルはその場を離れ、足早にバスルームに入った。
聞こえ始めるシャワーの音。
「……………………。」
サークは何も言わなかった。
ギルは悪くないとわかっていながら、どうしても許せないと怒りに心が泣き叫んでいた。
明かりのない暗い部屋に響く水音。
頭を冷やしているのか、もしくはそういう事か。
どちらでもいい、自分には関係のない事だとサークは思った。
緩慢な動きで立ち上がり、水差しの水で口を濯ぎ吐き捨てる。
ファルシュ……ミチルは流石にマズイと思っているのか、奥の方に引っ込んで隠れている。
引きずり出して引き裂いてやりたかった。
海神と混ざらない為の境である事などどうでもいい。
この怒りをミチルにも理解させなければ気が済まない。
だが、ミチルは出てこない。
いつもなら翻弄されるサークを無邪気に笑って眺めているのに、今はその存在すら掴めなかった。
「……クソッ!!」
ダンッと壁を叩く。
もう湖は目前だというのに、何故こうなった?!
暗い部屋の中、苦痛に顔を歪め俯いていたサークは顔を上げた。
部屋にあふれる闇を遺恨を込めて睨む。
もう一刻の猶予もないのだと奥歯を噛んだ。
頭から水を浴びる。
この醜くドス黒い熱を抑えたかった。
だがいくら冷水を浴び続けてもそれは治まらなかった。
生々しく手に残る感触。
艶めかしい声。
濡れた肌。
跳ねる身体。
何より、達したであろうその姿を見てしまったのだ。
「…………サーク……ッ!!」
ダンッと弱々しく浴室の壁を叩く。
抑えきれなかった。
サークは勃っていなかった。
精も潮も放っていない。
けれどあれは確かに快楽に果てていた。
理屈はわからない。
その様子が生々しく頭に浮かぶ。
堪えきれず上がった奇声。
硬直に仰け反る身体は、突き抜けた激しい快楽に少しの間痙攣していた。
「……あぁ……っ……サーク……ッ。」
強烈に脳裏に焼き付いた姿。
肉欲的な痴態をギルは恐らく一生忘れないだろう。
水を浴びながら、ギルの手は滾る欲望に触れた。
すでにドロリとした熱を垂れ流し、赤黒く腫れ上がったそれは、欲情の吐き出し先を求めビクビクと脈打っている。
「…………ッ!…………ッッ!!」
指に感じていた口腔。
弄ればダラダラといやらしく唾液に濡れ、舌と内壁が熱くうねる。
鼻にかかる甘い吐息。
堪えきれず口から漏れる喘ぎ。
鮮明に思い出せるそこに、指ではなく猛る欲望をねじ込む事を想像する。
きっと嫌がって抵抗するだろう。
それを無理やり押さえ込んで己の雄で犯す。
「……あぁ……いい……。」
にや……と広角が上がる。
普段、無表情と言われるその顔が身勝手な欲望に歪む。
嫌がる中、あの熱く濡れた穴に無理矢理肉棒をねじ込む。
アイツはきっと眼だけは屈せず睨みつけてくるだろう。
ぞくぞくした。
それを有無を言わさず激しく犯し、奥までねじ込む事を想像する。
大きすぎる竿に抵抗できず、睨む眼光も長くは持たないだろう。
やがて翻弄され涙を流す。
息苦しさにもがく頭を無理やり押さえつけ、思うがまま腰を打ち付ける。
舌の感触を楽しみ、そして喉奥の狭さを堪能する。
嘔吐くかもしれない。
しかし構うものか。
この大竿が入り込める最奥まで、吐こうが何をしようが有無を言わさずねじ込んで……そして…………。
「…………ッ~~ッッ!!」
白濁が弾ける。
最奥にたっぷり流し込む事を思い描いて放ったそれは、冷水を浴びて排水口に吸い込まれていく。
「…………………………。」
それをぼんやりと眺めていた。
欲望を解き放った事で熱も治まり、冷たい水に頭が冷えていく。
ろくでもない……。
自分自身の醜悪さに嫌気が差す。
こんな卑怯で醜い想いが愛だという事に愕然とした。
けれどもう、それを否定できない。
これだけの事をしておきながら、サークがあれだけ打ちのめされているのを目の当たりにしながら、自分は欲情した。
「…………避けられて当然だ……こんな醜悪な想いを寄せられたって……応えられる訳がない……。」
欲望が治まった事で激しい自己嫌悪を感じた。
何故、意識がサークに変わった事に気づいた時、行為をやめなかったのだろう……。
ファルシュの時は何が楽しいのかアイツは笑っていて、切り替わり始めたのか次第に静かになった。
微睡んだ時間。
刺激に対して抵抗がなく純粋に反応が返る。
そして……急にビクッと体が硬直した。
体が強ばり、弱くはあったが抵抗された。
だから気づいた。
サークが戻ってきたのだと……。
だが、ギルは行為をやめなかった。
擬似的な性行為であってもその体に触れ、悩ましい吐息をもう少し聞いていたかった。
どうせどれだけ愛撫したとしても、サークは不感症なのだから大丈夫だと思ってしまった。
もう少し……もう少しだけ……。
抵抗に対し「ファルシュ」と呼び掛ければ、サークは戸惑いながらも「違う」と名乗らなかった。
演技なのか艶めかしい様子が行為に拍車をかけ、本気で抵抗し始めてもやめる事ができなかった。
もっと追い詰めたい。
演技でもいい、もっとこの痴態を自分に晒して欲しい。
段々と後戻りできなくなり、それに溺れた。
だがまさか、サークが達する事ができるとは思ってもいなかった。
それを見た時、激しく後悔した。
取り返しのつかない事をしたのだと気づいた。
切り替わった時、すぐにやめていればこんなにもこじれる事はなかったというのに。
けれど……。
頭のどこかで後悔していないと思っている自分がいる。
快楽に果てるさまを見れたのだから……。
ギルはシャワーを止めた。
全身が冷え切っていた。
タオルを頭から被り、バスローブを羽織って浴室を出る。
どんな顔をすればいい?
どんな顔をしている?
そう思いながら戻った客室は、シンッと静まり返っていた。
「…………サーク……?」
部屋に籠ったのだろう。
そう思ったのだが、何かがおかしかった。
胸騒ぎを覚え、サークの部屋のドアノブをひねった。
「!!」
サークは部屋にいなかった。
荷物も何もない。
その意味を瞬時に理解し、ギルは奥歯を噛み締めた。
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