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第五章「さすらい編」
出会いと別れ
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「本当にいいんですか?」
ギルドに戻った俺は、少し戸惑いながら聞いた。
ヒースさんがマダムに預かり終了を告げたのだ。
俺は中級冒険者の資格をもらった。
「当たり前だ。マンドレイクをひとりで倒せるヤツを見習い扱いは出来ない。」
「でも……。」
「それよりも、サーク。このままうちのパーティーに入らないか?お前に何か事情があるのはわかってる。力不足かもしれないが、一緒に行ってやるから。どうだ?」
ヒースさんが言った。
レダさんもトムさんも、笑ってくれた。
頼もしく、温かく俺を支えてくれた先輩冒険者達。
俺は答えた。
「すみません。ひとりでやらないといけない事なんです……。」
本当ははいと答えたかった。
皆のパーティーの仲間として歩けたら、どんなに心強いだろう?
だがそれは出来ない。
「俺は今回、相棒も置いてきました。ひとりでやると決めたんです。」
俺は真っ直ぐに答えた。
迷いはなかった。
ヒースさんはどこかわかっていたようだった。
「そうか……残念だ。」
「サーク……。パーティーに入らないのは残念だけど、私達はずっと仲間よ?何かあったら頼ってね?」
「ありがとうございます。レダさん。」
レダさんが笑ってそういった。
両手を広げてくれて俺たちはハグした。
たくさん教えてくれてありがとうございました。
心からそう思った。
「サーク、ちょっといいか?」
少し離れた所にいたトムさんがやって来てそう言った。
手招きされてついていくと、始めに戦った裏庭の片隅のベンチにトムさんが座った。
俺も隣に腰をおろす。
トムさんは静かに言った。
「俺には、お前が何を抱えてるかはわからん。だが、先輩として一言言いたい。」
「はい。」
「無茶と無謀は違う。今回、お前がしたのは無謀だ。取り返しがつかなくなるヤツだ。」
「はい。」
「お前の中の無力感と焦りがそうさせたんだろうが、それは間違いだ。やったら駄目な事だ。取り返しがつかなくなったら、お前が成さなければならないことは、永遠に成すことができなくなる。」
「はい。」
「事を成すには時間がかかる。その間、数えきれないほどの無力感と焦りがお前を襲うだろう。だが、足掻くことから逃げては駄目だ。お前がそれを成そうと思うなら、なおさらな。」
「はい。」
「ひとりで何でも抱え込むな。人間なんてちっぽけなもんだ。その小さな手に抱えられるもんは、そんなに多くない。」
「はい。」
「まわりを見ろ。お前には頼りないかもしれないが、お前に手を差しのべている人間がいることを忘れるな。いつだって、お前が求めれば、その手は応えてくれるから。」
「……はい。」
トムさんの飾らない言葉が、ささくれた胸に響いた。
俺は胸に詰まっていた重さが急に外れてしまって、止めどなく涙を流した。
馬鹿みたいに泣く俺を、トムさんは何も言わず、大きな手で頭を撫でてくれた。
俺はヒースさん達と別れて、東に向けて旅立つ事にした。
ヒースさんがリスちゃんがリスちゃんが……と呟いていたが全力で無視した。
「お世話になりました。マダム。」
「全く。いい男はすぐにいなくなるから嫌いだよ。持ってきな。」
マダムはそう言って、昼飯を包んで渡してくれた。
マダムとはここで会っただけなのに、昔から面倒を見てもらっているような気分だった。
「ありがとうございます。マダム。」
「何か聞きたいことがあるんじゃないかい?サーク?」
意味ありげな目がじろりと俺を見る。
最初から最後まで、マダムは何でもお見通しなようだ。
俺は苦笑してしまった。
「……竜の谷について、何か情報はありませんか?」
マダムはちらりと俺を見て、タバコをふかした。
白い煙がふわっと漂う。
「ずいぶんメルヘンな事を聞くね?おとぎ話が好きなのかい?」
「ええ、王子様はお姫様を助けに行かないと。」
「王子ね~。」
マダムはそう言ってククッと笑った。
「行ったって話はないよ。どこにあるともしれない、童話の中の存在さ。だが北の方で最近、竜が飛んでいるのを見たって噂が立ったよ。何人かの冒険者が探しに行ったが、誰も見つけなかったし、噂がどこから出たのかも調べられなかった。眉唾だね。」
「……そうですか。ありがとうございます。」
「ま、何かまたおとぎ話を聞いたら、覚えておいてやるよ。童話好きのあんたが聞きに来たとき、話せるようにね。」
「ありがとうございます。マダム。」
俺は笑った。
そして深く頭を下げた。
俺がギルドを出ると、ヒースさん達が商人の馬車と話していた。
レダさんが手招きをする。
「あ!サーク!こっち!!」
「どうしたんですか?」
「この人、東方面の次の町まで行くって!警護を兼ねて乗せてもらえるよう話をつけたから!乗って!!」
レダさんが笑顔で言った。
先輩達は別れる俺の事を最後まで面倒を見てくれた。
その優しさに鼻の奥がツンとした。
「何から何までありがとうございます。」
「いいのよ。また会いましょう、サーク!」
「はい。」
「気をつけろよ?元気でな。」
「はい。トムさんもお元気で。ありがとうございました。」
「リスちゃん……。」
「俺はリスじゃねぇ!じゃあな!」
とりあえずヒースさんは放っておこう。
3人と別れの挨拶を済ませ、俺は商人さんに挨拶をして馬車に乗った。
「いいかい?出して?」
「はい。よろしくお願いします。」
馬車が動き出す。
数日しかいなかったはずなのに、この町を去るのがとても寂しかった。
いい出会いをしたのだ。
そう思った。
「サーク!元気でね~!!」
レダさんが叫んでいる。
トムさんとヒースさんが手を振ってる。
俺は後ろに身を乗り出して手を振り、叫び返した。
「ありがとうございました!!俺!預かってくれたのが!皆さんで良かったです!本当にありがとうございました~!!」
俺の旅の、一番始めの出会いと別れだった。
わかったこと
・マンドレイクはでかい
・見つけるには火で炙ってから探査する
・いきなり触るとヤバい
・叫ぶので言葉を封じる
・仲間を呼ぶので注意
・再生能力がある
・植物系の魔物は火に弱いが使い方を考える必要がある
・ギルドでも竜の谷はおとぎ話
・北で竜の噂があったらしい(血の呪いの竜か?)
・パーティーでの戦闘は思ったよりいい
・無茶と無謀は違う
・ひとりで何でも抱え込まないこと
・俺はリスじゃない
ギルドに戻った俺は、少し戸惑いながら聞いた。
ヒースさんがマダムに預かり終了を告げたのだ。
俺は中級冒険者の資格をもらった。
「当たり前だ。マンドレイクをひとりで倒せるヤツを見習い扱いは出来ない。」
「でも……。」
「それよりも、サーク。このままうちのパーティーに入らないか?お前に何か事情があるのはわかってる。力不足かもしれないが、一緒に行ってやるから。どうだ?」
ヒースさんが言った。
レダさんもトムさんも、笑ってくれた。
頼もしく、温かく俺を支えてくれた先輩冒険者達。
俺は答えた。
「すみません。ひとりでやらないといけない事なんです……。」
本当ははいと答えたかった。
皆のパーティーの仲間として歩けたら、どんなに心強いだろう?
だがそれは出来ない。
「俺は今回、相棒も置いてきました。ひとりでやると決めたんです。」
俺は真っ直ぐに答えた。
迷いはなかった。
ヒースさんはどこかわかっていたようだった。
「そうか……残念だ。」
「サーク……。パーティーに入らないのは残念だけど、私達はずっと仲間よ?何かあったら頼ってね?」
「ありがとうございます。レダさん。」
レダさんが笑ってそういった。
両手を広げてくれて俺たちはハグした。
たくさん教えてくれてありがとうございました。
心からそう思った。
「サーク、ちょっといいか?」
少し離れた所にいたトムさんがやって来てそう言った。
手招きされてついていくと、始めに戦った裏庭の片隅のベンチにトムさんが座った。
俺も隣に腰をおろす。
トムさんは静かに言った。
「俺には、お前が何を抱えてるかはわからん。だが、先輩として一言言いたい。」
「はい。」
「無茶と無謀は違う。今回、お前がしたのは無謀だ。取り返しがつかなくなるヤツだ。」
「はい。」
「お前の中の無力感と焦りがそうさせたんだろうが、それは間違いだ。やったら駄目な事だ。取り返しがつかなくなったら、お前が成さなければならないことは、永遠に成すことができなくなる。」
「はい。」
「事を成すには時間がかかる。その間、数えきれないほどの無力感と焦りがお前を襲うだろう。だが、足掻くことから逃げては駄目だ。お前がそれを成そうと思うなら、なおさらな。」
「はい。」
「ひとりで何でも抱え込むな。人間なんてちっぽけなもんだ。その小さな手に抱えられるもんは、そんなに多くない。」
「はい。」
「まわりを見ろ。お前には頼りないかもしれないが、お前に手を差しのべている人間がいることを忘れるな。いつだって、お前が求めれば、その手は応えてくれるから。」
「……はい。」
トムさんの飾らない言葉が、ささくれた胸に響いた。
俺は胸に詰まっていた重さが急に外れてしまって、止めどなく涙を流した。
馬鹿みたいに泣く俺を、トムさんは何も言わず、大きな手で頭を撫でてくれた。
俺はヒースさん達と別れて、東に向けて旅立つ事にした。
ヒースさんがリスちゃんがリスちゃんが……と呟いていたが全力で無視した。
「お世話になりました。マダム。」
「全く。いい男はすぐにいなくなるから嫌いだよ。持ってきな。」
マダムはそう言って、昼飯を包んで渡してくれた。
マダムとはここで会っただけなのに、昔から面倒を見てもらっているような気分だった。
「ありがとうございます。マダム。」
「何か聞きたいことがあるんじゃないかい?サーク?」
意味ありげな目がじろりと俺を見る。
最初から最後まで、マダムは何でもお見通しなようだ。
俺は苦笑してしまった。
「……竜の谷について、何か情報はありませんか?」
マダムはちらりと俺を見て、タバコをふかした。
白い煙がふわっと漂う。
「ずいぶんメルヘンな事を聞くね?おとぎ話が好きなのかい?」
「ええ、王子様はお姫様を助けに行かないと。」
「王子ね~。」
マダムはそう言ってククッと笑った。
「行ったって話はないよ。どこにあるともしれない、童話の中の存在さ。だが北の方で最近、竜が飛んでいるのを見たって噂が立ったよ。何人かの冒険者が探しに行ったが、誰も見つけなかったし、噂がどこから出たのかも調べられなかった。眉唾だね。」
「……そうですか。ありがとうございます。」
「ま、何かまたおとぎ話を聞いたら、覚えておいてやるよ。童話好きのあんたが聞きに来たとき、話せるようにね。」
「ありがとうございます。マダム。」
俺は笑った。
そして深く頭を下げた。
俺がギルドを出ると、ヒースさん達が商人の馬車と話していた。
レダさんが手招きをする。
「あ!サーク!こっち!!」
「どうしたんですか?」
「この人、東方面の次の町まで行くって!警護を兼ねて乗せてもらえるよう話をつけたから!乗って!!」
レダさんが笑顔で言った。
先輩達は別れる俺の事を最後まで面倒を見てくれた。
その優しさに鼻の奥がツンとした。
「何から何までありがとうございます。」
「いいのよ。また会いましょう、サーク!」
「はい。」
「気をつけろよ?元気でな。」
「はい。トムさんもお元気で。ありがとうございました。」
「リスちゃん……。」
「俺はリスじゃねぇ!じゃあな!」
とりあえずヒースさんは放っておこう。
3人と別れの挨拶を済ませ、俺は商人さんに挨拶をして馬車に乗った。
「いいかい?出して?」
「はい。よろしくお願いします。」
馬車が動き出す。
数日しかいなかったはずなのに、この町を去るのがとても寂しかった。
いい出会いをしたのだ。
そう思った。
「サーク!元気でね~!!」
レダさんが叫んでいる。
トムさんとヒースさんが手を振ってる。
俺は後ろに身を乗り出して手を振り、叫び返した。
「ありがとうございました!!俺!預かってくれたのが!皆さんで良かったです!本当にありがとうございました~!!」
俺の旅の、一番始めの出会いと別れだった。
わかったこと
・マンドレイクはでかい
・見つけるには火で炙ってから探査する
・いきなり触るとヤバい
・叫ぶので言葉を封じる
・仲間を呼ぶので注意
・再生能力がある
・植物系の魔物は火に弱いが使い方を考える必要がある
・ギルドでも竜の谷はおとぎ話
・北で竜の噂があったらしい(血の呪いの竜か?)
・パーティーでの戦闘は思ったよりいい
・無茶と無謀は違う
・ひとりで何でも抱え込まないこと
・俺はリスじゃない
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